「やられた。今度こそやられた」
「しめたぜ。これで副長の座は俺のもんだィ」
「言ってる場合か!」
「、銀ちゃん死んじゃったアルか?ねェ死んじゃったアルか」
「あー、生きてるんじゃない?一応」
第9曲 狭いところは火気厳禁
真っ暗な倉庫の中、私たちは銀さんと土方さんが生きてるか死んでるか話をしていた。
「ってなんか煙たい!!」
「あ、コレですかィ?」
「なんでこのタイミングで蚊取り線香?って寄せるな!こっちもってくるな!煙たい!」
ずいっと突きつけられた蚊取り線香の束をぐいぐいと押し返す。
「ところで。おめーさっき何でさっさと扉開けなかったんですかィ」
「うーん…それは…」
そう、さっきから引っ掛ってるのはそれなんだ。
何で、躊躇ったんだろう。
何を、思い出しかけたんだろう。
もやもやする。…目の前ももやもやする。
「おいィ!困ってんだろーがー!」
黙り込んでしまった私を庇うように前に立つ神楽ちゃん。
な、なんつーいい子…!
「うるせぇチャイナ。今おめーと喋ってる場合じゃねーんでィ」
デコピンから発展して、ついに揉み合いになっている2人。
君たち、どこにいても緊張感とかサッパリないね!!
「、ちょっとこれ持ってなせェ」
手渡されたというか、押し付けられた蚊取り線香の束。
「いや、いらないから!それより落ち着け!」
「さんの言うとおりですよ!狭いんだから、暴れないで…」
言いながら前を向いた新八くんは、一瞬動きが止まった。
かと思うと、突然大絶叫した。
「ぎゃあああああああ!!!でっ、でで出すぺらァどォォォ!!!」
「どどどどうしたの新八くん!ついにツッコミ疲れで気が狂った!?」
「違う!違います!そそそそれよりとにかくさんも謝って!ほらァァ!!」
しっかり反論してくるあたり、さすが新八くんだ。
なんて思っていると、新八くんは神楽ちゃんと沖田さんの頭を物凄い勢いで床に叩きつけて、扉に向かって謝り始めた。
…ああなるのは、勘弁だな。
「すんまっせん!ほんと靴の裏でも舐めますんで!」
「私はそこまでしませんけど、とりあえずすんまっせん!」
一通り謝りとおした後、私は新八くんに連れられて屯所のほうへ走っていた。
「ね、どこ行くの!?」
「赤い着物の女にやられたっていう人たちのところ、です!」
私の手を掴んだまま走る新八くん。
今日の新八くんは、床に頭叩きつけたり、謝らせたり、手引っ張ったり、えらく強引だなーなんて思っていた。
そういえば、置いてきてしまった神楽ちゃんたちは大丈夫なんだろうか。
…まあ、あの2人なら、大丈夫かな。
「やっぱり…幽霊にやられた人はみんな一様に、蚊にさされたようなキズがある…」
「っていうことは、さっきのは…」
新八くんは、続きを言わなくてもわかってるというように、こくりと頷く。
「じゃ、真相も判明したことだし。私は伝えて来ますかね」
「え?」
立ち上がった私を見上げて、疑問の声を上げる。
「今、幽霊もどきと揉めてる銀さんと土方さんに伝えてこようかなーって」
「2人がいる場所、わかるんですか?」
「そこは…勘!新八くんは、神楽ちゃんと沖田さんをお願いね!」
「銀さーん、土方さーん」
池のある庭で2人を呼ぶ。
多分このへんだと思うんだけど…。
きょろきょろと周りを見回していると、人影が見えた。
「あれは…銀さんかな。銀さーん!」
大きく手を振ってみると、向こうも気付いたらしく手を振り替えしてくれた。
小走りで駆け寄っていくと、銀さんと、横になった土方さんと伸びた幽霊が倒れていた。
「、これどーなってんだ?」
「幽霊じゃなかったんだよ。たぶん、この人は地球で言う蚊の天人…かな」
天人、という単語を出した瞬間に銀さんがぴくりと反応した。
「だーよな!幽霊なんざいるわけねぇもんな!!」
「……」
可愛い人だな、なんて思ったことは秘密。
とりあえず土方さんを起こさなきゃ。そう思って私はゆっくりしゃがんだ。
相当な衝撃をうけたのか、眉間にしわを寄せたまま倒れている土方さんの頭を膝に乗せる。
「ひーじかーたさーん」
ぺちぺち、と頬を叩いてみるけど、唸るだけで目を開かない。
「土方さん、早く起きないと……えーと…」
…どうしよう。早く起こすには何が効果的なんだろう。やっぱりマヨネーズの危機?
えぇっと、と呟きながら悩んでいると、上から銀さんの声がした。
「3秒以内に起きねーと、蹴り飛ばす。はい、いーち、にー、さん!!」
3秒待ってないよね今の!3秒目で蹴ったよね!と突っ込む間もなく、私の膝から土方さんの頭が消えた。
…サラサラヘアー、もうちょっと堪能したかったんだけどなぁ。
「痛ェなオイィィ!何すんだてめっ」
結果オーライというべきか、やっと起きた土方さんは頭をさすりながら銀さんに食って掛かる。
「うるせー。なんかむかついたんだコノヤロー」
「わけわかんねーんだよテメーは!って、なんでここにいるんだ?」
「気付いてくれてありがとうございます。事情説明に来たんです」
このまま気付かれないかと思ったよ。
そして、みんなが起きてから私と新八くんで天人についての話をした。
天人については、沖田さんが何とかするらしい。
ちょっと心配だ。…天人の方が。まあ、多分、大丈夫だよね。
「さーてと、そろそろ帰ろっか」
「ふあぁ、私眠いヨ…さっさと銀ちゃん呼んで帰るアル」
新八くんは一足先に門へ行ってるから、あとは銀さんだけ。
「銀さん、そろそろ帰…」
がらりと縁側の戸をあけると、銀さんと土方さんは二人揃って縁の下に頭を突っ込んでいた。
「何やってるアルかふたりとも」
「「いやコンタクト落としちゃって」」
神楽ちゃんの後ろで、私は笑うのを堪えるのに必死だった。
倉庫で感じたもやもやは、いつの間にか忘れてしまっていた。
あとがき
幽霊天人編、終了でございますー!
詰め込んだ感がたっぷりで申し訳ないです。
2009/01/24