「あの人も意外に真面目なトコあるんスね。不正が許せないなんて」
「そうだよね。普段は結構サボってるイメージなのにね」
「私アイツ嫌いヨ。しかも殺し屋絡みの仕事なんてあまりのらないアル」
「のらねーならこの仕事おりた方が見のタメだぜ。そーゆー中途半端な心構えだと思わぬケガすんだよ。それに…」
第2曲 デジャヴを感じたお昼時
「…狭いから」
沖田さんと別れてから、結局情報収集に出かけた私たち。
それも、一人用の駕籠に4人乗りで。
「銀さんが行くなら僕たちもいきますよ」
「私たち4人で1人ヨ。銀ちゃん左手、新八左足、赤血球、私白血球ネ」
「全然完成してねーじゃん。何だよ赤血球白血球てっ。一生身体揃わねーよ」
「ていうか完全に右半身無視してるよね」
このままだと左側のみ完成じゃん。人体模型みたいになるんじゃないの?
遠足にでも行くかのようなテンションでそんな会話をしているうちに、私たちの前を行く駕籠が止まる。
目標を見失わないように、我先にと駕籠から出て私たちは走った。
…ちなみに駕籠の代金は、私のバイト代から出て行った。
駕籠から降りた鬼の面の男を追って辿り着いた先は、草の生い茂った寺。
「廃寺…こんなところに…」
新八くんがそう呟いた後、廃寺の方からギャアアア、という声が聞こえた。
「…今、悲鳴っぽいのが聞こえたんだけど」
「お前らはここで待ってろ」
そう言って銀さんは廃寺の方へと走っていく。
そっと閉められたふすまに手をかけ、中を覗く銀さん。
「、」
「ん?どうしたの神楽ちゃん」
「アレ、誰アルか」
神楽ちゃんが指差した人は、廃寺の中を覗く銀さんの後ろに静かに立った。そして。
「どろぼォォォ!!!」
見事なほどのカンチョー攻撃を銀さんに食らわせた。
草むらから私たちは、「うっわ、痛そう」と思いながら顔をゆがめていた。
それから私たちも廃寺へと入った。そこにいたのは、大勢の子友達。
和尚さん…いや、鬼道丸こと道信さんの話によると、ここにいる子供たちは皆孤児だそうだ。
かつて人斬りと呼ばれ、獄につながれていた道信さんを買ったのが、煉獄関の人たちだったらしい。
「…煉獄関の連中には関わらない方がいい」
「鬼の餌食になるってか」
ずず、と縁側に座って銀さんはお茶を飲む。
「宝に触れぬ限り鬼は手を出しませんよ。あの子達を護るためなら何でもやりますがね」
言いながら庭で遊ぶ子供たちを見つめる道信さんの目は、とても、鬼とは言えないもので。
「はは、鬼がそんなこと言うかよ。アンタもう立派な人の親だ」
銀さんは傍に寄ってきた子供を抱き上げて言った。
「いや…そんな立派なものではない…。心にもたげた自分の罪悪感を少しでもぬぐいたかっただけなんだ」
自嘲気味に笑いながら、道信さんはうつむく。
「…そんなもんだけでやっていけるほど、子を育てるってのはヤワじゃねーよ」
ひょいひょいと子供をあやしながら銀さんは優しくそう言う。
「そうですよ。それに、本当に理由がそれだけだったら、この子たちはこんなに道信さんに懐きませんよ」
この人がいなかったら、あの子達はあんな風に笑えなかっただろう。
「よし。そろそろ帰るか、」
「ん。おっけー。…新八くーん!神楽ちゃーん!帰るよー!」
子供たちと遊ぶ二人に手を振って、叫ぶ。
「話は終わったアルかー」
「うん、あとで説明してあげるねー」
神楽ちゃんと、一緒に寄ってきた子供たちの頭を撫でながら言う。
その間に銀さんは子供に名刺を渡していた。いや、そこ子供じゃなくて道信さんに渡せばいいのに。
じゃあ、バイバイ、と手を振って私たちは廃寺を後にする。
もうすぐ日が暮れるなあなんて思いながら、今晩のおかずの話をしながら万事屋へと戻った。
「…変な奴ら。そーいやウチに客が来るのって初めてだね先生」
「……そうだな。最初で最後の客人だ」
次の日。
万事屋に一本の電話がかかってきた。
一瞬、昨日の子からかなとも思ったけれど、電話の相手は。
「まあまあ、遠慮せずに食べなさいよ」
土方さん、だった。
「何これ」
「うわ、すごいデジャヴを感じるんだけどこれ」
急に電話でファミレスに呼び出された私と銀さん。
そして、目の前にどどーんと、ものすごい存在感を放ちながら置かれている、カツ丼。
「旦那、、すまねェ。全部バレちゃいやした」
「いやいやそうじゃなくて。何コレ。マヨネーズに恨みでもあんの?」
「カツ丼土方スペシャルだ」
マヨネーズでカツが見えない、この世界に来て早々見たアレが目の前に再び置かれる日が来るとは。
「こんなスペシャル誰も必要としてねーんだよ。なあ、お前も思うだろ」
「そんなこたァねーだろ、なあ」
「……ごめんなさい土方さん、私も、こればっかりは…!」
見てるだけで、胃がぐるぐるする。ほんとごめんなさい土方さん…!
「……まぁいい。本筋の話をしよう」
ふう、とタバコの煙を吐きながら土方さんははっきりと、言う。
「テメーら、総悟にいろいろ吹きこまれたそうだが、アレ全部忘れてくれ」
「んだオイ都合のいい話だな」
「そう言うってことは…土方さんも、知ってるんですね」
ひざの上に置いた手をぎゅうと握り締める。
煉獄関で行われていた、あの惨劇を思い出す。
「大層な役人さんだよ。目の前で犯罪が起きてるってのにしらんぷりたァ」
ふん、と息を吐いてピシッとカツ丼に鼻クソを飛ばす銀さん。いくらなんでもそりゃないよ銀さん。
「いずれ真選組が潰すさ…てゆーかオメー土方スペシャルに鼻クソ入れたろ謝れコノヤロー」
小さく舌打ちをして、割り箸を引っつかんでカツ丼を食べつつ土方さんは続ける。
「大体テメーら小物が数人はむかったところでどうこうなる連中じゃねェ。下手すりゃウチも潰されかねねーんだよ」
「土方さん、アンタひょっとしてもう全部つかんで…」
まさか、と言うように沖田さんが土方さんに尋ねる。
近藤さんには言うなよ、と呟いてから私たちのほうへ向き直る。
「天導衆って奴ら知ってるか?将軍を傀儡にし、この国をてめー勝手に作り変えてる」
コトリ、と丼がテーブルに置かれた音が、妙に響いた。
「あの趣味の悪い闘技場は…その天導衆の遊び場なんだよ」
あとがき
ギャグ要素が少なくなってしまった第2話。
そしてヒロインの前に立ちふさがる土方スペシャル。ある意味ものすごい強敵だと思ってます。(ぁ
2009/11/19