今日も相変わらず仕事がなかった万事屋。
神楽ちゃんや新八くんと遊んで、定春の散歩に行って、そんないつもと変わらない一日。
そんな一日が終わりに近づき、日は暮れていった。
「じゃあ僕らは帰りますね。さん、銀さんの事よろしくお願いします」
「銀ちゃんに襲われそうになったら遠慮なく電話かけてくるアルよ!」
神楽ちゃんは今日、お妙ちゃんの所へ泊りに行くとのこと。
玄関でそんな会話をして、手を振って二人を見送った。
ガララッと玄関の扉が閉まる。
「……」
急に静かになった万事屋に、私のため息が小さくこぼれた。
「うーっし、もうちょっとで風呂入れるぞー…って何してんだ、そんなとこで」
不意に聞こえてきた足音と、この家にもう一人残っている人物の声。
「神楽ちゃんたちのお見送りしてたの」
あれ、あいつ今日は新八んとこか。と言って銀さんはがしがしと頭をかく。
こぼれそうになるため息を抑えて、居間へと歩き出す。
その隣を並んで歩いている銀さんは、じーっと私の顔を見ていた。
「…なに、何か言いたいことでもあるの?」
「いや。なんか、昼間より元気なさそうだなーって」
「気のせいだよ」
そう言って笑ってみたけど、銀さんの眉間に寄ったシワは取れぬまま。
「なんだよ。やっぱ元気ねーじゃん。…あ、アレか、女の子の日か」
「違うよ!!ていうかそれセクハラ!!!」
なんて答えを導いてくるんだ、この人は。
「じゃあ何なんだよ」
「銀さんには分からないような悩みごとですー」
つんと前を向いて歩みを緩めることなく言う。
「やっぱ女の子の」
「違うって言ってるでしょ!!もー銀さんには関係ないことだから気にしないでいいの!」
ぼすっと居間のソファに座りこんで一息つく。
すると銀さんはいつもの定位置じゃなく、私の隣に迷わず腰かけた。
「ばーか。関係あろうがなかろうが、そういう悩みを解決してやんのが万事屋さんだろーが」
ふわりと私の髪を撫でながら銀さんは言葉を続ける。
「の頼みごとなら金とらねーからよ。報酬はからのちゅーでいいって」
「じゃあ相談しないわ」
ばっと立ちあがって銀さんに背を向ける。
「ちょ、冗談冗談!なんもいらねーから!っていうかそれは何、銀さんが嫌いなのか恥ずかしいのかどっち!?」
ぎゅうと手を握って私の歩みを止めてくる銀さんを見下ろし、仕方ないなと思いながら腰を下ろす。
「…ほんとに、相談するほどのことじゃないの」
ぽつりと呟くように声を零すと、銀さんもちゃんと話を聞く体勢になってくれた。
「実際昼間、神楽ちゃんたちと遊んでる時は忘れちゃうくらいの悩みごとでね」
夜になるとその悩みごとを思いだして落ち込んじゃうの、と小さく言う。
一人だと余計にそれが酷くなる。だから、こうして今日は万事屋に泊ることにしたのだ。
「ま、夜はそういう負の気持ちが膨らむ時間だからな」
かぶき町は夜もネオンが光って明るいけれど、今の私にはその光じゃ足りない。
「俺じゃわかんねー悩みごと、なのか?」
「っていうか、私もどう説明したらいいか分からないから…」
とりあえず気持ちを紛らわせようと思ってここにいるだけだ。
「わーった。じゃ、俺がにしてやれるのはこれくらい、か」
「へっ…!?」
何、と尋ねる前に視界がぐらりと傾く。
ぼすっと頬が銀さんの着流しにぶつかった。
「え、ええと…?」
ぱちぱちと瞬きを繰り返す。何が、どうなってんの。
「そういう答えがすぐに出ないような悩みごとは、こうやって慰めてやるのが一番だろ」
頭のすぐ上で銀さんの声が聞こえる。
「もちろん、こんな依頼はからしか受け付けねーけどな」
「っ!」
耳元にかかる息にびくりと肩が震える。
「ちょ、な、慰めるのももうちょっと他の方法でお願いしたいんだけど…」
これじゃ心臓がもたない。ていうか、近い。
「そうだな…」
すっと銀さんは私の肩に手を添えて体を少し離す。
そのまま銀さんの手は私の腕を伝って、両手を握る。
「気が沈まないように抱きしめててやろうかと思ったが…悩みそのものを打ち消しちまうってのも一つの手だよな」
にっと笑って銀さんは私と視線を合わせる。
どきどきと鳴る心臓と、頭の奥底が発する警戒警報が私の中をぐるぐる廻る。
思考が安定しない私を見てふっと笑い、銀さんは口を開く。
「の頭ん中が俺で一杯になっちまえば、悩みも吹き飛ぶよな?」
眩しすぎる貴方の光
(「あわわわ、私お風呂入ってきまぁぁーすっ!」 「ちょ、おいっ………あーあ。逃げられちった」)
あとがき
「悩んでるヒロインを慰める銀さん」というリクエストを頂きました!
悩みごと指定は無かったので、読み手様のご想像にお任せすることにしました。
慰めてるっていうより、誤魔化してるだけじゃね?とも思ったのですが、これが銀さんなりの慰め方ということで。
私としては楽しんで書かせていただけて嬉しかったです。素敵なリクエストありがとうございました!
結城奈津弥様、152251キリ番おめでとうございました、そしてありがとうございました!!
2011/07/23
(掲載なさるときはあとがき消してOKですよ!)