「うぎゃあああ寝坊したァァ!!」

「あ、おはようございますさん」

「おはようアルー!」

「あっおはよう新八くん!神楽ちゃん!ってそれどころじゃないや!仕事遅刻するー!!」

 

 

 

第10曲 悩み事相談人

 

 

 

 

うっかり寝過ごしてしまった。

今日は朝からスナックすまいるでのお仕事が入ってるのに!

 

「…ってあれ、銀さんは?」

「さっきモンスターに拉致られてたアル」

「モンスター?」

 

顔を洗いながら、天人とは別にそんなものまでいたっけ、と記憶をたどる。

タオルで顔を拭いていると、朝ごはんを持ってきてくれた新八くんが説明してくれた。

 

 

「このかぶき町には、四天王がいるんだけど、そのなかの1人、マドマーゼル西郷に連れていかれたんですよ」

あぁ、あのオカマバーの人!

ということは、今頃銀さんはパー子になってるわけか。

…ちょっと見てみたい気もする。

 

なんて思っているうちに時間は迫ってくる。

「ごちそうさまっ!じゃ、行ってきます!!」

「いってらっしゃいヨー」

手を振る神楽ちゃんと、箒を片手に持った新八くんに見送られて私は万事屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までに巻き込まれた事件のおかげか、少しだけ体力がついたのだろう。

全速力で走ったらギリギリ遅刻はしなくて済んだ。

 

「はー、はー、お、遅れ、ましたっ」

「とりあえず息落ち着かせなさい、ちゃん」

言いながら背中をさすってくれるお妙さんにお礼を言いながら、私は身だしなみを整えた。

 

 

 

 

 

 

そうして仕事も終わりの時間。今日の仕事は午前だけ。

お昼も近づき、お客も減ってそろそろ終わりかな、と思ったとき。

 

ちゃん、指名入ってるけど…どうする?」

おりょうさんにこっそり耳打ちされて、入口を見る。

 

 

「……あ、れ?」

なんだっけ、あの派手な着物…見覚えが、あるような、気がする。

編み笠を被ってて顔はよく見えないけど、あれ、絶対、高杉さん、だよ。

 

…ってこんなとこにいていいのか指名手配犯!?

 

 

 

「あ、あの、あのお客さんの相手して今日の仕事終わります!」

「そう?なんか顔良く見えないし、危なかったら蹴り飛ばして逃げていいからね

「…はい」

このスナックは、色々な意味で恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

隅のほうに席を取って座る。

「…あ、の」

「久しぶりだなァ、

編み笠を取ったその人は、やっぱり、予想通りの人だった。

 

 

「なんでこんなとこにいるんですか!」

「その台詞そっくりそのまま返してやらァ。何でこんなとこで働いてんだ」

うぐ、と言葉に詰まる。

「そりゃ、まあ……」

 

 

「銀時からは給料出ねーのか」

 

 

「そうそう、だから私が働かないと家賃すら………え?」

 

いま、何を、聞かれた?

 

「ククッ、おめー考えてることがすぐ顔に出るな。何で知ってるんだ、って顔してるぞ」

押し殺したように笑いながら高杉さんは言う。

「少し調べたんだ。お前が…が、本当にこの世界の人間じゃねぇのか」

「っ!!」

 

ぞくっと背筋が冷えた気がした。

大分この世界に、かぶき町に馴染んできてはいるものの、やっぱり私は、違う世界の人間なんだ。

そう思うと怖くなる。

何が怖いのかはわからないけれど、異色なんだ、と思い知らされた気がした。

 

 

 

「…確かに、お前は最初からはこの世界に存在しちゃいなかったみてーだ」

膝の上で握った手に力が入る。爪が、手のひらに食い込む。

 

「だが、今現在お前はここに存在してんだ。そんな不安そうな顔してんじゃねーよ」

ぽん、と私の頭に乗せられた手は、思っていたよりも優しかった。

 

 

「…不安、ですよ。いくら時を重ねても、私はこの世界の人間じゃないんですよね」

からん、と机に置かれたグラスの氷が溶けていく。

 

「あはは、やっぱり気持ち悪いですかね、違う世界の、人間なんて」

「んなこたねーよ」

間髪いれずに答えが返ってくる。

 

 

「もうはこの世界…いや、かぶき町の住人なんだろ」

「……」

こくり、と1度うなずく。

 

 

「あとはお前がここにいたいか、いたくねぇか、だ」

 

…いつか、元の世界に帰る日が来るのだろうか。

それとも、ずっとこの世界にとどまり続けるのだろうか。

 

私は、どうしたいのか。

 

 

「私は……ここにいたい。ここで生きていたい」

元の世界に残してきたものに不安はあるけれど、こっちにも大切なものが出来すぎた。

すぐに帰ることは、できない、したくない。

 

 

「なら、祭りの時みてーにしっかり楽しみゃいい」

頭に置かれいた手が、私の頬を撫でてから離れていく。

うん、と小さくこぼして私はうなずいた。

 

 

 

「あの…このこと、銀さんにはまだ言ってないんです」

「あ?」

「怖いんです。変な子だ、って思われるのが。話しちゃったら、今までみたいにはいられない気がして」

今、銀さんに軽蔑のような感情の目で見られたら、私は寂しくて悲しくて、どうしようもなくなるだろう。

 

 

「…あいつなら、そうは思わねーだろうがな」

「高杉さん?」

ぼそり、と呟くように言われた言葉。

 

 

「まあ、これだけ天人がいる国なんだ。異世界人ってことくれぇ、どーってことないだろーよ」

編み笠を被って、立ち上がる。

 

「あとはの好きなタイミングで言えばいい」

未だに座ったままの私に、高杉さんは机に手をついて耳元に顔を寄せて言った。

 

 

「もしアイツに捨てられたなら、俺が拾ってやるよ」

 

 

「な、っ……」

ばっと耳を手で覆うと、ククッと笑いながら高杉さんは立ち上がった。

「相談ならいつでも聞いてやる。特別に、な」

 

そう言い残して、彼は机に札束を置いて、店を出て行った。

 

 

 

…ってちょっと待ってどこから出てきたのこのお金!!!

あわてて店を出て辺りを見回してみたけれど、もうその姿は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お礼、言いそびれたなぁ。

なんて思いながら万事屋への帰り道を歩く。

息のかかった耳が未だに熱いような気がして、時折手をあてながら歩いていると、どん、と人にぶつかってしまった。

 

 

「あ、すみません!」

慌てて頭を下げて謝る。

「いや、かまわん。こっちも道の真ん中で立ち止まっていて、すまなかったな」

 

顔をあげると、凄く綺麗な人が………あれ。

 

 

「おいヅラ、さっさと戻って……げ」

思いっきり顔を引きつらせたのは、いつもの天パにツインテールが追加された銀さんだった。

ということは。

 

「か…つら、さん?」

「あぁ、か。久しぶりだな」

悠長にあいさつをする桂さんと逆に、銀さんは慌てて口を動かす。

「違う!違うんだ、これは、その、ちょっと巻き込まれてやってるだけで、こういうのが趣味なわけじゃ…」

 

 

「………がする」

?」

「何だかものすごく負けた気がするーーーー!!!!!」

 

 

ぽかーん、としている2人を置いて、私は万事屋への道を走り出した。

可愛かったんだ、綺麗だったんだ!!

私は、なんだか、女として負けた気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

オリジナル話と若干の原作沿い。

高杉さんはいい人なんだかそうでもないんだか、よくわからないポジションです。

2009/02/26