「へえー、色々あるんですね」
「アッハッハッハ、そりゃ貿易会社じゃからのー」
「…!さ、坂本さん、この本ちょっと見せてもらっていいですか?」
「おー、好きなだけ見るといいぜよ」
「ありがとうございまーす!」
第5曲 社長ってほんとすごい
スナックすまいるのバイト中。偶然坂本さんに遭遇した。
残念ながら今日はおりょうさんはいませんよー、と言うと私に指名がとんできたのだ。
そして現在、貿易商品の中のいろいろな本を見せてもらっていた。
「これって、教科書…?」
「ん?そりゃあ寺子屋で使う本じゃき、そんなに面白いもんでもなかー」
「いや、寧ろ教科書でいいんです…!」
そう。ふと、思ったのだ。
ここにきて結構経つけれど、私、サッパリ勉強というものをしていない。
このままじゃ、私、馬鹿になる…!!
「うーん、でもやっぱり数学とかは載ってないな…」
古典文学のほうはバッチリ勉強できそうだけど、さすがに現代物は無いよね…。
唸る私の横で坂本さんは「あ」と声を漏らして、本の山を漁りだした。
「、こーいうのはどうじゃ?」
「んー……ってこ、これ英語じゃないですか!」
薄めの本をぱらぱらとめくる。
まさかここで、英語の教科書…もとい本に出合えるとは…!
「でもコレ、辞書みたいなものがないと訳せないんですよね…」
「アッハッハ、そういうと思ったきー、ほれ!」
ぽん、と手にもう一冊本を乗せられる。
そこに書かれていたのは、英和辞書の文字。
「えええええマジですか!あるんですかこんなの!」
「まあ地球製じゃないから、内容は不完全じゃがのー」
確かに私が元の世界で使っていた辞書のことを思えば、ものすごく薄い。
でも今はこれだけで十分だ。
「これで十分です!あのっ、これ、私が買い取っちゃだめですか?」
「アッハッハ、にならわしがおごってやるぜよ」
「どええええマジですかあああ!?」
とんでもない太っ腹社長な坂本さんに、ここがお店だということも忘れて御礼を言った。
坂本さんは私の頭をぽんぽんと撫でて、「大事にしてやっちょくれ」と言った。
もちろん、大切にします!
一瞬、元の世界でテスト期間に教科書を放り投げた記憶が頭をよぎったけれど。
…坂本さんから貰った本は、投げないようにしようと心に誓った。
仕事を終えてから、軽い足取りで万事屋へ帰る。
「たっだいまー!」
玄関でそう言ってみたものの、返事は無い。
あれ。今日って何か出かける用事あったっけ?
とりあえず奥まで入ってみたものの、やっぱりそこに人影は無く、いたのは定春だけだった。
「定春ー、銀さんたち知らない?」
定春は、わん、と一度吠えただけで丸まって寝る体勢に落ち着いた。
「…お登勢さんに聞いてみようかな」
坂本さんに貰った本を大切に押入れにしまってから、私は万事屋を出た。
お登勢さんに話を聞いたところ、3人は傷んだカニを食べて食中毒で病院送りになったらしい。
…お見舞いに、行ってきます。
そうお登勢さんに告げて私は病院へと足を向けた。
病院に到着してから、受け付けで部屋番号を聞く。
言われた番号の部屋を探し、閉められた戸に手をかけると中から声が聞こえた。
「もう謎のオッサンじゃねーじゃん。ただのオッサンでいいんじゃねーのか」
「そうもいかないでしょ…あ、そーだ。これからは短縮して『なっさん』と呼ぶのはどうでしょう?」
「何の話し合いしてんのあんたらァァァ!!!」
ガラララッと勢いよく戸を開けて思わず叫んでしまった私に、みんなの視線が集まる。
「ー!どうしたアルか、病院なんか来て!」
「あははは、それそっくりそのまま聞き返してあげようかー神楽ちゃん」
まあお登勢さんに話は聞いたから、入院理由は知ってるんだけどね!
「まったく、私に黙ってカニなんか食べようとするからバチが当たったんだよ銀さん」
「何で俺限定で言うのちゃーん」
「どうせ腐る前が一番おいしいとか言ってみんなにも食べさせたんでしょ」
飛びついてきた神楽ちゃんの頭を撫でながら、銀さんに冷ややかな視線を送ってやる。
「…さん、すごいですね。ほぼ正解ですよ」
ぽつりと呟いた新八くんの声と同時に、銀さんは布団に突っ伏した。
「ところで、長谷川さんもカニにあたったんですか?」
「いやいや俺は違うよ」
実はさあ…と話された内容は、なんだかとても物騒なもので。
さっき戸越しに聞こえた、謎のオッサンに撃たれたんだとかなんとか。
「それにしてもさ、みんな食中毒だっていうのに元気だよね」
神楽ちゃんはともかく、新八くんや銀さんも結構元気そうだ。
「まあ、鍛え方が違うからな」
「何の鍛え方ですか。…っと、そういえば、どうするんですか内野さんのこと」
「内野さん?」
新八くんにそう尋ねると、今までのいきさつを話してくれた。
「えええ、桂さんに惚れてる!?」
「どうもそれっぽいんですよね」
「あいつのどこがいいのか俺にはサッパリわかんねーけどな」
ベッドに寝転がったままで銀さんは呟いた。
あー、それって多分…惚れてるのは桂さんの方じゃなくて…。
「しょうがないから私たちが恋のキューピッドになってやるアル!」
そう意気込む神楽ちゃんの目が本気で、私は本当のことを言うのをやめた。
「…じゃあ、私も協力してあげるよ」
「ホントアルか!さっすがネ!」
まあ、面白そうっていうのもあるし。
「ったく、しょーがねえな……」
寝転がっていた体を起こして、銀さんは肩をまわして一息つく。
「成功するかは、わかんねーけどやってみっか」
こうして、私たちの恋のキューピッド作戦が始まった。
…ていうか、本当にみんな食中毒だったんだろうか。この元気の良さは一体何なんだ。
あとがき
坂本さん友情出演。大河ドラマおめでとう記念です。(ぁ
ちょっと息抜きにギャグを目指して頑張ろうと思います!
2010/01/24