「とにかく、気付いたらここに…この世界にいたんです」

「ほんっとにそれしかわからねーのか」

「はい!」

「……そこは自信満々に言うとこじゃねぇだろ…

 

 

 

第5曲 未来は変わるもの

 

 

人気の無い川原で、私と高杉さんは会話を続けていた。

私の、世界の話を。

 

「とりあえず…天人じゃねぇんだな」

「はい!もちろんです、生粋の日本人です!」

ぐっ、とガッツポーズを取ってそう言うと、高杉さんは少し疲れたような目をした。なんでやねん…!

 

 

「記憶喪失にでもなってんのか、おめーは」

「いえ…そういうわけじゃ、ないんですよ。そうじゃなくて…」

 

 

そうじゃなくて。

その先は、口に出すのが怖かった。言ったら、認めてしまう気がして。

薄々、感じてた。私のいた世界のことが思い出せないのは、ド忘れしてるわけじゃ、なくて。

 

きっと、私は、少しずつ…。

 

 

「先を知ってんなら、役に立つかと思ったんだがな」

 

突然そう言った高杉さんの言葉に、はっと我にかえる。

無意識に握り締めていた手の平に、薄く爪の後が残っていた。

 

 

「言っておきますけど、私は未来を知ってるわけじゃないですよ。世界が、違いますから」

「…そうだな。ククッ、未来なんざ俺が変えてやらァ」

 

本当は先のこと、少しだけ知っているけど。

これから、起こることも。

 

……これから?

 

 

 

「あぁぁあーー!!!」

「なっ、なんだいきなり」

「お、お祭り!!」

「は?」

 

忘れかけてた、そういえばこの後カラクリの暴動が起こるんだよね。その前に…。

「思いっきりお祭り満喫しなきゃ!!!高杉さんっ、私はこれで失礼します!」

くるり、と高杉さんに背を向けて走りだそうと一歩踏み出したその瞬間、襟首を思いっきり掴まれた。

 

ぐふぉっ!!…な、なにするんですか」

「……ちょっと待て」

「早くいかないとお祭り終わっちゃいますー!」

ばたばたと暴れてみるけど、がっしりと襟首を掴む手は離れてくれない。

 

「そんなに、楽しみなのか?」

「もちろんです!私の世界とは、違うんですよ。お祭りも…こんな賑やかなの、初めてなんです!」

 

そう言うと、高杉さんは少しだけ考えるように目を伏せて、言った。

 

「…そーか。俺もちょっと用事がある。途中までもうちょっと付き合え」

ぱっと掴まれていた手が離れた反動で少し足がもつれた。

急に離さないでほしいなぁもう!なんて思っているうちに、高杉さんは1人で会場へと歩いていく。

つ、付き合えって言ったのそっちなのに!

 

「ちょ、ちょっとおいていかないでくださいよー!」

叫びながら、私は小走りで高杉さんに追いつく。

 

 

 

 

 

 

「…あの、今更なんですけど、さっきの話…信じてくれたんですか?」

「あまりにも突拍子のない話だが…半分くれぇは信じてやるさ」

 

高杉さんは振り返らず、前を向いたまま歩きながらククッと喉で笑った。

こんな話、信じなさそうな人だと思ってたのに。

話してみて、よかったのかもしれない。

…いつか、銀さんにもちゃんと説明できるといいな。

 

 

 

「ほら、ついたぞ」

いつの間にかお祭り会場は目の前にあった。

 

「あ、えっと、色々ありがとうございました!」

少しだけ頭を下げてお礼を言う。

高杉さんは、すぐに人混みの中へ足を踏み出した。

 

 

「…祭りだけじゃなく、この世界も楽しめよ。

 

 

「…っ!…はい、思いっきり、楽しみますからね、高杉さん!!」

 

その言葉だけ、一言だけを残して高杉さんは人の中に紛れて見えなくなってしまった。

…名前、ちゃんと覚えてくれてたんだ。

それから私の声は届いただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の知っている『未来』が正しいならば、きっともうすぐカラクリの暴動が起こる。

…あ。さっき高杉さんにお祭りでは刀使用禁止です!って言っておけばよかったかな。

銀さん、手、怪我…してる…かな。

 

 

一刻も早く、みんなと合流しなきゃ。

そう思って会場を走り抜けている最中に、遠くに花火が見え、大きな爆音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向かってくる人の波に押されながら、やっとのことで中央舞台へとたどり着いた。

「銀さーん!!」

!おめーどこ行ってやがったんだ!」

「あ、ちょっと…ね!」

あはは、と笑って誤魔化しておく。

 

 

「っていうか…三郎ォォォ!!」

爆発の所為なのか、なんなのか煙でよく見えなかったけど、舞台に横たわるのは三郎の無残な姿。

っていうことは、もうケリついちゃった、ってこと…?

 

「え、ちょ、どんだけやることスピーディーなのよ…」

見たかったんだけど、銀さんと三郎の戦い。

 

 

唖然としてその場に立ち尽くしていると、舞台から降りてきた銀さんが言った。

「ほら、今新八が神楽回収に行ってるから、回収したら帰るぞ」

「あ、うん…って回収かよ

探しに行ってるーとか言おうよ、銀さん。

 

 

「あ、そうだ!銀さん、手!ちょっと手貸して!!」

「うおっ、なんだ!?」

ぐいっと銀さんの左手を引っ張る。

 

 

…あれ、怪我…してない…。

 

 

「どーしたんですかーちゃん」

「あ…ううん、なんでも、ないの」

何度見ても、傷跡は見当たらない。

 

 

「…なんだよ、手ぇ繋ぎたかったのか?」

「えぇっ、違っ、そ、そんなんじゃなくて!!」

「んな否定するこたねーだろうがよ。ま、また迷子になられても困るし、このまま手握ってろよ」

 

そう言って銀さんは私の右手をぎゅっと掴む。

「…迷子になってたのは私じゃなくてそっちだもん」

そう呟いて、私も銀さんの左手を握って歩き出す。

 

 

「………」

 

 

 

「なんでてめーがここにいるんだ、高杉」

「いいから黙ってみとけよ。すこぶる楽しい見せ物が始まるぜ…」

 

「…じーさんけしかけたのは、お前か」

「けしかける?バカいうな。立派な牙が見えたんで研いでやっただけの話よ。ついでにお前のも研いでやろーか」

「てめーなァ…」

 

 

「だが、気が変わった。本気で祭り楽しんでる奴がいてなァ」

「…は、あ?」

「変わった女だ。ククッ、もう少し…幕府潰すのは待ってやろうかと思ってな」

「高杉?」

「だから今回は引く。…が、あのじーさんはもう止まらんだろーよ」

 

 

 

 

 

 

「騒動はあったけど、やっぱり江戸のお祭りは賑やかでいいものだね!…って聞いてる、銀さん?」

「あ、あぁ…。……まさか、な」

「?」

考え事でもしてたのだろうか、銀さんは少しだけ遠い目をしていた。

 

 

「あっ、さーん、銀さーん!こっちこっち!」

「暴れたらまたお腹へったアル。なんとかしろヨ、新八ィ」

「無茶言わないでくれる!?」

 

崩れたカラクリの上に座ってそういう神楽ちゃんと、新八くん。

 

「総悟、テメー今までどこいってやがったんだ護衛サボってんじゃねぇよ」

「結果的になんとかなったんで、いいじゃないですかィ。つーかチャイナ、さっきの決着つけやすぜィ」

「かかってこいヨ、サディスティック野郎!」

 

ぎゃあぎゃあと揉める沖田さんと土方さんを宥める山崎さんと近藤さん。

それに加わる神楽ちゃんを止めようとする新八くん。

 

 

 

「…めんどくせーことになってんな」

「そうだね」

「巻き込まれる前に帰っちまうか、

「帰っちゃおうか、銀さん」

 

 

ふたりで顔を見合わせて、にっこり笑って皆に背を向ける。

「ちょ、何2人で逃げようとしてんですかァァァ!」という新八くんのツッコミを背に私と銀さんは走り出す。

 

 

 

高杉さん、私はこの世界が、皆が好きです。ちゃんと笑って生きてます。

いつかタイムリミットがくるとしても、それまで笑っていたい、楽しんでいたいと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

最後が無理矢理で申し訳ないです。終わり方に悩みました…!

何かと私は高杉さんをヒロインを仲良しにさせたいらしいです。

2008/10/18