さん、朝ですよ」

「ん…む、あと5分…」

「朝ごはんが冷めてしまいますよ」

「うあー……朝ごはん……!?」

 

 

 

 

第2曲 身長変化、中身不変化?

 

 

 

 

がばっ、と布団から起き上がる。

あまりにも勢いよく起き上がった所為で、くらりと目が回る。

「っと…大丈夫ですか?」

 

そっと背中に手を回して体を支えてくれる、松陽先生。

……って、そういえば、ここ万事屋じゃないんだったァァァ!!

「ぎゃ、ぎゃああ!ご、ごめんなさい!5分とか言ってすいません!起きます!すぐ起きます!!!」

ばたばたと立ち上がって布団をたたむ。

ひええ、と慌てる私の背中には、おそらく松陽先生のものであろう暖かい視線が注がれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

タダでお世話になるというのも気が引けるので、とりあえず掃除を始めた。

子供達は、まだ来ていないようで、塾の中はしんと静まっていた。

 

 

がら、と襖をあけると多くの机が並んだ部屋があった。

「わ…ここ、多分授業やるとこだよね…」

ふわりと漂う畳の香り。

そんな部屋の中で雑巾を片手に、机を拭いていく。

 

 

「…ん?」

机を拭いていると、隅の方に落書きがあった。

「何て書いてあるんだろ。……えーと…あんみつ食べたい。…え?」

あんみつ?

 

疑問の声を上げていると、不意に背中に影がかかった。

 

「あんた、誰?」

 

ふ、と振り返ったそこにいたのは。

「………!!!」

「な、なんだよ。人の顔みて絶句ですかコノヤロー」

 

口ぶりこそ今のままだけど、視線は私よりも低い。

でも、この子は、明らかに。

 

「なんだ銀時、もうここにいたのか」

「まあ他に行くとこもねーからな」

 

銀時。

銀時って呼んだ。今、桂…じゃなくて小太郎が呼んだのは、紛れも無く。

 

「あぁ、殿ももう来てたんですね」

そう丁寧に言う桂さん、もとい小太郎に、「あっれ、桂さんがまとも」という違和感を感じつつ挨拶をした。

 

 

「なんだヅラ、お前の知り合いか?」

「ヅラではない、桂だ」

 

前言撤回。かわってないですね、桂さん。

 

 

「お前が昨日、教室の隅で寝てるときに自己紹介したんだ」

「はぁあー?起こせよ、そういう時は」

「起こしても起きなかったんだ」

ぶーぶーと文句を言う銀さん。

会話だけ聞いてると、元の時代と大して変わらないのに、視線が、低い。

 

 

「え、えーと、じゃあ改めて、私、って言うんだ。その、しばらくここにいることになったから…よろしくね?」

少し屈んで、視線を合わせて言う。

「…銀時。坂田銀時。、だっけ。よろしく」

 

そう言いながら、銀さん…銀時は私に向かって手を差し出す。

差し出された小さな手をきゅ、と握って私は笑いながら、もう一度、よろしくねと言った。

 

 

 

 

 

 

 

掃除を終えて、何をしようか、と塾内を歩いていると、ある部屋から声が聞こえた。

「…これ、松陽先生の声だ…」

 

 

なるべく足音を立てないように、こっそり、そーっと声がする部屋へたどり着く。

おそらく授業らしくものをしてるんだろうなあ、と思いながら耳をすませる。

 

聞こえてくるのは松陽先生の声。

そして、時々質問をする子供達の声。

 

 

…みんな、真剣だなあ。

 

 

 

ふいに、私の世界の授業を思い出す。

たしかに真面目に話を聞いてる人はいたけど…こんなに静まってたのって、テストのときくらいじゃないかな。

 

それだけ、松陽先生はすごい人なんだろう。

話を聞きたいと、もっと知りたいと思わせてくれるような、すごい人。

 

会ってからまだ2日しか経ってないけど、それは私にも、わかっていた。

 

 

 

 

 

「よっし、ここはひとつ、現代人の力を見せてやろうじゃないの!」

そっと音を立てないように部屋から離れて、台所へと走る。

 

「ゼラチン…はさすがにないよねえ…」

がさがさ、と台所の戸棚を漁る。

「おっ、寒天発見!」

 

 

時代が時代なだけあって、冷蔵庫も今のものとは形が違うけれど、なんとかなるだろう!

「上手くいきますようにっ!」

そう念じながら、私はこっそりとゼリー作りを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業…っていうか、お話が終わる頃を見計らい、私はなにやら妙に緊張しながら

オレンジゼリーをお盆に載せて廊下に立っていた。

 

そして、「それでは、続きはまた明日」という声が聞こえた瞬間、私は部屋の戸を勢いよくあけた。

 

「お、お疲れさまーっ!いやあ皆が頑張ってるから、ちょっとおやつ的なものを作ってみましたぁー!」

 

…若干、声がひっくり返ったのは、気にしないでおこう。

 

 

反応がどうくるか、物凄く不安だったものの、皆喜びの声を上げてくれた。

い、いい子たち…!!

 

「えへへ、ちゃんとみんなの分あるからね!」

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 

「はい、小太郎」

教科書らしき本を読んでいた小太郎の前に、そっとゼリーを差し出す。

小太郎は少しだけぽかん、としつつもふんわりと笑って。

「…ありがとう、殿」

 

いったいどこで成長方向を間違えて、あんなんになってるんだろう。

なんて思いながら次は銀時の元へ向かった。

 

 

「おまたせ、銀時ー」

「おう」

驚くほどにゼリーしか見ていない。

こんな頃から、好きだったんだね甘味…。

 

ふふー、と笑いながらゼリーを差し出すと、すぐさま手を伸ばして食べ始める。

変わってないなあ、こういうとこは。

 

そう思いながら立ち上がろうとしたとき、くい、と服の裾を引っ張られた。

「…銀時?」

「あー、あの…ありがと、な。すげー美味い、よ」

銀時は消え入りそうな声で、そう呟いた。

「…どういたしまして!」

 

 

 

そして最大の難関。高杉…さん。もとい、晋助。

昨日からなんとなーく思ってたけど、明らかにお前気に入らないんだよオーラが漂っている。

 

「あ、あのさ、晋助もどう?甘いものって嫌い?」

「…別に」

「じゃあ、これ」

「…いらねー」

つん、とそっぽを向く。

 

くっ…これまでの子供がああだった分、これはちょっと心にグサリとくる…!

 

「勉強とかして頭使った後は、糖分がいいんだよ?だから、ほら」

「別に疲れてねーし」

「気付かないところで脳は疲れてんだよ」

 

一向に受け取る気配を見せない晋助。

「あーもう!人の好意は素直に受け取れ!子供の特権です!!」

「っ!?」

突然叫んだ私の声に驚く晋助に、ゼリーのお皿を押し付ける。

ぽかん、とする晋助を残して私は松陽先生の元へ向かった。

 

 

 

「おや、私にまで…?」

「もちろんですよ!」

寧ろ、こうやって少しずつ恩返しをしていきたいんです…!

 

空になったお盆をぎゅうっと握っていると、そっと頭に手が触れた。

「…え…?」

「ありがとうございます、さん」

 

そっと私の髪を撫でながら、松陽先生は「美味しいですよ」と微笑んでいた。

「また、作ってくださいますか?」

そう笑う松陽先生と、「美味しかったよー」と言う子供達の声を受けて、私は大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

松陽先生夢のようですね!!めっさ想像の中の先生なので、皆様の想像と違ってたら本当に申し訳ありません。

この頃のイメージは、ヅラは素直で銀時は若干素っ気無く、高杉はツンという感じで書いてます。

2009/06/27