「あの、松陽先生」
「どうしましたか、さん」
「実は、ちょっと、お願いがありまして…」
「なんですか?」
「わ、私に剣術教えてくれませんか!?」
第3曲 隣に並びたくて
一瞬ぽかんとした表情を浮かべた松陽先生に、頭を下げてもう一度お願いしますと言う。
「一時の思いで始めることでは、ありませんよ?」
「一時じゃない、です。ずっと…ずっと前から、思ってたんです」
この時代に来る前。
私がこの世界にトリップして、結構な時間が流れた。
その間、いつも私は安全な位置にいてばかりで。
せっかく、先のことを知っているのに、何一つ変えることができない。
「…さん」
「はい」
「貴女は…何のために、刀を握るおつもりですか?」
戦うため。強くなるため。…ううん、違う。
「守りたい人が…守りたい人たちが、たくさんいるんです」
ぐっ、と握りしめた手を見つめる。
助けたい、守りたい。皆大切な友達だから、傷つくのは見過ごせない。
「…わかりました。では、まずは構えからやってみましょうか」
仕方がない、と言いたげにため息をつきながらも松陽先生は笑って言ってくれた。
「はいっ!!」
そして、現在。
「今日は殿も鍛練するのか?」
「うんっ、女だからって甘っちょろいこと言ってられないからね!」
ぎゅ、と握った木刀はまだ手に馴染まないけれど、いつかちゃんと振るえる日が来るといい。
「ハッ、女なんかができるわけねぇだろ」
「…晋助…絶対うまくなってやるんだからね!」
びしっと人差し指を突き付けると、晋助はバカにしたような眼で私を見る。
「ふん、どうせ一日ももたねーだろうよ」
「む、むっかつくー!!」
元の時代だったら、結構やさしいのに!
まあ会った当初は死ぬかと思ったけどさ。
「仕方ねーよ。あいつはいつもあんな感じだからよォ」
ふいに聞こえた声に振り向くと、銀時が眠そうにしながら立っていた。
「…実際さ、やっぱり大変なの?刀扱うのって」
少ししゃがんで、銀時と目線を合わせて問いかける。
「ああ、まあ…人それぞれだろ」
ぼそぼそと呟きながらそっぽを向く。
そっかあ、と言って体勢をもとに戻すと、いつの間にか隣にいた小太郎が笑顔で言う。
「殿なら、きっとできるだろう。銀時、負けないようにな」
「なっ、なんで俺が負けるんだよ!」
むきー、と怒る銀時と、なだめながらも笑う小太郎。
ついつい私は、その光景を「可愛いなあ」なんて思いながら眺めていた。
話しているうちに時間は過ぎていて。
松陽先生が来てから、私たちは鍛練を始めた。
といっても、私のスタートは皆よりもはるかに遅れているので、別指導だけど。
「えーと、こう、ですか?」
「それでは力が入りにくいでしょう。もっと、こう…」
木刀の握り方から間違っていたらしく、私はくるくると手の位置を変えては先生に尋ねる。
「こ、こう!?こうですかァァ!?」
「そんな危なっかしい持ち方では、戦場に立てませんよ」
必死な私と反面、先生は少し笑いながら言う。
「殿、結構…不器用だったんだな」
「余計なお世話です、小太郎」
素振りをしていた小太郎にそう言うと、隣にいた銀時が笑った。
「あははは、そんなんじゃ刀振るうのは先が長いなーー」
「う、うるっさーい!これからメキメキ上達してやるんだからね!」
「そのためにはまず持ち方からですね」
「…はい」
松陽先生の的確すぎるツッコミが刺さった気がした。
「うーん…こう、ですか?」
言われたように、木刀を構える。
「だいぶ良くなってきましたが…そこは…こう、ですよ」
そう言うと同時に、松陽先生は私の後ろへ回る。
そして後ろから私の手の上に自分の手を重ね、木刀を握らせて構えをつくってくれた。
…って、ちょ、待って、近い!!!
「しょっ、松陽先生ッ!?」
「こうですよ。これだと、刀を振ってもブレることはありません」
淡々と説明していく先生に、私は慌てながら必死に構え方を覚える。
「覚えましたか?」
そう言って、ゆっくり私から離れる。
「た、多分」
真っ白になっている頭で、それだけを口にする。
なんで、私、こんなに慌ててるんだろう。
「それではもう一度やってみてください」
「え、ええと」
集中しなければ。
こんな慌てたりしてたら、せっかく教えてくれている先生に申し訳ない。
「こう、ですか?」
さっきの握り方を思い出して、木刀を握る。
ちらり、と自信の無い視線で松陽先生を見る。
「まあ…先ほどよりは、よくなりましたね」
「違ってるんですか」
「そうですね」
はあ、と溜め息をつく。
「、ほんっと不器用だな」
笑うのを通り越してぽかーんとしている銀時をぎっと睨む。
「今まで刀から無縁の生活してたんだから、しょうがないでしょー」
元の時代で刀なんか持ってたら、銃刀法違反で捕まってしまう。
あ、でもこの時代の未来でも、廃刀令があるからどっちにせよ駄目か。
なんてことを考えていると、後ろから鋭い声が聞こえた。
「無縁の生活してる奴が、急に剣術学びたいなんざ言ってんじゃねェよ」
くるり、と後ろを振り向くと、そこには木刀を肩に乗せた機嫌の悪そうな晋助がいた。
「握り方だけでこんなに時間がかかるってことは、向いてねーんだよ」
紡ぎだされる言葉に、私は何もいえない。
「中途半端な気持ちでやるんなら、やめちまえ」
そういい残して、晋助は塾へと歩いていった。
「…っ、待て高杉!」
一呼吸おくれて、小太郎が晋助の後を追う。
私は立ち止まったまま、銀時や子供達の不安そうな視線を浴びながら、ぎゅうと木刀を握り締めた。
「……絶対、上手くなってやる」
そう呟いたとき、ほんの少しだけ、松陽先生が楽しそうに笑ったように見えた気がした。
あとがき
ツンツン高杉。デレはないです。
ヒロインは刀を使えるようになるのか。次回を乞うご期待!…と言いつつ、きっと次回じゃ進展しません←
2009/07/27 *サイト二周年記念更新1