「さーてー!本日の夕飯のため!山菜取り頑張るよみんなー!」
「…おー…」
「………」
「殿、このキノコは食べられるだろうか?」
「うん。とりあえずそこのノリ悪い2人、のらなくていいから働け。そして小太郎、それめっちゃ毒色してるから無理」
第4曲 急展開の中の確信
今日は午前で稽古を済ませて、午後は松陽先生のご要望で、夕飯の山菜取りに来ている。
私がいた江戸の町と変わって、自然がいっぱいなので山菜もキノコもとり放題。
「松陽先生のためならともかく、何でてめーのまで…」
「いやいや、これあんたらの分も含まれてんだからね」
ぶつくさ言う晋助にそう言いながら私も山菜を集める。
「殿、これはどうだろうか」
「なんで小太郎はそういう毒々しいものばっかり見つけてくるの。却下却下!」
小太郎に差し出されたキノコは、赤紫色をしていて、いかにも食ったら死ぬぜ!という主張をしている。
「なあ。これとかどうだ?」
「銀時…ピンクいものは甘いとでも思ってるわけ。だめだからね。それ食べたらお腹壊すからね」
このままでは、夕方までに鍋の材料が集まらない。
なんにせよ、私と松陽先生、そしてこの3人という大人数分なんだから。
松陽先生が渡してくれた紙に書かれた食べられる山菜を地道に摘んでいく。
そして下を向いたまま歩いていた所為か、ごちん、と何かに頭をぶつけた。
木にでもぶつかったか、と頭を上げるとそこには地球人とは思えない容姿の、いわゆる天人が立っていた。
「あ、すいません。ちょっと余所見してました」
すいませんー、ともう一度謝って歩き出そうとしたときだった。
嫌な空気を感じ、振り向いた瞬間に私の横を疾風が駆ける。
「…っ!?」
間一髪よけられたものの、何事かと思って天人を見る。
…ん?
そういえば、今って、攘夷戦争前なんだっけ。
あれ、じゃあ、地球人と天人って、敵対、してる?
ぞわり、と血の気が引く。
「あはは、あの、すいません。見なかったことにしておいてくれませんかね」
足音を立てないように、一歩ずつ後ろへ下がる。
ある程度距離が取れたところで、思いっきり、走って逃げる!!!
山菜の入ったかごを抱えて、走りながらちらりと後ろを振り返る。
「うげええ、追ってきてるし!!」
再び顔を前へ向けて走る。
どうしよう、どうしよう。このまま戻ったら皆を巻き込んでしまう。
何か、いい方法は、と考えていると、前方の草むらが揺れた。
「お前、えらそうなこと言って勝手にどっかいってんじゃねーよ」
「っ!晋助、逃げて!!」
面倒くさそうに言いながら出てきた晋助に向かって叫ぶ。
叫ぶ瞬間、またさっきと同じ、背筋がひやりとする感覚が起こる。
わずかに振り返って見えた天人の目は、私を通り越して晋助を見ていた。
そして、さっきと同じ。ぎゅうと握られた拳を、人ではありえないほどの勢いで突き出す。
ビュウッという風の音と共に木々が揺れ、メキッという音が鳴る。
「…!」
メキメキと音を立てて折れていく木の先には、何がどうなってるのか分からないという表情をした晋助が。
守らなければ。
頭で考えるよりも、先に体が動く。
かごをその場に落とし、走るスピードを上げる。
「晋助ぇぇ!!」
叫ぶと同時に私は走ってきた勢いそのままに晋助を抱きしめて倒れてくる木をよける。
どかっという音を立てて、私の体は地面に激突する。
「いっ…たー…!あんの野郎、子供狙うなんて卑怯な…!」
肩にずきりとした痛みを感じながら、起き上がる。
「晋助っ、大丈夫!?」
そこで初めて気づいた。
晋助は、ぽかんとして、ほんの少しだけ泣きそうな顔で、私を見ていた。
「なん、で、俺なんか助けた」
「…んなもん、友達だからにきまってんでしょーが!」
ぐいっと晋助の手を引いて立ち上がる。
「俺、お前に、冷たくしてたのに」
「…わかってるよ。怖かったんでしょ、松陽先生とられちゃいそうで」
そう言うと晋助はぴくりと肩を揺らす。
薄々気づいてた。
ひょっこり出てきた私に松陽先生は優しくしてくれた。それはもう、申し訳ないほどに。
今まで『皆の松陽先生』だったのに、私が来てしまったせいで、それが崩れてしまうんじゃないか。
そう思っていたんだろうな。…おそらく、銀時も。
「大丈夫だよ。松陽先生は、晋助や、小太郎や銀時…皆のことを一番に思ってる。私は、二番目くらいだといいな!」
言いながら、ゆっくり近づいてくる天人を見据える。
私の後ろで晋助が息を呑むのが聞こえた後、もうひとつの声がした。
「晋助、殿は見つかったか…っ!?」
がさりと草むらをかきわけて出てきた小太郎は、私の前方にいる天人を見て声を止める。
「小太郎っ!晋助連れて今すぐ塾まで戻って!!」
じり、と後ずさりながら言う。
「な…殿を置いては…!」
「だったら、早く戻って、松陽先生にこのこと伝えて!」
しかし、と呟いて動かない小太郎に向かって叫んだのは、晋助だった。
「戻るぞ、ヅラ!」
「晋助っ、お前殿はっ」
後ろを振り返ると、晋助は小太郎の手をつかんで走りだそうとしていた。
「いいかっ、絶対死ぬなよ!すぐ、先生呼んできてやるから、待ってろ!」
名前、初めて呼んでくれたなあ、なんてこの場に似合わないことを考えながら、私は笑顔で大きくうなづいた。
草の揺れる音を聞いて、2人が逃げたことを感じながら私は天人を見据える。
…どうしよう。
逃げろとは言ったものの、正直なところ、今解決策は見つからない。
こういうときどうしたらいいんだ。
銀さんや新八くんなら木刀、神楽ちゃんは素手で戦うだろう。
残念ながら今は木刀もないし、素手なんて確実に負ける。
転んだときにぶつけた肩を撫でながら、気迫だけでも勝たなければ、と強く天人を見据える。
そして再び天人が拳を振り上げた瞬間。
ガッという音とともに、天人に向かって石が当たった。
「…!?」
今の、どこから…。
「ばっかじゃねーの」
声がするのは、木の、上。
「弱いくせに強がってんじゃねーよ」
木の上、枝に座って片手に持った石を軽く投げては受け止めてを繰り返す。
「銀、時…」
そう呟いた瞬間に見せた笑顔は、私がいた、江戸で見た笑顔と、そっくりだった。
あとがき
思わぬ長さになってしまいました。あっれー。一話で終わるはずだったのに。
とりあえず晋助のツンツンは、ただの嫉妬でした。松陽先生はモテモテですね!(ぉ
2009/08/03