「曲者ォォ」

「逃げたぞ!追えェェ!」

 

「…しくじったか。仕方ない、出直す…」

 

 

 

第11曲 目は口程にものを言う

 

 

 

「おはよーございまーす」

遠くで、新八くんの声が聞こえた。

そっか、もう朝なんだ。起きなきゃなぁ…。

 

 

「って、ちょっと!さん!?」

頭の上から、新八くんの焦ったような、少し裏返り気味の声が聞こえる。

 

「んー…ふあ…」

…あれ、布団が無い。

っていうかここって、居間のソファ?

 

 

「あれ!?私…あ」

そうだ。今日は珍しく寝起きが良くて、早めに起きたんだ。

そんで皆を待ってるうちにまた寝ちゃった、と…。

 

「ししし新八くん!わ、私はその、早く起きたんだけど、皆を待ってるうちに、その、つい」

「それより早く顔洗ってきてくださいっ」

慌てて弁解しようとする私の声をさえぎって新八くんは言う。

 

 

「…ハイ」

なんというか、とてつもなく恥ずかしい。

視線をそらして言われたところ、もしや、今の私の顔は相当酷いんだろうか。

…寝起きだから、ちょっと、乱れてるだけだと、信じたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふうー…」

和室の方から聞こえる、新八くんの銀さんと神楽ちゃんを起こす声を聞きながら顔を洗う。

ざば、と冷たい水を最後にもう1度顔にかけて、タオルで拭く。

 

「うん、これなら大丈夫っ!」

それにしても恥ずかしい。今度は気をつけなきゃなぁ…。

 

タオルを洗濯かごに放り込んで、ふう、と息をつくと神楽ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。

ー!大変ヨ!早くこっち来るアルー!!」

 

 

 

 

 

部屋に戻ってみると、和室の前で手招きしている神楽ちゃんが見えた。

「どうしたの神楽ちゃん?すごい寝癖がついてるよー」

あはは、とパワフルに跳ね上がった髪を撫でながら言う。

さんもですよ」

「マジでか」

なんか今日は新八くんに駄目なところばっかり見られている気がする。

 

 

 

「それより!銀ちゃんがストパーネ!!」

「ストパー?」

ストレートパーマのことだろう。

なに、一晩のうちに銀さんがサラサラヘアーに変わったのか。

 

 

「!!駄目です!!見ちゃ駄目です!!」

ばっ、と和室の襖の前に立つ新八くんの顔は、心なしか赤い。

 

「どくアル新八!お前だけ面白いもの見ようったってそうはいかないネ!」

「面白くない!面白くないから、見るな!さんも神楽ちゃん止めて!!」

「え、でも見たいよ。銀さんのストパー」

っていうかこんな感じの話、あったような…えーと。

 

 

なんだったかな、と悩んでいると、バンッと勢いよく神楽ちゃんが襖を開けた。

 

襖から覗いた先の和室に見えた光景は、眠る銀さんの上に乗る忍者の服を着た女の人。

 

 

 

 

 

 

 

唖然とした顔で見る神楽ちゃんと、見てはならぬものを見てしまった、という顔の新八くん。

そして、銀さん寝相悪っ!というこの場に非常に合わないことを考えている私の視線を浴びて、銀さんは目を覚ます。

 

「うーん……ん?」

 

 

おはよう、なんて声は、誰からも出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、誰この人」

「アンタが連れこんだんでしょーが」

銀さんの横に座ってひたすら納豆を練り続ける女の人を見ながら言う銀さん。

それに冷静に…というか冷たい視線を送りつつ言う新八くん。

 

 

「昨日は…あ、だめだ。飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ」

 

しまった、こんな展開になるんだったら和室に一晩張り込んでいればよかった。

なんで昨日は居間で寝てしまったんだ私!!

せっかく、さっちゃん…であろう、忍者服を着た人とお友達になるチャンスだったのに!

 

 

なんてことを1人考えながら朝ごはんを食べていた。

「…あのー、俺何も覚えてないんスけど、何か変なことしました?」

「いえ何も」

控えめに尋ねる銀さんに、女の人は短く答える。

 

 

「そーかそーか、よかった。俺ァてっきり酒の勢いで何か間違いを起こしたのかと」

「夫婦の間に間違いなんてないわ。どんなマニアックな要望にも私は応えるわ」

 

 

「…え?何?夫婦って」

目が見えていないのか、さっちゃんに練った納豆を銀さんの目に押し付けられながら疑問の声を上げる。

 

「責任とってくれるんでしょ。あんなことしたんだから」

 

 

その一言に、私と神楽ちゃんと新八くんの間に冷たい風が吹いた気がした。

 

「…銀さん、やっちゃったもんは仕方ないよ。認知しよう」

「結婚はホレるよりなれアルヨ」

「給料は食費に消えてるから、お祝儀は期待しないでね」

 

「オメーラまで何言ってんの!みんなの銀さんが納豆女にとられちゃうよ!」

3人から冷ややかな視線と諦めの言葉を受けた銀さんが叫ぶ。

 

「ほら、も嫌だろ!銀さんいなくなっちゃうよ!」

「銀さんが結婚した場合…結局住むのってここだよね。うん、大丈夫!」

「何が大丈夫かサッパリだよちゃん!!」

ぐっ、と箸を持った手の親指を立てて笑う私に泣きそうな目で叫ぶ銀さん。冗談なのに。

 

 

 

「ところで、あの、名前なんて言うんですか?一緒に住むなら名前くらい知っておきたいし」

「そこからはなれようよちゃん」

そろそろ銀さんをからかうの、やめておこうか。

 

 

 

「…猿飛あやめよ。さっちゃんでいいわ」

「私、!よろしく、さっちゃん」

そう言って握手する。

にっこりと笑ってくれたさっちゃんは、凄く綺麗だった。

 

 

 

「なかなか肝据わってるアルな

「この状況でいつもと対応が変わりませんからね…」

その間に、こんな会話が進んでいたことを、私は知らなかった。

 

 

「って馴染んでる場合じゃねーよ!」

銀さんがそう叫んだ瞬間、プルルル、と万事屋のものではない電話の音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

あとがき

どこで切ろうか悩んだ結果、中途半端な終わり方になりました。

さっちゃんとはお友達になりたいヒロイン。割とマイペースみたいです。

2009/03/08