「オゥ、パスタ刑事にスープ刑事、アンパン買ってきたぞ」

「何だよパスタって…僕に何の縁もないじゃないか」

「いやいや、私に関してはスープだから。もはや飲み物だよ」

「何かそれっぽいだろ…それから俺のことは山さんと呼べ」

「「何でだよ」」

 

 

 

 

第3曲 魂が導くままに

 

 

 

 

時間は夜。あの時の廃寺の草むらで、私たちは張り込みをしていた。

もちろん、道信さんの監視…というか、まあ、様子見で。

 

 

「ていうか、銀さんは何やってんの?」

「ボスはあのムセー連中に目ェつけられてて動きがとれん。俺たちがやるしかないんだ」

妙に渋い口調で言う神楽ちゃん…もとい、今は山さん。

いったい何のドラマを見ていたんだろう。

 

 

「取調べでも受けてるのかな…取調べといえばカツ丼…」

「うぎゃあ!やめて!今の私にそれはトラウマ…!」

ガッと新八くん、パスタ刑事の肩を抑えて唸る。

あああ、思い出したらまた胃が…!

 

「何があったんですかさん…」

「いや、ちょっと衝撃的すぎるカツ丼を見たから…ね…」

ふふ、と笑う私の肩にポンと手を置いてお疲れ様です、と新八くんは呟いた。

 

 

「でも、もうアンパンはあきたよ。パスタとか食べたい…あっパスタ刑事じゃん」

「私も喉かわいてきたなあ。スープとか飲みた……スープ刑事、だね」

ぶつぶつと小声で言いながらアンパンを完食する。

 

「二人とも成長したな。俺の背中は頼むぞ」

「「ハイ山さん」」

 

 

「スイマセン。背中ががら空きですが」

 

 

 

「「ぎゃああああ!!」」

突如背中から聞こえた声に驚いて隠れていたことも忘れて叫ぶ私と新八くん。

「落ち着けパスタにスープ!!確保だ、確保ォ!ゲホッ!アンパンがのどに!!」

 

言いながらよろめく神楽ちゃんを支えながら、ふと道信さんのほうを見ると、子供たちの乗った馬車が見えた。

「…このまま江戸を出るつもりです」

静かに、そう呟く。

 

 

「勝手なのはわかっています。今まで散々人を殺めてきた私が…でももうこれ以上殺しはしたくない」

小さくも、はっきりとした声で道信さんは私たちを見つめる。

 

 

「何年かかるかわからない。でも、あの子達に胸をはって父親だといえる男になりたい…」

ぎゅうと唇を噛み締めて言う道信さんは、やっぱり優しい人なんだと思う。

 

 

倒れこんでいる神楽ちゃんの背中をさすっていると、ぴくりと顔を上げた。

「…早く行くヨロシ。奴らが来るアル」

「ウチのボスは目的も何も告げずに、ただアナタを見張っとけって…全く何考えてんだか」

「だからこそ、私たちの好きにできるんですけどね」

顔を見合わせて、こくりと頷き合う。

考えていることは、三人とも同じ。

 

 

「道信さん、絶対に江戸を出るまで油断、しないでください。…背後には、ご注意を」

この後のことは知っている。だけど、逃げ切ってほしかった。

私には、これくらいしか、できない。

 

「…すまない!」

小さく叫んで、道信さんは馬車へと走る。

 

 

「行くぞォォパスタァァ!スープゥゥ!応戦は頼んだぞォォ!!」

「「おうっ山さん!!!」」

 

ザッと草むらから立ち上がり、向かってくる煉獄関の連中に立ち向かう。

私は二人ほど戦えないものの、石を投げたりしながら二人の応戦をしていた。

 

こうして、騒々しい夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

久しぶりの雨降りの日、ただでさえ湿っぽい天気の中、万事屋には更に湿っぽい空気が漂っていた。

 

沖田さんが知らせてくれた、道信さんのこと。

…結局、物語は筋書き通りに進んでしまったのだ。

 

 

「ゴメン銀ちゃん」

ソファの上でひざを抱えた神楽ちゃんが小さく言う。

「僕らが最後まで見とどけていれば…」

「私も、そう…」

 

知って、いたのに。

止められないことが、こんなにもどかしいなんて。

 

 

「オメーらのせいじゃねーよ。野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい覚悟してたさ」

窓の外、降り続く雨を見ながら銀さんは言う。

 

「ガキどもはウチらの手で引き取り先探しまさァ。情けネェ話ですが俺たちにはそれぐらいしかできねーんでね」

ソファに座っていた沖田さんがゆっくりと立ち上がる。

「妙なモンに巻き込んじまってすいませんでした。この話はこれっきりにしやしょーや」

 

言い終わると同時に、ガラッと玄関の戸が開く音がした。

そしてとたとた、という複数の足音が鳴る。

 

 

「!テメーら…ココには来るなって言ったろィ?」

そこにいたのは、あの廃寺にいた子供たち。

 

「…に、兄ちゃん。兄ちゃんは頼めば何でもしてくれる万事屋なんだよね?」

最前列に立つ子が震える声で言うと、それに続いて他の子も泣きながら口を開いた。

「お願い!先生の敵、討ってよォ!」

 

「……」

やっと窓から視線を外した銀さんも、私も神楽ちゃんも新八くんも、声が出なかった。

 

 

黙ったままの私たちの前に、一人の男の子が歩いてきて、机に何かを置く。

「これ…僕の宝物なんだ」

その言葉に他の子たちも、持っていた荷物を机に広げていく。

 

 

「お金はないけど…みんなの宝物あげるから、だから、お願い」

 

「…いい加減にしろ、お前らもう帰りな」

沈黙に耐えかねたように沖田さんが呟く。その声に被るように、子供たちも言葉を紡ぐ。

 

 

「…僕、知ってるよ。先生…僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ?だから死んじゃったんだよね」

子供の口から聞くにしては、重すぎる言葉。

 

「でもね、僕たちにとっては大好きな父ちゃん…立派な父ちゃんだったんだよ…」

 

 

 

「…オイ、ガキ」

ぽつりと呟いたのは、銀さん。

「コレ、今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」

この場に響くには、あまりにも不釣合いの言葉。

 

 

「俺も集めてんだ…コイツのためなら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」

にっこりと笑う銀さんは、いつもと同じ笑顔を浮かべていた。

 

 

「酔狂な野郎だとは思っていたが、ここまでくるとバカだな」

いつの間にか居間の入り口の柱に背を預けて立っていた土方さんが吐き捨てるように言った。

「小物が一人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」

 

 

「テメーらにゃ迷惑かけねーよ。どけ」

行く手をふさぐ土方さんの前で立ち止まる。

 

「別にテメーが死のうが構わんが、ただ、げせねー。わざわざ死にに行くってのか?」

「行かなくても俺ァ死ぬんだよ。俺にはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ」

ぴしりと着物の崩れを直して、銀さんは土方さんの横を歩いていく。

 

 

「ここで立ち止まったら、そいつが折れちまう。魂が、折れちまうんだよ」

 

 

ゆっくりと、私も神楽ちゃんも、新八くんも立ち上がる。

「…己の美学のために死ぬってか?とんだロマンティズムだ」

 

 

「なーに言ってんスか?男はみんなロマンティストでしょ」

「いやいや、女だってロマンティストはいるもんだよー」

「そうヨ。の言うとおりアル」

がさがさと、机に広げられた依頼料をあさる。

 

 

「それじゃバランス悪すぎるでしょ?男も女もバカになったらどーなるんだよ」

「それを今から試しに行くアルヨ」

「やってみなきゃわかんないしね」

それぞれ手に、子供たちのおもちゃを持って万事屋を出る。

ちなみに私は風車をチョイスしてきた。

 

 

「じゃ、いっちょ行きますか」

「「おうよ!」」

 

少し遅れて、銀さんの後を追う。

立ち止まりたくないのは、銀さんだけじゃないんだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

キリの良いところまでいこうとしたら長くなりました…!すいません…!

スープ刑事は、私が飲みたかっただけです。コーンスープ飲みたい。(黙ってて

2009/12/18