「えーと、山崎…ん?コレ何て読むんだ」

「さがるです。山崎退」

「あ、そっ。おたくもリストラ?最近は職にあぶれた侍で街あふれ返ってるもんなー」

「そうですね」

「じゃ、仲良くやってくれ。おーい、みーんな、新入りだぞ」

「「うぃーす」」

 

 

 

 

第9曲 流れ作業はスムーズに行うべし

 

 

 

工場長、マムシの声を聞いて振り返る。

そこにはこれでもかというくらい目をかっ開いた山崎さんがいた。

 

 

「ぇええぇぇぇええ!?万事屋の旦那!?それにさん!?なんでこんな所に!?」

「まあ色々ありまして…」

事情を説明しようとすると、銀さんが私の腕をちょいちょいと引いた。

 

さんの知り合いですか?」

「うん。ちなみに銀さんとも知り合いだからね」

そうなんですか、と言って銀さんは山崎さんを見る。

 

「……さん」

「言いたいことはすごく分かります」

 

 

 

ということで、かくかくしかじか。

山崎さんにこれまでの経緯を話した。

 

 

「信じがたいですけど…確かにキャラがいつもと違うし、目が死んでないなあ」

「ちょっとはマシになったんですけどね、これでも」

この工場に来てからまだ日は浅いけれど、少しは銀さんらしくなって…きてる…はず…。

 

 

「山崎さんは何でここに?潜入捜査とかそんな感じですか?」

「そうそう…って何で知ってるの!?」

「…勘です」

他の人たちに聞こえないようにこそこそと話す。

 

 

「ええと、それで…名前なんでしたっけ。真選組の真ちゃんでしたっけ」

「ちょっとォォォ!!潜入捜査って言ってるでしょ…あっ!言っちゃった」

パァン、と銀さんの頭を叩きながら叫ぶ山崎さん。

 

「なんですかアナタ。人の頭パンパンパンパン。タンバリン奏者気どりですか」

叩かれた頭をさすりながら髪を整える。

でも天パだから大して変わらないよ銀さん。

 

 

「じゃあ潜入捜査のせんちゃんとかどうですか」

「嫌がらせ?山崎って言ってるでしょ」

「いや、覚えてないんでタンバラーで」

「覚えてないっつーか覚える気ねーじゃねーか!」

そんなやり取りを眺めながら、私は窓の外を眺める。

 

 

ここへ来てすぐに出した手紙は、そろそろ到着する頃だろう。

お登勢さん宛に出した、この工場の場所を書いた手紙が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウイーン、というベルトコンベアの音を聞きながら無心で手を動かす。

早くスナックすまいるに戻りたいなあと思いながらも作業を進める。

 

一応、仕事を休むことは手紙に書いておいたから、新八くんからお妙さん伝いで店に連絡がいってると思うけど。

もともと不定期な仕事だけど…やっぱり、あそこの方が落ち着くし。

なんにせよ、さっさと銀さんが記憶取り戻してくれないといけないんだよね。

 

 

思わずため息が出そうになったところで、マムシの怒鳴る声が聞こえた。

「オイぃぃぃテメっ、何やってんだァ!?」

「ス…スイマセン」

 

まあ最初は失敗もあるよね。

なんてことを思いながら、作業を進める。

 

…この、ジャスタウェイ製作作業を。

 

 

 

 

ギャンギャンとマムシと言い合っている山崎さんの声が聞こえる。

「てめーらは無心にただひたすら手ェ動かしてればいいんだよ。見ろォ、坂田とを!!」

 

マムシの声がして、ふと顔を上げると周りにいた作業員の人たちも私と銀さんを見ていた。

否、私たちによって量産されていくジャスタウェイを見ていた。

 

 

「うおおおお!スゲェェ速ェェ!!」

しゅばばばっ、と手が見えないくらいの速さでジャスタウェイを作っていく銀さん。

うおわ、速っ。そう思ってる私の横にも、結構なジャスタウェイの山が出来上がっていた。

あれ、私こんなに作ったっけ。

 

 

「さすが坂田さんとさんだ。ものすごい勢いでジャスタウェイが量産されてゆく!」

「次期工場長は坂田さんで、副工場長はさんしかいねーな!」

「そんなんで工場長決まるの!?おしまいだ!ココおしまいだよ!!」

 

山崎さんのツッコミを聞いていたら、なんだか新八くんに会いたくなった。

新八くんと神楽ちゃんは今、どうしてるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼休憩がやってきた。

支給されたお弁当は、何気に豪華だった。

いや、普通のコンビニ弁当なんだけどね。

今までの万事屋のご飯を思い出すと、ほら、豪華な気分…。

 

「…はあ」

「どうしたんですか、さん」

「なんでもない」

もぐもぐとご飯を食べながら銀さんは私の方を見る。

お前が記憶取り戻せば全部丸く収まるんだよコノヤロー。

 

 

二度目のため息をつきそうになると、隣で電話をしていた山崎さんが口を開いた。

「旦那ァ、さん。俺もうココひきあげます」

「ええー山崎さんやめちゃうんですか」

お昼ごはんを食べる手を止めて山崎さんを見る。

 

「ジミー、アレくらいでへこたれるのかよ。誰だって最初はうまくいかない。人間なんでも慣れさ」

「ジミーって誰!?それはもしかして地味から来てるのか!?」

山崎さんは通話ボタンを押して携帯を閉じながら叫ぶ。

 

 

 

「旦那も早いとこひき払ったほうがいいと思いますよ。ここの工場長、何かと黒いうわさの絶えない野郎でね」

「テロリストとかそういう系ですか」

喋りながらも食べ終わったお弁当にふたをして、お茶に手を伸ばす。

 

 

「そうそう。裏じゃ攘夷浪士の武器を製造してるとか…近く大量殺戮兵器を用いてテロを起こそうとしてるとか」

「困ったものですねえ」

「そうなんだよね…っていうか、さんも危ないから逃げた方がいいからね」

 

すごい他人事みたいに言うけど、と山崎さんは言う。

…まあ、この後に起こることは大体分かってるし。

分かってはいるんだけど、銀さんの記憶がどうしても気がかりで、ほかの事に頭が回らない。

 

 

 

「まァ、結果こんなモンしか出てきませんでしたが」

言いながら側にあったジャスタウェイを手に取る。

 

「おやっさんがエロリストだと!いいがかりは止めろ!」

「テロリストね」

山崎さんのツッコミは冷静だった。

 

 

 

「それに僕は以前の堕落した自分は受け入れられない。生き直そうと心に決めたんだ」

まだ言うかお前は。

そんな目線を向けてやると、少しだけ銀さんは怯んだ。

 

「そうですか。ちょっと残念な気もしますが。局長も沖田隊長も一目置いてるようだったので」

立ち上がった山崎さんに、私は声をかける。

 

 

「ところで山崎さん、どうしてここ止めちゃうんですか」

「あー…なんか局長が行方不明になってるらしくて」

「じゃあ大丈夫ですよ。ほら、そこ」

「?」

キョトンとしながら山崎さんは私が指を差した方向に目をやる。

 

 

「坂田さーん。ちょっと僕のジャスタウェイ見てくれませんか?どうですかコレ」

「そうだね。もうちょっとここ気持ち上の方がいいかなゴリさん」

「お前何してんのォォォォ!!!!」

 

山崎さんの鉄拳が飛んだ。

 

 

 

「山崎さん!近藤さんも今記憶喪失なんですよ、丁重に扱ってあげてください」

「マジですか局長ォ!アンタ、バカのくせに何ややこしい症状に見舞われてんのォォ!!」

ひとしきり近藤さんを罵った後、山崎さんは携帯で、おそらく真選組屯所に連絡を入れた。

 

 

「とにかく!一緒に帰りますよ局長!」

「やめろぅ!!僕は江戸一番のジャスタウェイ職人になるって決めたんだ!」

ぎゅう、といくつかのジャスタウェイを大事そうに抱えて叫ぶ近藤さんの手を、山崎さんは容赦なく引っ張る。

 

「ほら、早く!」

ぐいっと一際強く引っ張った際、近藤さんの腕からジャスタウェイがひとつ飛んでいった。

 

 

 

その先で、ゴォン!!という巨大な爆音が響いた。

呆然とする私たちの髪を、爆風が撫でていった。

 

 

 

 

 

あとがき

かつてないほどに名字を呼ばれるヒロイン。

どこで切るか悩んでたら長くなっちゃいました。

2010/04/24