「朝だよー!ほら、みんな起きて起きて!」
「む…もう朝か…」
「眠ィ…」
「ぐおぉーー」
「小太郎と晋助はともかく、銀時あんた堂々と寝すぎ」
第6曲 平和な朝ごはんバトル
昨日の夕方の天人騒動のおかげで、皆心身ともに疲れ果てていたため、修学旅行のように皆で寝たのだ。
あ、松陽先生は別の部屋で寝てたけどね!
「一緒に寝ますか?」なんて言われてしまったけど、今回は遠慮しておきました。
「ほーらー!早く起きないと、松陽先生に怒られるよー!」
そう叫ぶと、ぴくりと反応した晋助と銀時が「顔洗ってくる!」と叫んで廊下へ飛び出していった。
「…なんて、極端な」
「まったくだ。もう少し落ち着くべきだ、あいつらは」
小太郎は落ち着きすぎだと思うよ。
それにしても…いったい、現代までの間に何があったんだろう、この子。
まあ、いいや。
「小太郎も顔洗っておいで。皆戻ってきたら先生も一緒に朝ごはんにしようね」
「殿の作る飯は美味いから、楽しみだ」
にこりと笑ってそう言ってから、小太郎も水場へと走っていった。
「…ほんとに、何があったら現代のあのノリになるんだろ…」
ちょっとだけ、現代の桂さんが懐かしくなった。
「さてと、今のうちに布団しまっちゃおっかな!」
掛け布団も枕も、バラバラの方向へ飛んでいっている晋助と銀時の布団を整えてたたむ。
小太郎の布団は、いつの間にか綺麗にたたまれていた。
ほんっとすごいわあの子…!
ふすまの前に布団を集めて、ふすまに手をかける。
「……っ!?」
ぐらり、と一瞬眩暈がした。
「…な、に?貧血…?」
ふすまにかけていた手で顔を覆う。
貧血て。そんなドラマみたいなタイミングで貧血になんて、ならないでしょ。
ふう、と息を吐く。くるりと回っていた視界も落ち着いて、前を見る。
「あれ、そういえば私って、この時代にどうやって来たんだっけ」
どくん、と心臓が鳴る。
「朝だよー!ほら、銀さん起きて起きて!」
「うー…今日は仕事ねぇんだし、もうちょい寝てても…」
そうだ、あのときも朝だった。それで銀さんがなかなか起きなくて。
神楽ちゃんと新八くんで起こして、もうお昼だよ、って言いながら…布団をしまおうとしてたんだ。
そっか…私、押入れからここに来ちゃったんだ。
「ってなんか妙に間抜けな方法で来ちゃったじゃん私ィィィ!!!」
「何一人で叫んでんだよ、気持ち悪ィな」
声のした方を見ると、晋助がドン引き顔で立っていた。
「……見なかったことにしておいてくれないかな晋助くん」
「俺も今すぐ記憶から抹消してェよ」
朝ごはんが冷めてしまう、ということで晋助につれられて皆の下へと歩く。
廊下を歩く途中に、さっきの部屋を振り返る。
多分あの戸を開けてしまったら、私は元の時代…というか、銀さんたちの下へ帰ることになるだろう。
さて。どうやって、言い出そうかなあ。
「おっせーよ。お前俺ら起こしたくせに遅刻してんじゃねーぞコノヤロー」
「あはは、ごめんごめん」
部屋に着くと晋助はささっと自分の場所に座る。
私はぽっかりと空いている場所、小太郎と銀時の間に座った。
「では、さんも来た事ですし。朝ごはんにしましょうか」
松陽先生が言い終わると同時に、各々いただきます!と声を上げた。
ひとつの机をまるく囲んで朝ごはん。
「食わねーんならそれよこせよっ」
そう言って晋助は対角線上にいる銀時の卵焼きに箸を伸ばす。
「てめっ、最後に食べようと思って残してあんだよ!取るな!」
銀時も負けじと箸を伸ばす。
「朝からみっともない…落ち着け、銀時、晋助」
自分のお皿はしっかり腕で囲ってガードしている小太郎も、なんだかんだでちゃっかりしている。
「2人とも、あまり暴れるとお味噌汁がこぼれてしまいますよ」
にこにことしながら言う松陽先生。
っていうか、今こそ!今こそ昨日の鞭を発揮してくださいよ先生ェェェ!!!
「くっそ、じゃあお前のよこせよ!」
ひゅばっと銀時の箸が私のお皿に向くも、間一髪でお皿を持ち上げてよける。
「ふふ…まだまだ甘いね銀時!」
「何でお前そこでそんな早い動きできるのに、昨日はダメダメだったんだよ」
「それはそれ、これはこれ」
というか、鍛えられたのはあなたのせいです銀時。もとい、銀さん。
万事屋での食事バトルで身につけたスキルなんだからね!
なんて思いながら、にぎやかな朝ごはんタイムを過ごしていた。
朝ごはんを食べ終えた後、洗った食器を拭きながら朝のことを、元の世界へ帰ることを思い出す。
はあ、と何度目かのため息を吐く寸前にすぐ後ろから声がした。
「なにか、あったんですか、さん」
「うおおおおっ!?しょ、松陽先生…」
びくっと体が揺れる。その衝撃で落としそうになった食器を慌てて持ち直す。
音も無く背後に立たないでください、と思いながら食器を机に置く。
「何か悩んでいるように見えたんですが」
ほぼ、確定的な聞き方。
この人には隠し事なんて、一生できない気がする。
「……実は…」
信じられないかもしれないですが、と言いながら私は説明をした。
未来から来たこと、私のこと、そして帰る方法をみつけたこと。
「…そうですか。急ですね…今から帰るんですか?」
「はい。多分、今じゃないと帰れない気がするので」
これ以上ここにいて、銀時や小太郎、晋助と仲良くなってしまったら、帰りづらくなる。
「三人に、挨拶は?」
「したい…です。別にあえなくなるわけじゃないので、笑って…一旦さよならがしたいので」
「わかりました。…ああ、そうださん」
少し歩いて台所を出る前に、松陽先生は振り返って、言った。
「彼らは未来で、平和な時代を生きられていますか?」
「……胸を張って、平和とは言えません、けど………毎日楽しく過ごしてますよ」
銀さんも、桂さんも。高杉さんは…どうなのかわからないけれど、お祭りで会ったときは楽しそうだった。
平和とは言えないけれど、いい世界だと、思う。
「そうですか。安心しました。でも、平和でないのなら、これからも彼らを鍛えてあげなくてはいけませんね」
ふふ、と笑いながら部屋を出る松陽先生の後を、頑張れ皆、と思いながら歩いていった。
皆のいる場所、庭まであと少し。
あとがき
あっれ、今回で終わる予定だったのに朝ごはんバトルのせいで延びてしまった。なんてこった。
次あたりで終わり予定。シリアスよりも、ギャグで終わらせたいなあと思ってます。
2009/09/27