「ギャアアアアア!!何これェェェ!!!」

「何してるアルか銀ちゃん。朝からうるさいネ」

「ちがっ、違うの神楽ちゃん!わ、私…」

「銀ちゃん…寝ぼけるのも大概にするヨロシ。いい加減にしないと…」

「オイィィィ!!これどういうことだァァ!視線の高さがすげぇ低い!!」

「貴様ァァ!それは私の背が小さいと言いたいのかコノヤローーー!!!」

「…どういうことアルか、これ」

 

 

 

第117000曲 

 

    強制的視界とりかえっこ

 

 

 

 

とりあえず居間のソファに座って深呼吸していたら新八くんがやってきた。

万事屋メンバーもそろったところで、私たちはお茶を飲みながら状況確認をすることにした。

 

 

「…えーと、今、さんと銀さんは中身が入れ替わってる…っていうことですか?」

「そうみたいヨ。私も朝から何の冗談かと思ったけど、がここまで冗談言うはず無いネ」

若干引きつった顔で言う新八くんに対して、神楽ちゃんは随分と冷静だ。

…まあ、朝からの騒ぎにずっと付き合ってくれてたしなあ。

 

 

「どうすんのコレ…戻らなかったら私一生銀さんってこと…!?」

ずーんとへこむ私の向かい側に座った見た目私の中身銀さんは、自分のっていうか私の髪を撫でていた。

「あー…憧れのサラサラヘアー…」

心なしかうっとりして見える銀さんは、正直なところ…。

「気持ち悪い…」

ちゃん心の声がめっさ漏れてる」

 

 

「だって自分の髪撫でてうっとりしてたら気持ち悪いよ!ていうか足開くな!」

「閉じてんのだりぃじゃん」

はあ、とだるそうにため息をひとつ吐いて足を組む。

 

「ちょっ、組むのはいいけどもうちょっと大人しくして!スカート捲れる!!」

ばしっと机に手をついて立ち上がる。

 

 

「…こりゃ早くなんとかしないと、がストレスで爆発するアル」

「僕としても…なんか、さんが不憫に思えてくる…」

うーんと唸りながら二人は私を見る。

 

「お前ら俺への気配りはゼロ?」

「銀さんはさっきから好き勝手してるじゃん、ひとの体で」

幸か不幸か今日は依頼が入ってないからよかったけど、私の体で乱闘して重症の怪我でもされたら困ったものだ。

 

 

 

「そっか。の体だったな…」

そう呟いた銀さんは手に視線を落としてから、次に胸元へと視線をずらす。

 

「ってうおおおおおおい!!!やめてェェ!なんとなく何考えてるか分かったからやめてェェェ!!!」

ダンッと机を乗り越えて、銀さんっていうか私の両方の手首を掴んでソファになだれ込む。

あれ、私の手首こんなに細かったっけ。…ああ、銀さんの手が大きいのか。

 

 

「銀さん…じゃなくてさん、あのー…」

ふと新八くんの方へ目を向けると、なんだか言いにくそうに頬をかいていた。

どうしたのかと思っていると、代弁するかのように神楽ちゃんがさらりと言い放つ。

 

、その格好だと銀ちゃんがを襲ってるように見えるネ」

 

 

…あ。

「うおおおッ!」

思わず叫んで両手を離し、仰け反る。

「…そーいうハプニングは、やっぱ自分の体でやりたかったなー。俺に襲われても何っとも思わねー」

そう言って私の顔をゆがめる銀さんは、ゆっくりと起き上がった。

 

 

 

 

「とりあえず、どうしようこの状況。病院…っていうのもちょっと合わないよね」

「でも早くなんとかしないと、私銀ちゃんが女の子口調でしゃべってるの気持ち悪くて吐きそうアル」

神楽ちゃんは口元に手を当てて私のほうを見る。

ああ…確かに、この状態で私の口調じゃ気持ち悪いか。

 

 

本当にどうしたものかと思っていると、新八くんがポンと手を打った。

「あ、源外さんの所はどうでしょう?何かいい方法、知ってるかもしれませんよ」

「なるほどな。ま、医者よりはいいか」

顔にかかる髪をぱっと払って、私…じゃないや、銀さんは立ち上がる。

 

 

「さっさと行って元に戻る方法探すぞ、

「うんっ」

 

それはいいけど、外股で歩かないでいただきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

よく考えれば、こんな状態で町へ出るというのは非常に危険なわけで。

いっそすごく知り合いが少なければ何の心配もいらないけど、生憎銀さんはこの町に知り合いが多すぎる。

できるだけ今日は誰にも会わないように、話しかけられないようにしなくては。

 

 

「おーう、万事屋の旦那ァ。今日は一家そろってお出かけですかィ」

私の決意も空しく、茶屋でお団子を食べていた沖田さんに早速捕まってしまった。

 

 

「あ、ああ、まあな」

普段銀さんってどういう風に喋ってたっけ、と思いながら返事をする。

「うるっせーな、今忙し…」

「ッ!!!」

 

思いっきり素で喋ろうとした銀さん、もとい私の腕をぐっと掴む。

一瞬ビクッとした銀さんは、ハッとして言葉を改める。

 

 

「きょ、今日はちょっと忙しいんですよー。だから沖田さんも仕事サボってねーでさっさと働いてきやがれえっ」

あくまで口調は女の子っぽくしてる、けど、ちょっと待て、私そんなこと言わない!…口に出しては!

 

「…、なんか今日キャラ違わねーですかぃ?」

疑いの目を向ける沖田さんに、すかさず新八くんが「気のせいですよ!」とフォローを入れる。

 

 

「ふーん。そうですかィ。…あ、そういえば」

食べ終わった団子の串をお皿に置き、すっと銀さんっていうか私の体の前に立ち、自分の頬を指してにやりと笑った。

「今日はこんにちはのちゅー、してくれないんですねィ。いつもは会うとしてくれるのに」

 

「何だとォォ!?、てめっ、いつもそんなことしてんのかァァァ!?」

「してないに決まってんだろうがァァ!!何あっさり信じてんの!!」

 

 

間髪入れずに叫びあった後、思わず固まる。

 

「へーえ。随分、面白いことになってらァ」

私たちが顔を引きつらせている中、沖田さんただ一人がニヤニヤと笑っていた。

 

 

「ま、普段ならもっと弄ってやるところですけど…特別に見逃してやりまさァ」

「後で見返り要求とかすんじゃねーぞコラァ」

そう言い放ったのは神楽ちゃんで、沖田さんはふんと鼻で笑ってじっと私のほうを見る。

 

 

「ここで仕事サボってたこと、土方さんにチクらねーって約束してくだせェ。今日はそれで見逃してやりまさァ」

その言葉にちょっとだけ拍子抜けしながらも、「それくらいでいいなら、約束するよ」と返した。

 

「…やっぱ、素直な旦那なんて気持ち悪ィんで。さっさと戻ってくだせェよ、

そう言って沖田さんは茶屋のおばさんに「今日の代金、ツケでお願いしまさァ。名義は土方で」と叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからやっとの思いで源外さんの所へたどり着き、状況を説明した。

「はぁ。んな現象聞いたこともねーよ。だが…まあ、アレが使えるかもな。お前らちょっと手伝え」

神楽ちゃんと新八くんを連れて奥へと引っ込んだ源外さんの背を見送り、隣に座る銀さんに目を向ける。

 

 

「今更だけど…銀さんって、背高いね」

「あ?」

いつもは私が見上げて喋ってるのに、今日は見下ろしてる。…まあ、視界に映るのは自分の姿なんだけど。

 

「いや、その、なんかいつもと違うかぶき町が見れて…楽しかった、かも」

「あっそ。そりゃよかったな」

思っていたより素っ気無い返事が返ってくる。

 

 

「銀さんは楽しくなかった?…やっぱり低いのは嫌かコノヤロー」

「すっげぇ根に持ってんのな、それ。…嫌じゃねーけど、なんか物足りないんだよ」

そう言って銀さんは自分の、というか私の髪を一房つまんで弄りながら、ぼそぼそと言葉を紡いだ。

 

 

「ホラ、視界に…お前が、がいねーじゃん」

 

 

ほんのり頬を染めていう銀さんに、一瞬思考が停止する。

それはぜひ、元に戻ってちゃんと”銀さん”から言ってほしかったかもしれない。

 

「…私も、銀さんの姿が見えないのはちょっと寂しいかも」

えへへ、と笑ったところで源外さんの声が聞こえてきた。

 

 

 

「うおーっし、準備整ったぞ。じゃあお前らここ並べー」

目の前にあるのは大きなカラクリ。…なんか、でっかいマジックハンドみたいなのがふたつ引っ付いたカラクリ。

 

「すいません、なんとなく嫌な予感がするんですが」

「オイジジイ。これ無事に戻れるんだろうな。死なないだろーな」

立ちすくむ私たちは神楽ちゃんと新八くんに引っ張られ、所定の位置に立たされる。

 

 

「頑張るネ、銀ちゃん!うまくいけば戻れるアル!」

「うまくいかなかったらどーすんだオイィィ!」

すかさず銀さんのツッコミが入ったけど、そんな声も無視して源外さんはカラクリを操作する。

 

「おーっし、いくぞ。せーのっ」

ポチ、というボタン特有の音の後、私と銀さんは後頭部をマジックハンドに突き飛ばされた。

叫ぶ間もなく私たちは突き飛ばされた衝撃でお互いのおでこをぶつけ、意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…、っ、しっかりするネ!」

さん、大丈夫ですか!?」

二人の声に起こされ、ゆっくりと目を開ける。

 

「あ…頭痛い…前面も後面も痛い…ってあれ、声…」

いつもの、私の声。

ばっと横を見てみると、そこには白目になっている銀さんが倒れていた。

 

 

「も、戻った…!戻れたァァ!」

「よかったヨー!!」

ぴょんと飛びついてきた神楽ちゃんを抱きとめて、いつもの感覚を確かめる。

ああ、やっぱり自分の体がいいわ…!

 

 

喜びに浸りつつ、横で倒れている銀さんを揺すって名前を呼んでいると小さくうめき声が聞こえた。

「う…いてて…なんだこれ、頭割れてねェ?俺の頭真っ二つになってねェ?」

「大丈夫ヨ銀ちゃん。ふたつじゃなくて、みっつになってるアル」

「みっつぅぅぅ!?…ってお?あれ?」

 

がばっと起き上がって自分の体を見渡す。

そして私に視線を向けて、いつもの気の抜けた笑顔になった。

 

 

「あー、やっぱ俺はこの景色が落ち着くわ」

 

そう言った銀さんに、私も、と言って笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

連載ヒロインで銀さんとの魂入れ替わり話というリクエストでした!桜さん、リクエストありがとうございました!

長くなってしまって申し訳ないです。あんまり長いと読んでる途中でダレてしまうのではといつも心配なんです。

もっと色々な人と絡ませたかったんですが、そこまでやるともうプチ連載みたいになりそうだったので、

友情出演は沖田さんだけになってしまいました。あ、源外さんは重要役です。(ぁ

文面だけだと分かりづらいかもしれませんので、是非素敵な妄想力を働かせながら読んでくださいませ!(笑)

それでは117000キリ番おめでとうございます、そしてありがとうございました!

2010/09/01

(掲載なさるときはあとがき消してOKですよー!)