「で、土方さんも見たんですかィ?赤い着物の女」
「わからねェ。…だが、妙なモンの気配は感じた。ありゃ多分人間じゃねェ」
「痛い痛い痛い痛い痛いよーお父さーん!」
「絆創膏もってきてェェ!!できるだけ大きな人一人包み込めるくらいの!」
「おめーら打ち合わせでもしたのか!!」
第8曲 どこの学校も怪談話には縁がある
さっきまで倒れていた銀さんは、なんだか元気そうだ。
っていうか、なんか皆楽しそうだね!さっきまでもうちょっと真剣に話してなかったっけ!?
なんて思いながら言い合いをしてる3人を見ていると、隣にいた新八くんが呟いた。
「赤い着物の女か…確かそんな怪談ありましたね」
その一言に、3人とも言い合いを中断して新八くんを見る。
「僕が通ってた寺子屋でね、一時そんな怪談が流行ったんですよ」
私の通ってた学校でも、こういう類の怪談はいくつもあった。
いつの時代、どの世界でも学校関係に怪談話はつき物なんだなぁ。
「で、その怪談ってどんな話なの?」
「えーっと…夕暮れ刻にね、授業が終わった生徒が寺子屋で遊んでるとね、もう誰もいないはずの校舎に…」
思い出しながら、途切れ途切れに話す新八くん。
「赤い着物をきた女がいるんだって。それで、何してんだ、って聞くとね…」
そこまで言ったところで、屯所の中から近藤さんのとてつもない悲鳴が響いてきた。
その瞬間、一番に走り出したのは土方さん。続いて沖田さんと銀さんが走り出す。
おっとしまった、出遅れた!なんて思いながら、私と新八くんは3人の後を追った。
私たちが駆けつけた時は既に遅く、近藤さんは…トイレに頭から突っ込んだ状態で発見された。
「なんでそーなるの?」
そう声に出して突っ込んだのは、銀さんだったけど、おそらく心の中ではみんながつっこんでいた、はず。
「あ…赤い着物の女が…う…う、来る…こっちに来るよ」
さっきから近藤さんはこの言葉を繰り返している。
「近藤さん、いい年こいてみっともないですぜ寝言なんざ」
「沖田さんそれ心配してる言い方じゃないですよ」
「おっとしまった」
なんて言いながら近藤さんの頬をひっぱってみたり首絞めてみたりしている沖田さん。
…心配してないよね絶対!!
今までのことから考えてみて、あの時点で近藤さんを襲えた人間はいない。
つまり、何か得体の知れないものがここにはいるんだ、っていう結論に至った。
「…やっぱり幽霊ですか」
「俺ァなぁ、幽霊なんて非科学的なモンは断固信じねェ。ムー大陸はあると信じてるがな」
銀さんは神楽ちゃんの頭に手を乗せ、私の肩をぽんぽんと叩いた。
「アホらし。付き合いきれねーや。オイ、テメーら帰るぞ」
「銀さん、なにやってんですかそれ」
新八くんが指差した先には、銀さんによってガッチリとつかまれた私の手と、神楽ちゃんの手。
「なんだコラ。てめーらが恐いだろーと思って気ィつかってやってんだろーが。な、」
「いや、別に」
私はこの先どうなるか知ってるし。
「…。…神楽、おめーだって」
「銀ちゃん手ェ汗ばんでて気持ち悪いアル」
開け放たれた戸から、ひゅうと冷たい風が吹いた。
「あっ、赤い着物の女!!」
あ、ユーフォー!みたいなノリで叫んだ沖田さんの声と同時にガシャンという音を立てて押入れに飛び込む銀さん。
「何やってんスか、銀さん?」
「いや、あの、ムー大陸のの入口が…」
押入れに入ったまま、顔だけこっちを向けて言う。
「旦那、アンタもしかして幽霊が…」
「なんだよ」
続きを言うなといわんばかりの声に、沖田さんは視線をそらして土方さんを探す。
「土方さん、コイツは…アレ?」
さっきまで横にいたはずの土方さんは、部屋の隅にある大壷に顔を突っ込んでいた。
「何してるんですか土方さーん」
「いや、あの、マヨネーズ王国の入口が…」
このとき、私と新八くんと神楽ちゃん、そして沖田さんが思ったことはおそらく同じ。
…こいつら絶対幽霊恐いんだ!!
思わず表面に出てしまった冷ややかな目を見て、銀さんと土方さんは口々に叫ぶ。
「待て待て待て!違う!コイツはそうかもしれんが俺は違うぞ!」
「びびってんのはオメーだろ!俺はお前、ただ体内回帰願望があるだけだ!」
お互い相手を指差しながら揉める。
なんていうか低レベルだなオイ!
「ほら、もムー大陸行ってみたいだろ?」
「そんな所よりマヨネーズ王国の方がぜってー良いぞ!」
「え、そんな振り方されても困るんだけど」
っていうか正直なところどっちも行きたくない。
というか今から違う世界へ行ったら、私二重トリップだよ。
「おめーら困らせてんじゃねーヨ。2人で勝手に好きな国行けばいいアル」
ハッ、と鼻で笑うのを付け加えて神楽ちゃんは2人に向かって言い放つ。
「「なんだそのさげすんだ目はァァ!!」」
息ピッタリ、と言えるほどに同時に叫んだ二人…の後ろの襖を見てふと思う。
「…沖田さん」
「何でィ、」
「あそこの襖、さっきピッタリ閉まってませんでしたっけ?」
そう私が言った瞬間、襖を見ていた私と沖田さん、新八くんと神楽ちゃんの表情が凍りついた。
「驚かそうったって無駄だぜ。同じ手は食うかよ」
そう言った銀さんの声は、するりと耳を抜けていく。
「「「「ぎ、ぎゃああああああ!!!」」」」
同時に叫んで、私たちは銀さんと土方さんを残して走り出す。
部屋を飛び出して、廊下に足音を響かせて猛ダッシュする。
少し遅れて、銀さんと土方さんの叫び声も聞こえてきた。
「みっ、みっ、見ちゃった!ホントにいた!ホントにいた!」
「やばい、生で見るのはやっぱり恐い!!」
戸に一番近い場所にいた私を先頭に、叫びながら走る。
「銀ちゃあぁん!!」
「奴らのことはもう忘れろィ、もうだめだ!」
どこか逃げるところは、と思ったとき目の端に物置小屋が映った。
「あっ、あそこ!あそこに非難しよ!!」
靴も履かずに外へ飛び出して、小屋へ向かって走り、扉に手を伸ばす。
扉に手をかける寸前で、無意識に、ぴたりと手が止まる。
「…あ、れ?」
でも、開けなくちゃ。逃げなくちゃ。
小刻みに震える手を扉にかける所まではいったけど、そこから手は動いてくれない。
どうして、開けないの?それとも、開けたくないの?
…なんだろう、前にも、こういう扉を開けて…それから…?
何かを記憶の底から引っ張り出そうとしていた瞬間に響いた沖田さんの声で、現実に頭が引き戻される。
「何やってんでィ!!開けやすぜィ!」
「あ…は、い!」
私の手の上から戸に手をかけて勢いよくガララッと扉を開けて、私たちは小屋の中へと飛び込んだ。
あとがき
名前変換少ねェェェーー!!(ぁ
なんとかして最後の部分を入れたかったのです。
2009/01/07