ふわあ、とあくびを教室に入る前にひとつしてから扉を開けて中へ入る。

最初に目が合った新八くんにおはよう、と言うと笑顔でおはようと返してくれた。

 

自分の席に座るとまたしてもあくびが出そうになり、ぐっとそれを噛み殺した。

「随分と眠そうですねィ

右隣の席に座る沖田が頬杖をついたままこっちを見て言う。

 

 

「ははん、さては徹夜でゲームしてたんだろィ」

「あんたとは違うのよ。あたしはちゃんと宿題してて寝るのが遅くなったの!」

鞄から教科書を出して机に収納する。

 

 

「…宿題?」

 

 

ぽそりと呟いた沖田がイスに座ったまま、がりがりと床を足で漕ぎながら近寄ってきた。

「今日提出日でしょ、数学の宿題」

意外と量が多くて昨日は睡眠時間が結構削られてしまったのだ。

 

 

「もしかして、忘れてたの?」

確かに提出日は今日だけど、宿題が出されたのは3日前くらいだ。

いちおう期間はあったから忘れてたとしても持ってくるの忘れたとかそういう…。

 

 

 

なんて思っていたら沖田はすっと肩に腕を回してあたしの顔を覗きこむように見る。

…俺とお前の仲だろ?宿題見せやがれ」

「色々ツッコミたいことはあるけど、とりあえず腕退けてくれないかな」

近い。ひたすら沖田の顔が近い。

 

 

「てめーは朝から何やってんだ」

べし、と沖田の頭に鞄がヒットした。

 

「お、おはよう土方くん」

「はよ」

机に叩きつけられた体勢のまま動かない沖田を放置して土方くんは私の左隣の席に鞄を置く。

ずるりと肩から離れた腕に、少しほっとしていられたのもつかの間。

 

 

「宿題燃えて死ね土方!」

叫びながら沖田はバッとポケットから消しゴムを取り出して土方くんに投げつけた。

「あっぶね!っておま、これ俺のじゃねーか!失くしたとおもったらお前が持ってたのかよ」

「チッ、外しやしたか」

舌打ちをして他に投げるものがないかポケットを探る沖田。

 

 

「物を投げるなっつの。に当たったらどうすんだよ」

ぽんと肩に手を置くようにして土方くんは沖田を制する。

確かに、真ん中に挟まれるのは困ったものだ。

 

 

「つか宿題って今日提出のあれか?」

「うん、そう。あれのせいで今日寝不足で…今の二人のやりとりでちょっと目覚めてきたけどさ」

いつの間にかあくびは出なくなったけど、まだ少し眠気は残っている。

 

 

「そうでさァ。俺には時間がないんで、早く宿題見せやがれ」

「他人に頼るんじゃねーよ。数学は2時間目だ、まだ時間あるから自分でやれ!」

ガッとあたしの手を握りしめた沖田の手を引きはがしながら土方くんと沖田はギリギリと睨み合う。

だから真ん中に挟むのはやめてください、近いんだってば。

 

 

そういえば教科書しまうの途中だったっけ、と思って作業を再開してふと違和感に気付く。

 

 

「あ…うわああああ!数学の教科書忘れたァァ!」

えっあれっなんで昨日鞄に入れなかったの!?宿題のプリントは入ってるのに!

 

 

「おめーほんっとドジですねィ…しょうがねーから俺が教科書見せてやりまさあ。だから宿題」

「お前はそれ見ながら自分でやれ!には俺が教科書貸してやっから」

ぎゅっと右手を沖田、左手を土方くんに握られる。

「や、あの、えっと」

とりあえず教室に人も増えてきたことだし、あんまり目立つ事はしないでください二人共…!

 

 

 

「はいはい、そこの男共。女の子を困らせるんじゃありません」

やる気のなさそうな声が教室の扉が開く音に続いて聞こえてきた。

 

 

 

「銀八先生…あ、おはようございます」

「そんな状態でもおはようっつってくれるはマジ俺のオアシスだわ」

はあ、と一つ息を零しながら持っていた教材と出席簿を教卓に置いて土方くんと沖田の手首に手刀をおとす。

不意打ちに近い衝撃だったせいか、ぱっと二人の手が離れる。

 

 

「ほら、ホームルームすんぞー」

しょうがねえなとでも言いたそうな顔をしながら二人共席についたところで再び教室の扉が開いた。

 

 

何事かと思って扉に目を向けると、高杉さんがホームルームだというのにも関わらずずんずんとこちらに歩いてきた。

「高杉、ちょ、今からホームルームだから。そのあと授業だから」

「るせーな、用が済んだら出てくっつの」

だるそうに白衣を揺らして高杉さんはあたしの目の前で足を止める。

 

 

「え、と…何か御用で…?」

、お前…」

眉間にしわを寄せて高杉さんはあたしの名前を呟き、ぴたりと言葉を止めた。

そのままがっと顎を掴み視線を合わせながら顔を近づける。

 

 

「ちょ、ちょまままま!ストップ!ここ教室!」

高杉さんの手をがしりと掴もうとする前に、それを行ったのは銀八先生だった。

 

 

「おい高杉。俺の大事な生徒になにしてんだ」

その声はいつもみたいな冗談っぽいものではなく、低く威圧感のある声音だった。

 

「銀八。一時間目は国語だったよな」

「は?ああ、そうだけど?」

先ほど投げかけた銀八先生の言葉とまったく関係ない疑問を問われ、一瞬呆けた先生。

 

 

「じゃあちっとコイツ借りてくぞ」

「はい?」

腕をぐいっと掴まれて強制的に席から立たされ、挙げ句ずるずると引きずられるように向かう先には教室の扉。

 

 

「ハァァ!?ちょ、待て高杉!」

 

 

ピシャン。

扉が閉まる音で気付いた時には廊下に引っ張り出されていた。

 

 

 

 

「あ、あの…高杉さん」

「どうせアイツのことだ、一時間目は自習だろ」

廊下を歩きながら、自信を持ってそんなことないと言えない自分にほんの少しの申し訳なさが生まれる。

だって、朝イチの銀八先生の授業ってたいてい自習なんだもの。

 

 

「それに、お前昨日うちに来て宿題やって教科書忘れてっただろ」

「ああああ!そっか高杉さん家に教科書忘れてたのか!」

それで鞄に入ってなかったのか。うん、納得。

 

 

「優しい俺様がわざわざ持ってきてやったんだから感謝しろよ」

「……ありがとうございます!!」

「何だ今の間」

優しい、というところに若干引っ掛かったなんて言ったら恐ろしいことになりそうだから黙っておいた。

 

 

 

 

いつの間にか目の前には保健室の扉。

首を傾げるあたしに構うことなく高杉さんは保健室に入り、歩く速さを落とすこともなくそのままベッドへ直行する。

 

 

「え、ちょ」

ぼすっとベッドに仰向けになるように引き倒され、目を見開く。

 

「な、ななな何をっ」

「クッ、一人前にイイ表情してんじゃねえよ」

高杉さんが笑ってそう言った後、すぐにあたしの視界は真っ暗になる。

目を覆うように被せられている高杉さんの手。

 

 

「眠そうな顔しやがって。どうせ一時間目は自習なんだ、ここでゆっくり寝ていけ」

「そんな…こといっても……」

戻るべきだろうと思うのに、被せられた手の温もりが眠気を誘う。

あ、だめだ。寝そう。

 

 

 

「…おやすみ、

耳元で聞こえた高杉さんの声を最後に私の意識はふわりと夢の中へおちていった。

 

 

 

 

 

おやすみなさいお嬢さん

 

 

 

(「あーもうやる気出ねえから今日自習でー」「毎日じゃねえか!」「あーあ、とんだ伏兵がいたもんでさァ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

「まわりがみんなデレッデレの3Z高杉オチ」というリクエストを頂きました!ありがとうございます!

なんとか甘く甘く…と頑張ってみたのですが、とりあえずデレさせてはみました。

当サイト内では珍しくみんな割と優しく接してくれるお話になり、なんだか書いてて新鮮でした。

菌。様、196691キリ番おめでとうございました、そして素敵リクエストありがとうございました!

2012/08/19

(掲載なさるときはあとがき消してOKですよ!)