「ここが桂さんのいる病室です」
「で、誰が仕掛け人になるアルか?」
「やっぱ仲の良い人じゃないと上手くだませないし…銀さんが行くべきじゃない?」
「確かに…僕や長谷川さんや神楽ちゃんだと、かえって怪しまれそうですしね」
「そうだな…じゃあ、、行ってこい!」
「銀さん今の話聞いてたァァァ!?」
第6曲 病院ではお静かに
桂さんのいる病室の扉に張り付いて中の様子を伺いながら作戦会議をしていた。
「ちょ、え、なんで私!?」
「お前だってヅラと仲良いだろ」
そりゃあ悪くはない。むしろ良い方だけど、上手くだませるかが問題なのだ。
「銀さんのほうが口上手いじゃん!」
「俺は別の役があるから、お前はさっき考えた作戦につながるように上手くやれ!」
「そんなめちゃくちゃな!」
あくまで声はひそひそと小さいながらも口論を続けた末。
結局、私が特攻することになった。
深呼吸をして、ガラリと戸を開ける。
「ぁ、あー!やっぱり桂さんじゃないですか!お久しぶりです!」
「ん?おお、か。久しぶりだな」
若干声が裏返ってしまったものの、桂さんは気にした風もなく喋りかけてくれた。
病室に入って、エリザベスの寝転ぶベッドのそばへ寄る。
「うわあ、エリザベスどうしたんですか。ひどい怪我じゃないですか」
「この間車にはねられてな…やはり石橋はバズーカで撃って渡るくらい注意せねば」
それは、逆に石橋も粉砕されて渡れないんじゃないだろうか。
「あ、あの桂さん。桂さんも、その勢いでちょっと健康診断とかやってみたらどうですか?」
「健康診断?そんなものしなくても俺は健康だ」
確かに健康そうだ。
…じゃなくて!
「で、でもそう思っている人ほど、体の中に悪いものができてるかもしれませんよ」
そう言うと、桂さんは悩むように腕を組んだ。
「さっきそこで、こんなチラシを拾ったんですよ」
ぴらっと一枚の紙を掲げて見せる。
「先着3名さま無料健康診断。私も行ってみようと思いますし、その、一緒に行きませんか?」
「いやー、お兄さんラッキーだね。規定人数のラストだよ」
ビン底眼鏡をかけて白衣を着た銀さんが言う。
桂さんは患者用のいすに座ったまま銀さんを見ていた。
「…あー、そんでお兄さん、ほら、さっき撮った脳の写真だけれどもね」
銀さんが喋っている間、これまた眼鏡をかけて白衣を着た長谷川さんがホワイトボードに写真を貼っていく。
「そんなもの撮った覚えはないぞ」
「さっき撮ったんだよパシャリと。なァ長谷川君」
いぶかしむ桂さんをなだめるように私は桂さんの肩に手を置く。
「さっき通ってきた入り口の壁に内蔵されてたんですよ、きっと」
「そうそう。そこのお嬢さんいい勘してるねー」
それで、と銀さんはホワイトボードに向き合う。
「ここ見てくれここ。怪しい黒点が見えるだろ…あれ」
黒点を指差すと同時に、キュっと擦れた音がして黒点が伸びる。
「オイ黒点がのびたぞ。どういうことだ?」
うわあ、これはフォローできない。
「てめっ、油性で書けって言っただろうが!」
ひそひそと診療所の裏で銀さんは神楽ちゃんに問い詰めていた。
桂さんはがたりといすから立ち上がり、簡潔に一言呟く。
「帰る」
…気持ちは分からなくもない。
「まままま落ち着いて!」
今まで奥にいた新八くんが、立ち上がった桂さんの腕を掴んだ。
「あの…このマジックはアナタの脳の異変をわかりやすく図示しただけです!」
「このまま放っておけば近日中に間違いなく頭が、あの…アレ…パーンってなりますよ」
パーンて。
そんな曖昧な理由でいいのか、と思っていると桂さんは帰ろうとする足を止めた。
「頭パーンだと。ふざけるのも大概にするがいい」
バレたか、と焦る私と新八くんと長谷川さんに挟まれてた桂さんは、一呼吸置いて新八くんを見据えた。
「国を救う大仕事を前にたおれてたまるか。なんとか治してくれ!!」
…あ、バカだこの人。
そんな呟きが私たち三人の心の中で呟かれた。
「だ…大丈夫です、入院すれば簡単に治りますから」
「入院などしてる暇はない。荒療治で結構だからスグ治してくれ」
「しょうがねー兄ちゃんだな。死んでもしらんよ。神楽坂君アレを用意したまえ」
だんだん声がたるんで、銀さんらしくなってきてるけど桂さんは気が付いていない。
そしてアレ、と言われた神楽ちゃんは文句を言いながらがさごそと病室をあさっている。
「じゃあとりあえずゼントゲンとるからこっち来て」
「ゼントゲンて何ですか」
おっと思わず突っ込んでしまった。
「ゼントゲンって何だ長谷川君?」
「しるかァァ!!自分の言葉に責任もて!!」
ついに長谷川さんも突っ込んだ。
「まあアレだ、病巣を叩く強力なマシーンだ。とりあえずマシーンの中に入れ」
そう言って銀さんが指差した先には、大きなダンボールを抱えた神楽ちゃんがいた。
いや、それ無理あるってェェェ!!
「!いくらなんでもこれはおかしかろう!?」
「いっ、いやいや、最先端技術の結晶のマシーンなんですよ、あれ!」
「そうネ!さっそと入れっつってんだヨ!!ほァたァァァ!!!」
なんとかフォローを入れて桂さんの背中を押すと、神楽ちゃんがかなりの力づくでダンボールを桂さんにかぶせた。
「今だ!しばらく退院できねー身体にしてやれェェ!!」
銀さんが叫び終わると同時に、病室からエリザベスが飛び出し、華麗なとび蹴りを食らわせた。
「ぐェぶ!!」
銀さんは床に激突し、かけていた眼鏡が飛ぶ。
「!銀時ィ!貴様ァ、こんな所で何をしている!!」
あーもう、こなったらしょうがない…よね。
「ごめんなさい桂さん!!しばらくの間、入院しててください!!」
「殿ッ!?」
私が桂さんに掴みかかろうとすると、皆もいっせいに桂さんに飛び掛かった。
「血迷ったか貴様ら!返り討ちにしてくれる!!」
「うおりゃあああ!」
そして、病院で暴れまわった私たちは、看護婦のおばさんにこってりしぼられた。
「…なんで俺たちまで入院のばさなきゃならねーんだよ」
ひゅう、と屋上のベランダに風が吹く。
「ていうか私は新規入院なんですけど。とばっちりなんですけど」
桂さんは手加減してくれたが、おばちゃんは手加減してくれなかった。
「まあでも、桂さんも見事入院だって。あとは内野さんですよ」
「それなんだがな。…内野さん、告白したらしーよ。そんでオッケーだとよ」
新八くんの呟きに、長谷川さんが小さく言う。
「マジかよ、あのヅラがねー…」
そう呟いた銀さんの視線の先には、丁度話していた内野さんの姿があった。
「噂をすれば、だね。楽しそうだよ内野さん」
「いやー、若いってのはい……」
銀さんの言葉が止まる。
それもそのはず。内野さんと手を繋いでいたのは、エリザベス。
「なんですか、アレ」
「内野さんとその彼氏でしょ」
「まっすぐな目をした違う世界を生きる彼氏アルヨ」
「あー、なるほど、そーゆーこと…」
どっと疲れが出た私たちは、そのまま屋上に倒れこんだ。
ああ、空が、すごく綺麗。
あとがき
脱力エンド。(何
久々にばたばたしてるお話になったんじゃないかと思います。
2010/03/03