「銀時…」

「おう。俺がいりゃ、あんな奴くらい…」

「お前今までどこにいたんだコラァァ!!逃げなさいよ!危ないでしょうが!」

「…な、なんだそりゃ!せっかく助けてやろうとしてんのに!」

「体格が違いすぎんでしょうが!見なさいよアレ!あんたの三倍はあるわ!!」

「体格なんざ関係ねえ!大事なのは気合だ!」

「じゃあ気合でなんとかしてよ!」

「無理」

 

 

 

 

第5曲 私の勇気が俺の勇気

 

 

 

 

ぎゃあぎゃあとさっきまでのシリアスムードはどうなったんだという勢いで叫ぶ私と銀時。

その間にも、びゅうっと風が吹きすさぶ。

 

「うおっと!」

ぐらりと揺れた木から、銀時は軽やかに飛び降りる。

 

 

「ったく、何変なもんつれてきてんだよ」

「か、勝手についてきちゃったんだい!ていうか何でこんなとこに天人がいんの!」

「んなもん俺が知るか!」

 

 

顔さえ見ていなければ、本当に『銀さん』と喋っているような錯覚に陥る。

けれど、今は懐かしさなんて感じている場合じゃない。

 

 

「逃がしてくれる気は、なさそーだぜ」

「ですよねー」

目をそらしたら殺されるんじゃないか、と思うほどの殺気を感じながらゆっくり後ずさる。

さすがに銀時も、こうして天人と対立するのは初めてみたい。

 

 

ビュッと空を切る音と共に、拳を繰り出す天人から、なんとか私たちはよけて、よけて、逃げている。

 

 

「ちょ、もう、走るの無理!よけるの無理!」

「そしたら死ぬぞ!」

「それは嫌っ、ぎゃああ!」

よけ切れなかった拳圧で、私と銀時は聳え立つ木にぶつかる。

 

受身の取り方なんて知らないけれど、銀時は守らなくては、という本能の動きで

ぎゅうとその体を抱きしめたまま、背中から木に激突した。

 

 

「っ、うぅっ…痛っ…」

「ば、かかお前っ!!」

なんかよくわからないけど、守りたかったんだよ、と心の中でつぶやいてから、ゆっくり体を起こす。

 

 

ゆらりと不気味なほどの雰囲気を醸し出しながら歩いてくる天人。

死ぬかもなあ、なんて思った瞬間。

 

 

「大丈夫ですか、さん、銀時」

 

 

凛とした声が、聞こえた。

 

 

「しょ、松陽先生ェェ!!」

こんな状況でもにこにことしている先生のそばには、小太郎と晋助がいた。

「このバカが!やっぱりどうにかなってねぇじゃねーか!」

ぎゃんぎゃんと文句を言う晋助をなだめる小太郎。

 

 

助かった。

そう思った。私も、銀時も。

 

でも、そんなに甘くはなかった。

 

 

さん、銀時」

そう松陽先生が名前を呼ぶと同時に、私たちの足元に何かが飛んでくる。

からん、と音を立てて落ちたのは、2本の、木刀。

 

……え?

 

「修行の成果を見せる時でしょう。さあ、がんばってください」

 

 

「…は、はああああ!?」

さすがに銀時も、こればっかりは驚いたようで、疑問の声を上げた。

「ちょ、松陽先生!ここにきてこのスパルタは無いんじゃないですか!?」

なんだかんだで私結局、構え方しか教わってないんですけど!!

 

「先生、あれでは殿たちが…!」、「い、いくらなんでも死ぬんじゃねえのか?」と言いながら暴れる

小太郎と晋助の着物の首元をがっちりと掴んで、松陽先生は言う。

 

 

「守りたいのでしょう。さん、あなたが守りたい人が対峙しているのは、もっと、強い敵なんでしょう?」

 

 

ここまで、ドンピシャリで言い当てられると、恐怖すら感じる。

でも、確かにそうかもしれない。

銀さんを、万事屋の皆を、真選組の皆を守るためには。隣に立つためには、これくらいで怯えていられない。

 

 

「…っ、銀時…」

「な、なんだよ。…おい、お前…」

ぎゅう、と木刀を握り締めて銀時を背に隠すように立ち、天人を見据える。

 

「やる、よ。私は…強く、ならなきゃ…!」

 

 

とどめ、といわんばかりに、天人は私の頭上へと手を振り上げる。

「……っ負ける、もんかあああああ!!!!!」

逃げたいという気持ちを振り払って、天人の懐へ突っ込む。

そして刀をブンと振り、ちょうどお腹あたりへと衝撃を与える。

 

自分でも、どうやったのか分からないけれど、天人は、ぐ、とうめき声を上げた。

けれど、倒れるまでは行かず、再度手を振り上げようとしたときだった。

 

 

「んなひょろっこい攻撃じゃ、駄目だろうが、よッ!!」

さっきまで私の背にいた銀時が、私の横を跳び、天人に向かって木刀を振り下ろした。

ドオンっ、という私のときとは大違いの音と共に、天人はばったりと倒れた。

 

 

 

 

「…は、はは…オ、オイー、やった、ぞ…俺ら、やったぞ…!!」

「あはは、ほ、んと…頭がついていかないけど、何これ、勝った、の…?」

力が抜けて、へたりと地面に座り込んだ私と銀時の傍に、小太郎と晋助が駆け寄ってきた。

 

「お前らっ…無茶をするんじゃない…」

「そうだっ、銀時もも、あんなドへたくそな剣術で、何やってんだよ!」

「「へたくそ言うな」」

 

小太郎には心配かけてごめんね、と言いながら晋助にはデコピンをお見舞いしてやった。

 

 

「お疲れさまでした、さん、銀時」

にっこりと笑ったまま、松陽先生は私たちの前へ来て手を差し伸べる。

「帰りましょう。ここじゃ、落ち着いて休憩もできないでしょう?」

 

 

そうですね、なんて言いながら、私は整理のつかない頭で考えていた。

「あの、松陽先生」

「はい。なんでしょう」

「…私、少しくらいは…変われたでしょうか…?」

その声は、消えてしまいそうなほどに小さかったけれど、松陽先生はちゃんと返事をしてくれた。

 

 

「ええ。強く、なりましたよ。それに…銀時も、さんに勇気をもらったでしょう」

「へ?」

予想外だった。なぜ、そこで、銀時が。

「…まあな。に、あんなことされちゃ、男の俺が引っ込んでるなんてわけにはいかねーだろ」

つん、と私から視線を逸らしてぼそぼそとつぶやく。

 

 

「予想以上に2人が成長してくれて、私は嬉しい限りですよ」

ふふ、と笑いながら松陽先生は私の手を引きながら歩いていく。

 

 

隣で銀時が「嵌められた…」とつぶやいていたり、晋助が「お前らだけずるい」とふてくされていたり。

それを見ながら小太郎が笑っていて。

 

ああ、そうか。

焦らなくても、いつの日か、ふと気づいたときに隣に並べているんだ、なんて感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

終わりが近づいてきました。そしてヒロインと銀時がパワーアップ。

松陽先生は飴→飴→飴→鞭!!みたいなパターンをしそう。という私の勝手なイメージ。

2009/08/23