「本当に行くアルか、

「うん」

「でも、危ないですよ」

「それはお互い様。大丈夫、危なくなったら全力で逃げるから」

「…よっしゃあ!じゃあ、皆で銀ちゃん加勢しに行くアル!」

「「おうっ!!」」

 

 

 

 

第4曲 行動原動力はただのエゴ

 

 

 

 

戻ってきた煉獄関。

相変わらず、重い空気が漂っている。

 

しかし、その舞台の中心で暴れまわっている我等が万事屋のリーダー銀さんは、

道信さんの代わりとして入れられたのであろう、鬼の面を被った男を打ち倒す。

 

 

湧き上がる歓声の合間を潜り抜け、私たち三人はこっそりと観客席に紛れ込む。

そして、ガガガガッ、と神楽ちゃんの傘から銃弾が発せられた。

 

 

さっきまでの歓声とは違う声が沸きあがる。

怖がるな、負けるな。そう自分に言い聞かせて、息を吸う。

 

「ひとーつ!」

「人の世の生き血をすすり」

観客席から、声を張り上げる。

私の声に続いて新八君が鬼の面を飛ばす。

 

 

「ふたーつ!」

「不埒な悪行三昧」

ぱん、と神楽ちゃんの鬼の面が宙を舞う。

 

「「「みーっつ!」」」

びしいっと闘技場中心に立つ、銀さんを指差す。

銀さんは一瞬面倒くさそうな顔をして、がしがしと頭を掻く。

 

 

「えー、みーっつ、み…みみ、みだらな人妻を…」

「違うわァァァァ!!!」

新八くんの、とび蹴りが銀さんにヒットした。

 

 

「台無しなんだけど、銀さん。もうちょっと空気読もうよ」

「そうヨ。みっつ目はミルキーはパパの味アルヨ」

「ママの味だァァ!!」

もはや新八くんのツッコミどころもおかしくなってきている。

 

闘技場中央、煉獄関の闘士たちを見据えて口を開く。

 

「みーっつ!醜い浮世の鬼を!」

私の声に、3人が頷く。そして声は、揃う。

 

「「「「退治してくれよう!万事屋銀ちゃん見参!!!」」」」

 

 

 

かっこいいんだか、かっこ悪いんだか分からない私たちをぽかんとして見つめる闘士たち。

まあ、気持ちはよくわかる。

 

 

「…ふ、ふざけやがってェ!!やっちまえェ!!」

その声と同時に煉獄関の闘士が向かってくる。

 

、そっちは任せたアル!」

「気をつけてくださいね、さん!」

「いえっさー!」

向かってくる闘士に立ち向かう神楽ちゃんと新八くんを残し、私は逆方向へ走る。

背中に「おいっ、待て!」という銀さんの声を聞きながら。

 

 

給料がどうとかこうとかいう、この場に非常に似合わない声を聞きながら私は走る。

「…な、なんだコイツら…」

そうつぶやいて逃げようと一歩足を引いた闘士の背後にまわる。

 

「逃がしませんよ」

そいつは私の声に振り返り、腰の刀に手をかける。

「何が、目的だ…」

ギッと睨み付けてくる目に篭る殺気に体が震える。…負けるな、私。

 

「別に、そんな大層な目的なんてないですよ」

手を握り締めて声が震えないように、前を見据える。

「敵討ちというほどのものでもないんです。これは、ただの、私たちのエゴ」

「…はっ、何を…」

バカにしたように嘲笑し、ぐっと刀に力を入れた瞬間。

 

 

「理解できねーか?」

 

沖田さんが闘士の後頭部に刀を突きつけていた。

「こんな弔い合戦で得るものなんざ何もねェ。だが、ここで動かねーと自分が自分じゃなくなるんでィ」

 

「沖田さん…!」

、おめー案外肝据わってんですねィ」

「いいえもう逃げたいです」

正直なところ限界だ。こんな殺気まみれの中にいられるほど、私は壮絶な人生を歩んでいない。

 

 

「てっ…てめェら、こんなまねしてタダですむと思ってるのか?俺たちのバックに誰がいるのかしらねーのか」

上ずった声でそう呟く。

「さァ?見当もつかねーや。一体誰でィ」

この場に似合わない、にやりとした笑みを浮かべて沖田さんは言う。

 

 

「オメー達の後ろに誰がいるかって?」

ざっ、と靴と砂がこすれる音がする。

 

「俺たち真選組だよー」

「うわあ、怖い人たちがついてますねえ」

ざっ、と周りを取り囲む真選組隊士の人たち。

これでもう大丈夫。そのことに顔が綻ぶ。

 

「ヤベェ、幕府の犬だ!」

「ずらかれェ!!」

叫びながら逃げる闘士たちを目で追いながら、私は銀さんたちの姿を探す。

補導されてる銀さんのそばで、神楽ちゃんと新八くんが手を振っているのが見えた。

 

このときはまだ、こいつらの本当の背後に誰がいるのかなんて気にもかけなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局一番デカいさかなは逃がしちまったよーで。悪い奴程よくねむるとはよく言ったもんで」

橋の欄干にもたれながら沖田さんは地面の小石を蹴飛ばす。

「ついでにテメェも眠ってくれや、永遠に。人のこと散々利用してくれやがってよ」

「だから助けに来てあげたじゃないですか。ねェ?土方さん」

 

「しらん。てめーらなんざ助けに来た覚えはねェ」

ふう、と煙草の煙を吐いて土方さんは言葉を続ける。

 

「だがもし今回の件で真選組に火の粉がふりかかったらてめェら全員切腹だから」

 

 

「「「「…え?」」」」

見事に全員の声が重なる。

 

「ムリムリ!!あんなもん相当ノリノリの時じゃないと無理だから!」

今まで座っていた新八くんががばっと立ち上がって叫ぶ。

 

 

「ていうか、ノリノリでも切腹はさすがに無理だと思う」

「まあその時は頑張りなせェ。おめーの介錯は俺がしてやりまさァ」

「超いらないです」

ひらひらと手を振る沖田さんににっこりと笑って返す。

 

「総悟言っとくけどテメーもだぞ」

「マジでか」

それだけ言い残して、土方さんと沖田さんは真選組へと帰っていった。

 

 

 

 

 

「僕らもそろそろ帰りましょうか」

「そうだね」

私は座っていた橋の欄干からひょいと飛び降りる。

服に付いた砂を払って、ふと横からくる視線に気が付く。

 

 

「…銀さん?」

ちゃん。ちょっとちょっと」

ちょいちょいと手招きをされる。何だろう、と思いながら銀さんのそばへ寄る。

 

 

「バカかおめーは!」

ベチンっ、とおでこに衝撃がくる。

「いったいいいい!!何すんの!」

おでこを手で押さえると、今度は頬を銀さんにつままれる。ちょ、何この仕打ち!

 

「何すんの、じゃねーよ!丸腰でなんつーとこ来てんですかお前は!」

「いひゃい!」

痛い痛いと抗議していると、私の頬をつまんでいた手がばちんと叩き落とされる。

 

 

に手ェあげたら私が許さないアル!」

「いや待て今30倍くらいで反撃食らったんですけど!すっげぇ痛いんですけどォォ!!」

銀さんは言いながら真っ赤になっている手に息を吹きかける。

 

 

「まあ、今回はそういうの言いっこなしですよ。結果的にみんな無事だったんですし」

なだめるように新八くんが私たちの間に入る。

「あそこまで関わっておいて、最後だけ留守番なんて…嫌ですよね」

そういって新八くんはにっこりと笑う。

うん、と私は小さくうなづいて微笑んだ。

 

 

「…しょうがねえな。あーあ、なんか腹減ったし、さっさと帰るぞー」

「きゃほーい!夜ご飯アルー!」

飛び跳ねるように前を歩いていく神楽ちゃん。

あんまり急ぐと転ぶよ、と言いながら追いかける新八くん。

 

 

銀さんは私の横を歩きながら、優しい声音で言う。

「もう無茶すんなよ」

「嫌」

キッパリ言った私の言葉に、銀さんの顔が引きつる。

 

「…ちゃーん…?」

「銀さんが無茶しなくなったら、私も無茶するのやめる」

にやりと笑って言うと、銀さんは面食らったように驚いて、がしがしと頭を掻いた。

 

「…ったく、そんなら俺から…あと神楽か新八とかから離れんなよ。一人で突き進むんじゃねーぞ」

「うんっ」

 

 

ああそうだ、と言って銀さんは持っていた鬼の面を木刀で砕いた。

あの世じゃ幸せに笑って暮らせや、と呟いた声に私もそっとうなづいた。

 

 

 

 

 

あとがき

戦闘中にどうやってヒロインを組み込もうか悩んでいたら随分と間が空いてしまいました。

自分的解釈が入っているので、ちょっと自分の考えと違うと思ったらすみません…!

2010/01/05