「みんなァァ!!銀さんは…っ、銀さんは大丈夫なの!」

「病院でデケー声出すんじゃないよバカヤロー」

「おめーもなババァ!」

「オメーモナクソガキ!ソシテ私モサ!」

「ちょっと落ち着こうよみんなァァ!ここ病院だから静かにィィ!!」

 

 

 

 

第7曲 最近病院にお世話になりすぎ

 

 

 

ただいま病院の待合室。

銀さんが交通事故にあったという連絡を聞いて、皆で駆け込んだのだ。

今は病室で先生が銀さんを診てる。

そして、待つこと数分。やっと扉が開いた。

 

 

「うっせェェ!!ここどこだと思ってんだバカどもがァァ!」

「いや君もうるさい」

騒ぐ私たちに叫んだ看護婦のおばさんと病院先生。

同時に私たちは銀さんの病室へと飛び込む。

 

「おいィィィ!まだ入っちゃだめだって!!」

叫ぶ看護婦さんの声も聞かず、転がり込むようにして病室へ入った。

 

 

 

病室のベッドに上半身を起こして座っている銀さんは、パッと見は怪我も少なそうだ。

その姿に、少しほっとする。

 

「なんだィ、全然元気じゃないかィ」

ふう、とお登勢さんが息を吐く。

「心配しましたよ銀さん…。えらい目に遭いましたね」

そう新八君が言った後。

 

 

「…誰?」

 

 

「え?」

ぽつりと零れた声は、お互いに疑問系。

 

「一体誰だい、君達は?僕の知り合いなのかい?」

 

病室の空気が凍った瞬間だった。

 

 

 

 

「ええええええ、記憶喪失!?」

 

厄介なことになってしまった。

事故で頭を打った衝撃で、記憶をどこかに落としてしまったらしい。

病院の先生が言うには、人間の記憶は木の枝のように複雑に絡み合っているらしい。

だから、そのひとつでも動かせられれば記憶は戻る…とのこと。

 

 

 

「万事屋銀ちゃん。ここが僕の住まいなんですか?」

記憶復活のために、とりあえず万事屋に連れてきてみたものの、銀さんに変化は無い。

「そーです。銀さんはここでなんでも屋を営んでいたんですよ」

「なんでも屋…ダメだ、何も思い出せない」

銀さんは呆然と万事屋を眺める。

 

 

「まあ、ほとんどプー太郎だったけどね」

「プぅぅぅ!?この年でプぅぅぅ!?」

私が呟いた一言がよほどのショックだったのか、ぐるりと顔をこっちに向けて銀さんは叫んだ。

 

「おまけに年中死んだ魚のような目をしてぐーたら生きる屍のような男だったアル」

「家賃も払わないしね」

「給料も出ないから私が代わりに家賃立て替えてるし」

言いたいことを口々に言っていく。

あっれ、なんか否定的なことばっかりじゃね?

 

 

「どーです、何か思い出しました?」

「思い出せないっつーか、思い出したくないんですけど…」

頭を抑えてうな垂れる。

まあ、これだけ言われると忘れたままでいたくなる気持ちは分からなくもない。

 

 

「とりあえず、街を歩きに行く?」

「そーだね。こいつァ江戸中に枝張ってる男だからねぇ」

お登勢さんの後押しもあり、私たちは銀さんを引っ張って江戸の街を歩くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?記憶喪失?」

ぶらりと街を歩いていると、バイト中なのか旗を手に持つ桂さんと、看板を持つエリザベスに会った。

…何でキャバレーでバイトしてるんだろう桂さん。他に無かったんかい。

 

「それは本当か?何があったか詳しく教えろ」

「だから記憶がないって言ってるでしょーが」

真顔で尋ねる桂さんに新八くんのツッコミが炸裂する。

 

 

 

「桂さん、またバイト中なんですか」

「ああそうだ、。国を救うにも何をするにも金は必要でな」

言いながら桂さんは客寄せをする。

 

 

「そうだ銀時、お前もよっていけ。キレイなネーちゃん一杯だぞ。嫌なことなんか忘れられるぞ」

「これ以上何を忘れさせるつもりですかァ!!」

「何か思い出せそうな気がする…行ってみよう」

「ウソつけェェェ!!!」

ふらふらとお店の歩いていく銀さんの背中に跳び蹴りというツッコミを入れる新八くん。

毎度ご苦労様です。

 

 

「あっ、今ので何かきそう!何かここまできてる!」

「本当か!思い出せ銀時!お前は俺の舎弟として日々こきつかわれていたんだ!」

桂さんはここぞとばかりに滅茶苦茶なことを言い出す。

 

 

「どのへんアルか?どのへん叩かれたら記憶が刺激された?」

「このへんじゃない?ここらへん」

「いや、このへんだろ。アレ?このへんか?」

ドカッバキッと銀さんの色んなところをを殴る私たち。

いつの間にかそこにはエリザベスも加わっていた。

 

 

 

背中だの、頭だの、そこらじゅうを殴っていると突然声が響いた。

「かーーーつらァァァァーーー!!!」

 

 

その声に桂さんはハッとして声のほうを向く。

!」

「うおっ!?」

 

桂さんにぐいっと手を引かれて、私の体は道に投げ出される。

同時にどおんっという音がした方向を見ると、さっきまで私たちがいたところにはパトカーが突っ込んでいた。

 

 

「な、なななな何ィィィ!?」

さらりとパトカーをかわした神楽ちゃんと、寸前で逃げた新八くん。

 

あれ、桂さんは?と思うと、突っ込んできたパトカーの屋根の上に立っていた。

そして、そこからタンッと飛び降りるとパトカーが爆発した。

 

 

「フン、芋侍が。家でチャンバラごっこでもしているがいい」

巻き上がる砂埃の中から、桂さんの声が聞こえる。

 

「いや!今日は付き合ってもらうぜェ桂ァァ!!!」

砂埃から飛び出してきたのは、若干黒焦げになっている土方さんと沖田さんだった。

ってことはさっき突っ込んできたのは土方さんと沖田さんか!

死ぬかと思っただろうがァァ!

 

 

そのまま桂さんとエリザベスは逃亡し、土方さんと沖田さんは2人を追って走っていった。

 

 

「って、しまった!銀さんがいない!」

急な出来事に呆然としていたものの、銀さんがいないことに気づいた。

「!銀さんっ!」

駆け出した新八くんを私と神楽ちゃんは追う。

 

 

未だ煙の止まらないパトカーのそばに、銀さんは倒れていた。

「銀ちゃん!」

「しっかりしてよ銀さん!」

「意識はある!?大丈夫!?」

口々に叫ぶ私たちに、銀さんは衝撃の一言を放った。

 

 

 

「君達は…誰だ?」

 

 

 

…記憶復活には相当時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

あとがき

記憶喪失編スタートです。

多分、ギャグ路線を突っ走ると思います。……多分。←

2010/03/10