「いけェェェ、春菜ァァァー!!」

「あの、沖田さん」

「何でィ、今いいとこ…」

「いやいや、それどころじゃなくて…ってあれ?あそこにいるの神楽ちゃん?」

「何やってんだァァひっこめチャイナ娘ェ!目ェつぶせ!」

「沖田さん、話を聞いてください」

 

 

 

 

第1曲 この世界を生きること

 

 

 

 

今日は仕事も無いし、買い物でも行こうかなーなんて思って町を歩いていたら、

偶然であった沖田さんに拉致されて、現在に至る。

 

「ほら、ももっとテンション上げなせェ」

「いや、上がりませんよ。っていうか人拉致ってどこつれてきてんですかアンタ」

もう私帰りますよ、と言って出口の方を向いたとき。

 

 

「…銀さん、新八くん?」

「……よお、…ってなんでここに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、奇遇ですねィ。今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技を見に来てたんでさァ」

「その途中で拉致されました」

「暇そうにしてたから、連れてきてやったんじゃねーか」

「有難迷惑です」

 

 

ワーワーと賑やかな会場の外、私と沖田さん、そして偶然会った銀さんと新八くんと神楽ちゃん。

「お前、私のを拉致するとはどういう了見アルか!」

「いつからはお前のものになったんでさァ」

静かに火花を散らしあう2人。

こっちはこっちで白熱してるなあ、と思いながら私は遠い目をしていた。

 

 

 

「そうだ。旦那方、暇ならちょいとつき合いませんか?もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」

「面白い見せ物?」

そう尋ねた銀さんに、沖田さんは少しだけ悪戯っぽい笑みで答える。

 

「まァ、付いてくらァわかりまさァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぞろぞろと私たちは、かぶき町の裏側といえるような場所を歩く。

暗く狭い道を抜けて、怪しい露天商を興味深そうに見ている神楽ちゃんをひっぱったりして歩き続けた。

所謂、裏社会という名の場所。

 

しばらく歩いていくと、ワーワーと騒ぐ人の声が聞こえてきた。

 

 

「こいつァ…地下闘技場?」

観客席の一番後ろ。

立見席の場所で、私たちはその中央を見る。

そこに立つのは、2人の人間。

 

 

「煉獄関…ここで行われているのは」

審判の声に、その2人は走り出す。

 

「正真正銘の」

勝負は、一瞬。鬼の面をつけた人による、圧倒的な攻撃。

 

 

「殺し合いでさァ」

 

 

ワーワーと湧き上がる歓声にかき消されることなく、沖田さんの声は私たちの耳に届いた。

観客席の最後尾ではあるものの、その生々しさは目を通して伝わる。

ぞわりと背筋に悪寒が走り、無意識にぎゅうと右手で左手首を掴んだ。

 

 

そこで私の目の前は真っ暗になる。というか、何かに目を覆われた。

そっと目の高さに手を上げると、暖かい人肌の感覚がした。

 

「…銀、さん?」

「あんま見んな。手ェ震えてんぞ」

沖田さんの声と重なって、銀さんの声が聞こえる。

 

 

「…ううん、大丈夫。ちょっとびっくり、しただけ」

そっと銀さんの手を目から離す。

少しだけ心配そうな銀さんの顔が目に入った。

 

「無理すんなよ」

そう言って銀さんは私の目から手を離し、体を支えるように肩に手を置いていてくれた。

 

 

「ったく、趣味のいい見世物だなオイ」

「胸クソ悪いモン見せやがって寝れなくなったらどーするつもりだコノヤロー!」

ガッと沖田さんの首元に掴みかかる神楽ちゃん。

うん、正論だと思うよ。

 

 

「明らかに違法じゃないですか。沖田さんアンタそれでも役人ですか?」

「役人だからこそ手が出せねェ」

新八くんの言葉にため息をつきながら沖田さんは言う。

「ここで動く金は莫大だ。残念ながら人間の欲ってのは権力の大きさに比例するもんでさァ」

言いながら沖田さんは神楽ちゃんの手を解き、着物の襟元を直す。

 

 

「幕府も絡んでるっていうのかよ」

「ヘタに動けば真選組も潰されかねないんでね。自由なアンタがうらやましーや」

何かを含んだように薄く笑う。

 

「…言っとくがな。俺ァてめーらのために働くなんざ御免だぜ」

「おかしーな。アンタは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうモンは虫唾が走るほど嫌いなタチだと…」

 

 

そこで一呼吸おいて、もう一度闘技場の中心を見る。

「煉獄関最強の闘士。鬼道丸…今まで何人もの挑戦者をあの金棒で潰してきた無敵の帝王でさァ」

沖田さんの言うとおり、巨大な金棒を持ち、鬼の面を被った男が一人まだ闘技場に立っている。

 

 

「まずは奴をさぐりァ何か出てくるかもしれませんぜ」

そう言った沖田さんの顔は、何かを銀さんに期待しているような顔だった。

 

「オイ」

銀さんは不機嫌そうに、めんどくさそうにそう呟く。

「心配いりませんよ。こいつァ俺の個人的な頼みで、真選組は関わっちゃいねー」

にかっと笑って、人差し指を口元へ当てる。

 

「だからどーかこのことは、近藤さんや土方さんには内密に…」

 

 

 

 

まだ騒ぎ声の止まない煉獄関を後にする。

暗い路地を歩いている途中で、沖田さんに呼び止められた。

 

「なんですか?」

足を止めて振り返る。

 

「…すいやせんでした」

「は?」

ポカン、とする。

沖田さんでもこんな風に謝ることなんてあるんだ、なんて思った。

 

 

「は?じゃねーやい。こんなとこ連れてきて悪かったっつってんでさァ」

言いながら差し出した沖田さんの手の甲が私の頬をすべる。

 

「でもなら、旦那たちだけに伝えることは嫌がると思ったんでさァ。のけ者みたいで、嫌だろィ?」

にやりと悪戯っぽく笑う。

 

 

「…そうですね。言ってくれて、ありがとうございました。でも、心の準備がしたかったです!」

「そりゃ、悪かったなァ」

さほど反省なんてしていないような声で言いながら、沖田さんは私の手を引いて歩き出した。

 

 

 

「寝れなくなっちまったんなら、俺が添い寝してやりやしょうかィ?」

「遠慮しときます」

キッパリとそう言って、私たちは前を歩く銀さんたちの後を追った。

 

 

 

 

 

 

あとがき

トリップ連載第4章!ちょっとシリアスになる予感。そして久しぶりの真選組が絡みそうな予感。

ドシリアスまではいかないものの、全力ギャグにはなれないと思うので苦手な方はご注意を。

2009/11/03