「よし、あの女が電話してる最中にもう1回考えなおすぞ」

「そうですね。まず式場の予約ですか」

「ごちそうは出るアルか?」

「そもそも結婚式だったら正装だよね。私、服無いんだけど」

「そっちの考えなおすじゃねェェェ!!!無実!俺何もしてねぇっつーの!!」

 

 

 

第12曲 女同士の談話会

 

 

 

さっちゃんが玄関の方で電話をしているうちに、私たちは居間で話し合いをしていた。

まあ、主に冗談なんだけどね。

多分みんなわかってやってると、思う。顔が笑ってるもん。

 

 

 

 

 

苦々しい顔で玄関から歩いてきたさっちゃんに、銀さんが落ち着いた声で言う。

 

「オイ。…腹くくったよ。俺も男だ」

普段みたいなちゃらけた声音じゃなく、静かにそういう銀さん。

 

「こんな俺でよかったらもらって下さい」

 

 

…それ、男の方の台詞としては違うんじゃないの?

なんて思いながら、私は無意識に手を心臓の上へと運ぶ。

ずきり、と一瞬重い痛みが走った気がした。

 

 

 

 

 

「さっちゃんさん!待って待って、コレ眼鏡ありましたよ!」

呆然と、玄関を眺めていた私の横を、和室で新八くんが探していた眼鏡が勢いよく飛んでいくのと、

さっちゃんが銀さんの腕を掴んで家を出て行くのは同時くらいだった。

 

 

「……いって、らっしゃい」

 

 

声に出たのか出てないのか分からないくらいに小さく紡がれた言葉は、誰にも届かずに消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「新八ィー、ー!!ちょっとこっち来るアルー!」

神楽ちゃんが呼ぶ声に、我に返った。

あれ、なんで私こんな、頭真っ白になってんだろ。

 

この先は知ってるのに。どうなるか、分かってるのに。

なんなんだろう……不安、なんだろうか。

 

「…ちゃんと帰ってきてね、銀さん」

 

ぽつりと扉に向かって呟いてから、足早に和室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

「どしたの?」

「アレ」

神楽ちゃんが指差したのは天井。

そこには、ぼっかりと大きな穴があいていた。

 

「…この穴いつからあいてたの?」

「さっちゃん…空から落ちてきた天女かも」

「っていうかこれ塞がないと雨漏りするねぇ」

苦笑いで言った私に、新八くんも苦笑いで「修理しなきゃ、ですね」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は銀ちゃんが好きアルか?」

「ブッフォ!!」

突然の言葉に、思わず飲んでいたお茶が飛びそうになった。

今は修理作業の休憩中。

 

 

「な…なに、どーしたの、いきなり…」

「まあまあ、気にしないで答えるヨロシ」

ぽんぽんと私の肩を叩きながら言う神楽ちゃん。

 

 

「えぇー…うん、まあそりゃ好きだよ」

「じゃあ、新八は?」

「ゴフッ!!」

今度は新八くんが飲んでいたお茶が飛びそうになった。

 

 

「新八くんも好きだよ」

気が利くし、優しいし。実際、周りが強烈すぎるだけで、美形部類に入ると思うし。

「…じゃあ真選組のやつらも、好きアルか?」

「好きだよ。土方さんも沖田さんも山崎さんも、近藤さんも。いい人たちだと思うし」

 

 

微笑みながらそう答えていくと、神楽ちゃんはソファに背中を預けて呟いた。

「…こりゃ男共は大変アルな」

「何が?」

は知らなくていいネ。むしろ、あんな駄目人間どもにははもったいないアル」

ふー、と息を吐きながら言う神楽ちゃん。

新八くんはまた席を立って、修理のために和室へ入っていった。

 

 

 

 

「さて、新八も行ったことだし…たまには女同士で話でもするアル!」

妙にニコニコと笑いながら神楽ちゃんは私のほうを向く。

 

 

「ね、は今好きな人はいるアルか?」

嬉々として聞いてくる神楽ちゃん。

「今はいないよー」

そういう、好き、な人はいない。友達としてなら、たくさん、できた。

 

 

「じゃあ昔はいたアルか?」

「昔…」

どうだっただろう。

この世界に来る前に付き合っていた人はいない。けれど、その前は?

頭にもやがかかったように、思い出せない。

 

 

 

「さあ…どうだったかなあ。…神楽ちゃんはいないの?好きな人」

「糖分男に眼鏡、マヨラにドS…私につりあうような男はいないヨ」

ふっ、と自嘲気味な息をつく神楽ちゃん。どこで覚えてきたんだ、そんな仕草。

 

 

それにしても、懐かしい。

よく学校で放課にこうやって友達と恋話をしたものだ。

…よく、話していた。

 

 

…誰と?

 

 

 

思い出せない。

名前も、声も、顔も。

なんでなんでなんで、どうして。

 

 

 

 

「…、?」

「えっ…?」

いつのまにか俯き加減になっていた顔を上げる。

 

「どーしたアルか?顔色…よくないネ」

不安そうな顔で尋ねる神楽ちゃんにできる限りの笑顔で、大丈夫だよ、と答える。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、神楽ちゃんは、地球へ来るの…不安じゃなかった?」

「不安?」

「家族とか皆おいてきちゃって…寂しいとか、不安とかなかった?」

質問を繰り出すと神楽ちゃんは少し悩んでから、笑って言った。

 

 

「最初はちょっとだけ不安だったアル。でも今はや銀ちゃんや…あと新八もいるから、平気ヨ」

ソファに座って、足をぱたぱたと動かしながら笑顔で言う。

 

「それに、私の家族も大丈夫、心配なんていらないアル。きっと向こうでちゃんとやってるネ」

「…そっか。そうだよね、向こうもちゃんと…やってるよね」

 

 

言いながら、家族の顔を思い浮かべる。

今はまだ、思い出せる。

 

 

 

けれど、もしも、家族まで、思い出せなくなってしまったら。

 

その恐怖が、どうしても心の中から、消えてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

中途半端な終わり方二連発。すいません。

女の子同士の語り合いの回でした。ヒロインの「好き」はまだ友情の「好き」レベルです。

2009/03/20