「お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様、ちゃん」
「お妙さんは朝方まで仕事なんですか?」
「ええ、そうよ」
「頑張ってくださいね。あ、あと気をつけてくださいね、夜道は危ないですから!」
「ふふ、大丈夫よいざとなったらボキッとやるから」
「何を!?」
第13曲 夕暮れかぶき町帰り道
夕方。スナックすまいるでの仕事を終えて、私は帰路についていた。
かぶき町は夜に近づくほど、活気が出てくる町。
少しずつお店のネオンが輝いて、華やかになっていく。
そんな中を歩いていると、前から見知った人が走ってきた。
「あれ、桂さんとエリザベス?」
「ではないか。丁度いい、頼みがある」
桂さんは私の目の前まで走ってくると、私の肩にぽんと手を置く。
「え。頼みって何なんですか急に」
「すまない。ちょっと逃亡中でな。奴のことは任せた!」
そういい残して、再び走り去っていく二人。
現状に頭がついていけず、呆然としていると、また前から人が走ってくる。
「桂ァァァ!!てめっ、いい加減…ってあ??」
若干息切れをしながら走ってきたのは、土方さん。
ああ、頼みって…そういうことか。
「あの、桂さんなら見てませんよ」
「なっ…くそ、ぜってーこっちに逃げたと思ったんだが…」
土方さんは、はあと息を吐いて頭をがしがしと掻く。
…ごめんなさい、土方さん。
心の中でそう謝っておいた。ていうか、何で私が逃亡手伝わなきゃならないんだろう。
「っと、そういえば、お前足は大丈夫なのか?」
いつの間にか息の整った声で尋ねられる。
さすが、私とは体力が違うわ…。
「大丈夫ですけど、私土方さんに足のこと言いましたっけ?」
「いや、お前んとこのチャイナ娘から聞いた」
「なるほど」
ぽん、と手を打つ。
「さてと。桂も逃がしちまったことだし…一旦引くか。帰り道ついでに送ってってやるよ」
「えっ、いいんですか?」
もう随分と慣れてしまったかぶき町。
帰り道も、迷ったりはしない。
「この辺は明るいが、何があるかわかんねーだろ。それに足、本調子とまではいってねぇだろ」
確かに、何かあってダッシュで逃げろと言われても、今はちょっと無理だ。
「…じゃあ、お願いします」
「おう」
万事屋へと戻る道のりで、私はふと近藤さんのことを思い出した。
「そういえば、近藤さんあれから大丈夫ですか、記憶の方」
「ああ。なんとか戻ったみてーで、今も元気にストーカー中だ」
はあ、と疲れた感じのため息と共にそう言った土方さん。
なんというか…あらゆる面でお疲れ様ですと言いたい。
「本当は私もお見舞いというか、様子見に行きたかったんですけど…足が痛くて」
「気にすんな。記憶喪失っつーのは初めてだが…まあ、近藤さんのハプニングなんざ慣れっこだしな」
慣れるほどになってしまったのか。近藤さん絡みのハプニングは。
「土方さん、ちゃんと休暇とってくださいね」
「あ?ああ、そりゃいくらなんでも働きづめじゃ死にそうだからな」
…それが、冗談で済むように。
本当にちゃんと休暇をとっていただきたい。
そんな話をしているうちに、私たちは万事屋の前に到着した。
「あ、じゃあここで大丈夫です。送ってくださって、ありがとうございました!」
ぺこりと頭をさげてお礼を言う。
「お前もちゃんと休めよ。あのうるせー奴らと一緒に住んでると、疲れるだろ」
「あはは、否定はしませんけど。でも、楽しいですよ」
毎日を楽しいと思える。
何かあるわけじゃないけれど、ただ万事屋でごろごろしてるだけでも、楽しいと思えるのだ。
本当に、夢なんじゃないかと思うような生活。
「私は…ここでの生活が、好きです」
ぽつりとそう呟いた言葉に、土方さんは「そうか」と言って笑った。
「まぁ、でも何かあったら言えよ。俺でよけりゃ相談でも乗ってやらァ」
そう言って私の頭をぽんぽん、と撫でてから土方さんは屯所へと歩いていった。
「…ありがとうございます、土方さん!」
去っていく背にそう叫ぶと、土方さんは振り返らないまま、ひらひらと手を振って人混みに消えていった。
しばらく土方さんが去っていった方向を見ていると、がらりと戸の開く音がした。
「おや。アンタ帰ってたのかい」
「あ、はい!今帰りましたー!」
お店の看板を出しに来たのだろうお登勢さんに笑って言う。
「まったく、銀時ももうちょっとアンタを見習って働けってんだ」
「そうですよねー。でも、怪我しない仕事でお願いしたいです」
ここのところ、何か依頼があるたびに怪我してる気がするし。
「アイツは丈夫だから、ちょっとやそっとじゃ死にゃしないよ」
「まあ、確かに」
なんてことを言いながら私とお登勢さんは顔を見合わせて笑った。
「で、先月の家賃なんだけど」
「すいまっせん、もうちょっと待っててください」
…やっぱり多少の怪我はしてでも、仕事してもらいたいかもしれない。
あとがき
日常生活のひととき、みたいなお話。
溜まりに溜まった家賃を払ってるのはヒロインだったりします。
2010/07/03