かぶき町のお祭りはいつもどれも賑やかだ。

人も屋台も電飾もきらきら輝き、いつもと違ったネオンで町が彩られる。

かぶき町の住人たるもの、そんなお祭りに参加しないわけがない。

 

 

「よっしゃぁ今年もやってきたぞ的屋のおじちゃん!」

「またお前かァァァ!」

台にお代を置きつつ既に戦闘態勢に入る私。

 

「毎年ほんとよくやるわねー」

「ここにこないと私のお祭りは始まりもしないし終わりもしないのよ!」

そう、私はお祭りがあるたびに射的屋へ来ては商品制覇を目指して奮闘しているのだ。

そりゃあ小さい子がいたら譲ってあげたり、取り方教えてあげたりするけどね。

 

 

「ね、おりょう、どれ欲しい?」

「じゃあ、あのウサギのキーホルダーがいいなぁー」

するっと私の腕にすり寄るようにそう言ってくる友人、おりょうはさすがスナックで働くだけのことはあると思った。

こいつ、やりおる。

 

「了解、待っててねー……よっと!」

バンッと良い音と共に、棚に並んでいたキーホルダーの箱を射ち落とす。

的屋のおじちゃんが悔しそうな顔をしながらそれを渡してくれた。

 

「はい、どーぞ」

「きゃー、ありがとう!…これでアンタが男だったらよかったんだけどね」

「うん、そうだね」

なんて言いながら私はまた射的用の玉を詰める。

 

 

「よし、これのお礼に何か飲み物買ってくるよ。どうせしばらく動かないでしょ」

「分かってるじゃん。飲み物よろしく!」

オーケー、と言っておりょうは人の波へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それからお菓子、ぬいぐるみ、アクセサリーと色々射ち落として、私の隣には商品の山ができていた。

しばらくしておじちゃんが屋台裏へ商品を補充に行った頃。

 

 

「君、すごいね。それ全部一人でとったの?」

 

 

知り合いではない人だったから、私に話しかけているのではないと思ったがそうではないようだ。

隣に立つその人は、綺麗な青い瞳でじっと私を見ていた。

 

「え、はい…そうですけど」

「ふうん、なかなかの腕みたいだね。ねえ、あれは取れる?」

そう言って指差した先にあるのは、大振りの華の髪飾り。

 

「あそこはちょっと狙いにくくて…さっき失敗したんですよ。だから今は保留中で」

「構えてみなよ。ほら」

なんなんだこの人。やらざるを得ない状況に戸惑いつつも狙いを定める。

 

 

 

見られているせいか、よくわからない緊張感で手に汗が滲む。

「もう少し銃を上に」

「えっ」

後ろから回された手が私の手に重なり、照準を定める。

なに、なんなのこの人!

 

びくりと身体が震えた瞬間、うっかり引き金を引いてしまった。

バンッという音と共に玉が飛び、外したかと思ったが、コトンという音と共に髪飾りの箱が棚から落ちた。

「うん。見込みはありそうだね」

その人はひょいと台を飛び越えて屋台に入り、落ちた箱を拾い上げて中身を取り出す。

 

 

 

 

「ねえ君。やり残したこと、思い残すことはない?」

 

 

再び台を乗り越えて戻ってきたその人は、箱を開封しながらそう言う。

「は…?そ、そりゃ、色々ありますよ」

「そう。じゃあ2日あげるよ。2日で全部終わらせておいで」

「いやあの、言ってる意味が…」

わからないと告げる前に一歩、私に近づく。

 

 

すっと顔の横に伸びた手に目を閉じると、髪に何かが触れた感覚がした。

恐る恐る目を開けると、目の前にその人の顔があって思わず飛びのいた。

 

「ひゃ、ち、近っ!」

「あはは、これくらいでそんな反応するんだ。面白いね、君」

けらけらと笑いながら私の手を掴み、目を合わせる。

 

 

「2日後、覚えておいて。迎えに行くから」

 

 

それだけ言って、その人は羽織っていた外套を翻して人並みに消えて行く。

私は顔の火照りをそのままに、小さくなっていく背中を呆然と眺める事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから2日後。

特にいつもと変わらない生活をしていたが、心のどこかで引っ掛かるものがあった。

 

「…迎えにって、そんな、どこのホラー映画だって話だよね」

気にしないでおこうと思いながらも朝からずっと気になって仕方がない。

それが恐怖なのか何なのか、自分でもよくわからなかった。

 

「気分転換に買いものでも行こうかな」

確か今日は薬局でティッシュが安かったはず。

私は着替えて身だしなみを整え、鞄を掴み家を出た。

 

 

 

行き交う人も、賑いも、なにもかもいつもと変わらない。

やっぱり考えすぎか、と思って足を進めていた時だった。

 

 

「こんにちは」

 

 

行き交う人の波の中、日傘をさしてにこりと微笑むのは、つい2日前に見たその人だった。

 

「迎えに来るって言っただろ。やり残したことは済んだかい」

問われる言葉が頭に入ってこない。

ただ、なにか、やばい人に目をつけられたということだけは分かった。

 

 

「ひ、人違いです!」

それだけ叫んで私は来た道を再び走り出す。

帰ろう、今すぐ帰ろう。

 

そう思ったのに、その人は瞬間移動でもしたかというくらいの速さで私に追いついてきた。

「待ちなよ。俺だって暇じゃないんだ、逃げるなら手荒な手段を使うことになるけどいいの?」

「よくないですけど!てか早っ…きゃ!」

どんっと肩を突き飛ばされ、日の光が届かない路地へと押し込まれる。

なんとか踏みとどまったものの、これは非常にまずい状態だ。

 

 

「んー、力加減むずかしいな。ほら、早くこっち」

自分の手を握って開いてを繰り返してから、私の手を掴む。

そして、どかっと路地の壁を蹴り壊し、倉庫となっている建物の中へ入り込み階段を上っていく。

 

 

「え、壁ってそんなに脆い物じゃないですよね!?」

引きずられつつ、壊れた壁を振り返る。

「あんなの脆い物だよ。ああ、地球人にはそうでもないのか」

「…あなた、天人…?」

 

私の問いににこりと笑顔で返して、ついに倉庫の屋上へと出る。

 

 

「そう。春雨第七師団団長、神威って言うんだ。君を俺の団に迎え入れるよ」

ぽかんとしたままの私は瞬きを繰り返す。

そのすぐ後に、下からざわざわと人の声がし始め、ゴオオッと人為的な強風が襲った。

 

 

「こういうの地球じゃ何て言うんだっけ、えーと…勧誘?」

「誘拐って言うんですよコレ!!!!!」

 

 

私の声は届いたのか、はたまた突如現れた宇宙船のエンジン音にかき消されたのか。

 

それは今も分からない。

 

ただ分かったのは―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですかこの請求書!またどこかで食べ逃げしてきたんでしょ、見てくださいよこの請求額!」

「え?どの店の話だろうなあ」

「どのって…他所でもやってんのかァァァ!!」

あああ、なんてことだ、この請求額を支払いに行くのは…。

 

「神威、おめーいい加減にしとけっつの。毎回俺が店の野郎に怒鳴られてんだぞ」

深いため息を吐きながら、同じ団員である阿伏兎が項垂れる。

 

「ほら!阿伏兎が可哀想じゃないですか!」

「そう言うけどさ、阿伏兎。お前いつもそのまま地球満喫して帰ってくるよな」

「しっ、してねぇよ!」

ほんとに、と首を傾げる神威団長の笑顔は笑っているのか怒っているのか微妙な表情だ。

 

 

 

 

 

分かったのは、ここでの生活も辛い事ばかりじゃないってこと。

 

いつか地球に帰るその日まで。

もう少し、ここで頑張って生きていこう。

 

 

 

 

 

射的スカウト

 






(「地球に行くなら私も連れてってください」「駄目だよ、行ったらはそのまま残ろうとするだろ」「ばれてる…」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

神威団長で7万打設定の慣れ染め話のリクエストを頂きました!

名前変換がウルトラ少なくて申し訳ないです。

そして団長、それラブロマンスじゃない、ただのホラーだ…!と思いながらもこれが一番しっくりきちゃいました。

7万打設定でまたお話を書かせて頂く機会を頂けて、とても嬉しかったです!

めろ様、267762キリ番おめでとうございました!

2014/11/29

(掲載なさるときはあとがき消してOKですよー!)