「…すみません。色々手を尽くしてくれたのに、結局僕はなんにも…」
「謝らないでよ、銀さんらしくないし」
「そうですよ。銀さんは90%自分が悪くても残りの10%に全身全霊をかけて謝らない人ですよ」
「そうネ。ゆっくり思い出せばいいアル」
「うんうん。私達、ちゃんと待ってるからさ」
第8曲 焦らないでいいと言ったのは
あれから、新八くんの家へも行った。
お妙さんに話を聞いてもらっていると銀さんがアイスに反応をしたのだ。
そういえば、銀さんといえば糖分じゃん!ということで甘いものを与えてみようとしたのだけれど。
お妙さんお手製の甘め卵焼きにやられて、結局また振り出しに戻ってしまった。
ついでに、その場に居合わせた近藤さんの記憶もリセットされてしまった。
日も沈みかけてきた頃、私たち4人は万事屋へ向かって歩いている。
「今日は家に帰ろう?一気にいろんなことがあっても逆に混乱しちゃうし」
「の言うとおりネ。それに外よりウチの方が一杯思い出アルネ。何か思い出すかも…」
喋りながら歩いていると、万事屋のほうに人だかりができていた。
何事だろうと思って近づいて見ると、見事に万事屋に宇宙船が突っ込んでいた。
…今日は乗り物が突っ込んでくることに縁があるなあ。
「って何だあれェェェ!!」
「な、なんで万事屋に…!?」
驚く私達に、周りの人たちが教えてくれた。
どうやら飲酒運転で突っ込んだらしい。
「アッハッハッハ、すみまっせーん」
急に明るい笑い声が聞こえてきた。
「友達の家ば行こーとしちょったら手元狂ってしもーたきに。このへんに万事屋金ちゃんって店はありませんかのー」
「万事屋銀ちゃんならアンタの突っ込んだ家ですけどね」
「違う違う金ちゃんじゃ。おまえ何をきいとるんじゃ、そそっかしい奴じゃのーアッハッハッハ」
警察に手を引かれ、声の主である坂本さんはパトカーに乗せられて行った。
さ、さ、坂本さんんん!なんてタイミングで突っ込んでくるんですか!
万事屋はほとんど崩壊している。
あの様子じゃ、今日は帰れそうにない。
「…どうしましょ。家までなくなっちゃった」
力の抜けた新八くんの声がその場に響く。
「……もう、いいですよ。僕のことはほっておいて」
銀さんのその声は、街の雑踏にもパトカーの音にもかき消されず、私たちに届いた。
「みんな帰る所があるんでしょう?僕のことは気にせずに、どうぞもう自由になってください」
「銀さん?」
「みんなの話じゃ僕もムチャクチャな男だったらしいし、生まれ変わったつもりで生き直してみようかなって」
倒壊した万事屋を眺めていた銀さんは、そう言って視線を私たちに向ける。
「万事屋は、ここで解散しましょう」
頭が追いつかない。
ただ、その言葉だけが頭の中に響く。
「ウ…ウソでしょ銀さん」
「やーヨ!私給料なんていらない、酢昆布で我慢するから!ねェ銀ちゃん!」
「すまない。君達の知っている銀さんは、もう僕の中にはいないよ」
はっと我に返って、私は叫ぶ。
「待って、銀さんっ!」
どんなに声を張り上げても、もう銀さんは振り向いてくれない。
そのまま歩いて街に消えていく背中を見つめるだけしか、できない。
そりゃあ、私はこの先どうなるか知ってるけど。
待っていれば、そのうち銀さんはちゃんと思い出してくれるけど、それまで何もしないで待つなんて。
そんなの、嫌だ。
「さん!?」
急に走り出した私の背中に新八くんの声が響く。
「…銀さんは絶対大丈夫。絶対、私たちのことも、全部思い出す!」
確信を持ったように、笑顔で振り返って叫ぶ。
「どうして分かるんですか、さん…っ!」
知ってるから、なんて言えはしない。
だから私は笑って叫んだ。
「…私の勘!」
「銀さん!待って、銀さんっ!!」
「…あなたも、帰る場所が」
「無いです」
キッパリと言ってのける。
「私の帰る場所は、あの万事屋なんです。だから今は私も帰る場所が無いんです」
息を整えながら言った私を見る銀さんの顔色は、変わらない。
「…でも、僕は」
「信じてるよ。私は…ううん、私も、神楽ちゃんや新八くんも皆、銀さんが帰ってくるのを待ってる」
ぎゅう、と手を握り締める。
「…私も、前に大切なことを忘れかけていたことがあったの」
小さな声でそう言うと、銀さんはぴくりと反応した。
「そのとき、銀さんが言ってくれたんだよ。本当に大切なことは、忘れないって」
「そうなんですか」
記憶に無いとでも言うような口調で銀さんは言う。
まあ実際、今は記憶に無いんだろうけど。
「焦らなくていい、ひとつずつ、ゆっくり記憶をたどればいい。そう言ってくれたのは、銀さんなんだよ」
その言葉のおかげで、今となっては私の忘れてしまっていたことも思い出すことができた。
ただひとつ、この世界に来た方法だけを除いて。
「あの時は銀さんが私の支えになってくれた。だから、今度は私が支えになる」
すっと手を銀さんに差し出す。
「あきらめないで」
忘れないで。
そんな気持ちをこめて、手を伸ばす。
しばらくの沈黙の後、銀さんは小さく息を吸って、言葉を紡ぎ出した。
「どうして、そこまで僕にこだわるんですか」
私は静かにその言葉を聞く。
「僕は、ろくでもない人間だったんでしょう。だったら…」
「銀さんが本当にただのろくでもない人間だったら、あんなにたくさん友達がいるわけないでしょ」
我慢ができなくなって、ギッと銀さんの目を睨むように見る。
「もし、本当にそんな自分が嫌で変わりたいなら、記憶が戻ってから変わればいい」
伸ばしたままの腕が小さく震える。
「元の自分を知らないままで、勝手に変わらないでよ!焦らないでいいって言ったでしょうが!」
叱るような口調で叫ぶ。
目の前に立つ銀さんはびっくりしているのか、口が半開き状態になっている。
「……そう、ですね。思い出してからでも、遅くないかもしれません」
ぽつりと呟いて、銀さんはそっと伸ばしたままの私の手を握る。
「それに、あなたのことを忘れたままでいるのは、もったいない気がします」
ふわりと笑う銀さんは、やっぱり銀さんらしくはないけれど。
少しは前向きになってくれた、かな。
「あの、それで…お名前は…」
「。私は、」
申し訳なさそうに言う銀さんに私は笑って答える。
「では、さん。よろしくお願いします」
「おうっ!任せとけ!」
名字で呼ばれることに違和感を感じながら、私は銀さんを引っ張って、ある場所を目指して歩き出した。
焦るなとは言ったけど、やっぱり早く思い出して欲しい。
…敬語で話す銀さんは、なんか気持ち悪い。
あとがき
あれ、ギャグにならなかった気がする。(ぁ
ヒロイン奮闘記みたいですね後半。
2010/03/22