「撃ったァァァ!撃ちやがったよアイツらァァァ!!!」

「なんですかァァあの人達!!ホントにあなた達の仲間なんんですかァ!?」

「仲間じゃねーよあんなん!」

「よーし、帰ったら皆で沖田さんあたりを集団リンチですね」

さん怖い!」

 

 

 

 

第11曲 あなたらしい生き方を

 

 

 

まあしかし、偶然にも私と山崎さんは屋根から分離することができた。

看板はまだしつこく背中にひっついているけど。

 

「あれ、近藤さんは?」

「え、あれ、局長!どこですか!?」

山崎さんがあたりを見回して叫ぶと、爆煙の中から声が聞こえた。

 

 

「オウここだ。みんな怪我はないか。大丈夫か?」

声のするほうを見ると、看板から開放されてはいるが、壊れた屋根の破片が頭にささった近藤さんが立っていた。

「大丈夫です、っていうか頭…」

視線を近藤さんの頭に向けて呟く。

 

 

「まるで長い夢でも見ていたようだ」

「局長、まさか記憶が…ていうか頭…」

山崎さんも気になっていたようで、視線の先は私と同じ。

 

 

「とにもかくにも今は逃げるのが先決だ。行くぞ」

「局長待ってください、まだ旦那が!」

未だ屋根とくっついたままの銀さんに駆け寄る。

 

「…いえ、行ってください」

さん!?」

驚いた顔をして私の方を見る山崎さんと近藤さんに向かって、にっこりと笑う。

 

 

「大丈夫です。銀さんは、私がなんとかします。それよりも早く屋根から下りて…下で、待っててください」

「しかし、ちゃん…」

近藤さんが言葉を続けるより先に山崎さんが口を開いた。

 

「任せても大丈夫なんだよね。俺は、信じてるよ、さん」

「…はい。任せてください!」

そういうと山崎さんは「行きますよ局長!」と言って、近藤さんと共に屋根を走っていった。

 

 

 

「さて。私たちも逃げるよ、銀さん」

「僕のことはいい…さんだけでも」

 

銀さんの言葉に耳を貸さず、私は銀さんの背後の瓦礫の上に立つ。

ふーっ、と息を吐いて小さく呟く。

「銀さん。ちょっと、歯ァ食いしばっててね」

「え?」

 

意識を集中させる。

大丈夫、大丈夫。絶対、銀さんを助けるんだ。

 

「はああああっ!!いっけぇえええええ!!!」

足を後ろに振り上げ、思いっきり、渾身の力を込めて瓦礫ごと銀さんの背にある看板を蹴り飛ばす。

ドゴオッという重い音と共に、瓦礫と看板ごと銀さんが飛ぶ。

 

 

「わ、うわっ!」

驚愕の声を零しながら銀さんは勢いよくガラガラと屋根から転がり落ちる。

私も屋根を走り、ばっと飛び降りる。

 

 

 

ちゃん!」

屋根の下で待っていてくれた近藤さんは銀さんを受け止めてから、私のことも受け止めてくれた。

その瞬間、私たちがさっきまでいた屋根に再び砲弾が飛んだ。

 

「なかなか、君も無茶するなぁ」

「あはは、今、足めっちゃ痛いですけどね」

どこからあんな力が出たんだろうというくらいだったから…後で腫れるだろうなあ…。

 

 

「局長、さん!旦那も、早く逃げないと!」

山崎さんの声に私たちは爆風の中を走り抜ける。

すると突然、桁違いの爆音が響いた。

 

 

破壊力も桁違いな勢いで発射された蝮Zは私たちのいるほうへ向かってくる。

「クソ…るああああ!!!」

ドカッと近藤さんは銀さんに体当たりをし、それに連鎖して私たちを蝮Zから引き離す。

 

 

転がるように私たちは爆発から逃れた。

辺り一面、抉られたように吹き飛んだ中、私と山崎さんは近藤さんの姿を探す。

「!局長ッ!!」

「近藤さん…!!」

爆煙の中から近藤さんが倒れているのが見え、山崎さんが駆け寄った。

 

 

「見たか!蝮Zの威力を!止められるものなら止めてみろォォ!」

姿までは見えないけれど、蝮の声が聞こえる。

さすがにもう銀さんを連れて逃げるほどの力は残っていない。そもそも手が空いていない。

 

ぐっと足に力を入れて、呆然としている銀さんの前に立つ。

「…っ、大丈夫。私が、守るから。絶対一緒に万事屋に帰るんだからね…!」

さん…」

 

 

銀さんの声の後。

すっと私の両隣に人影が並んだ。

 

 

「どうぞ撃ちたきゃ撃ってください」

 

「江戸が焼けようが煮られようが知ったこっちゃないネ」

「でも、この人だけは撃っちゃ困りますよ」

そう言って私の横に立ったのは、新八くんと、神楽ちゃん。

 

 

「すみません、遅くなりました」

だけカッコつけるのはズルいヨ」

新八くんに私の背にくっついている看板と腕を縛っていた紐を解いてもらい、やっと体が自由になった。

 

 

「な…なんでこんな所に…。僕のことはもういいって、もう好きに生きていこうって言ったじゃないか」

地面に倒れたままの銀さんが信じられない、というような口調で言う。

言い終わると同時くらいに、新八くんと神楽ちゃんは銀さんの頭を蹴った。

 

 

「オメーに言われなくてもなァ、こちとらとっくに好きに生きてんだヨ」

「好きでここに来てんだよ」

 

 

「「好きでアンタと一緒にいんだよ」」

 

 

少しだけ振り返って、銀さんに向かって話す。

「そういうこと。私も含めて、みんな自分の意志で動いてるの。好きで、ここにいるの」

「……」

 

ゆらゆらと銀さんの瞳が揺れる中。

銀さんを守るように私たちの隣に、真選組のみんながずらりと並んだ。

 

 

「なんなんスか一体」

「不本意だが仕事の都合上一般市民は護らなきゃいかんのでね」

ふうと煙草の煙を吐きながら土方さんは言った。

 

 

「ガキはすっこんでな。死にてーのか」

「あんだとてめーもガキだろ」

神楽ちゃんと沖田さんが隣でメンチを切りあいながら立つ。

 

「あ、沖田さんさっき私らごと撃ちましたよね後で覚えとけコノヤロー!……って山崎さんが言ってました」

「よし帰ったらザキをリンチでさァ」

ごめん山崎さん。でもちょっとスッキリしたよ、私が。

 

 

 

「そういうことだ。撃ちたきゃ俺達撃て」

「そうだ撃ってみろコラァ!」

「ハゲ!リストラハゲ!」

 

…最後の叫びは完全にただの嫌がらせだと思うんだけど。

 

 

「俺がいつハゲたァァ!!上等だァ江戸を消す前にてめーらから消してやるよ!」

蝮Zの装填を始めながら、マムシは叫ぶ。

 

「私達消す前にお前消してやるネ!」

「いけェェ!!」

神楽ちゃんを筆頭に、ばっと走り出す新八くんと土方さん、沖田さん。

 

そして私の横を、銀色の髪をしたひとが駆け抜ける。

 

 

 

「工場長。すんませーん、坂田とは今日で仕事やめさせてもらいまーす」

 

 

「ぎっ…銀さん!!」

新八くんから木刀を受け取った銀さんは、いつもと変わらない銀さんだった。

 

「ワリーが俺ァやっぱり、自由の方が向いてるらしい」

そう言って銀さんは屋根を駆け上がり、蝮Zの前へと飛ぶ。

 

「死ねェェェ坂田ァァァ!!!」

「お世話になりました」

 

銀さんらしい笑顔で、砲筒に木刀を突き刺す。

同時にピシッと砲筒にヒビが入り、蝮Zは暴発し、屋根もろとも爆発した。

 

 

砂煙の中。

見えるひとりの人影。

 

 

「けーるぞ」

神楽ちゃんと新八くんにそう言って銀さんは私の目の前で足を止める。

 

 

「帰るぞ、

ああ、銀さんに名前を呼ばれるのは、いつ振りだろう。

ずいぶんと長い時間が空いてしまった気がする。

 

「…うん」

差し出された手を握る前に、私はすっと息を吸う。

 

 

「思い出すのが遅いのよ!!このバカチンがァァァ!!!」

「ぶべらっ!!」

パーン、という私が銀さんの頬をひっぱたいた音が響く。

頬を押さえて「え?何で?え?」とうろたえる銀さんの前に立つと、銀さんは一瞬びくりと肩を揺らした。

 

 

「……っ、おかえり、銀さん」

本当に、随分長い間会ってなかった気がして、ほんの少し泣きそうになるのをこらえて、へにゃりと笑う。

「…た…ただいま」

私がひっぱたいたせいで赤くなった頬を擦りながら銀さんはそう呟いた。

 

ところで。ひっぱたいた方と逆の頬も、若干赤かった気がするけど…気のせい、だよね。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

長くなりましたが、記憶喪失篇が終わりました!おかえりなさい!

2010/05/21