「あーだりぃー仕事行きたくねー」

「何贅沢言ってるんですか。せっかくきた仕事なんですから」

「そうヨ。今日くらいしっかりキリキリ働いてくるヨロシ!いつもにばっかり働かせて!」

「え、いや、まあ間違ってないけど」

「そこ否定しねーのかよ

 

 

 

第14曲 使い時はもう少し先

 

 

 

久しぶりに万事屋に依頼が来たのだ。

といっても、銀さん一人でなんとかなりそうな依頼だったから、私と神楽ちゃん、新八くんは家で待機。

 

「くっそー…めんどくせぇ」

「このままじゃ家賃どころか生活費もピンチですよ銀さん」

ソファで項垂れる銀さんに新八くんは呆れたように言う。

 

 

「そうそう。銀さんの好きなパフェも金銭的に週一回どころか月一回になっちゃうよ」

「行ってきます」

 

私が言った後、スッと立ち上がった銀さんはそのまますたすたと玄関へ歩いていく。

そしてすぐにガララッ、という戸閉まる音がした。

 

 

 

 

さん、銀さんの扱い上手くなってきましたね」

「かっけーアル

「慣れだよ、慣れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日は久々の快晴。

新八くんと一緒にベランダに布団を干してふと押入れに目を向ける。

 

「あ、そういえば…」

ごそごそと奥にあるものを引っ張り出す。

うっすらと埃の積もったそれをベランダに持って行き、埃を払う。

 

 

「手入れとか、したほうがいいんだっけ…?」

手に持った木刀を眺めながら、ぽつりと呟いた。

 

 

銀さんは普段手入れなんかしてないみたいだけど…実際どうなんだろう。

聞くにしても、銀さんじゃ「何でお前が木刀なんか持ってんだよ」とか聞いてきそうだし。

…誰か丁度いい人は…。

 

 

 

 

 

 

 

「木刀の手入れですか?」

「そうそう」

 

掃除を終えて居間でお茶を飲んでいた新八くんに聞くことにした。

そしていつの間にか神楽ちゃんが定春と散歩に行っていた。

…ほんと、いつの間に…。

 

 

「そうですねー。普通の刀と違って、そんなに頻繁にやらなくても大丈夫ですけど」

「あ、そうなの?」

さすがは道場の息子だ。そこらへんはよく知っている。

 

 

「つやが無くなってきたりしたら油を塗るんですよ」

「つや…」

じっと手元の木刀を見る。

埃が積もっていたというのに、結構つやは残っている…のかな。

首を傾げていると、新八くんがひょっこりと横から木刀を覗き込む。

 

 

「それくらいならまだ大丈夫だと思いますよ。あ、今度家から油持ってきましょうか?」

「ほんと!?じゃ、じゃあよろしくお願いします!」

はい、と言って笑った新八くん。

やっぱり聞いてみてよかったなあ。…と思ったのもつかの間。

 

 

 

「でも、その木刀どうしたんですか?」

 

やっぱりそれ聞いちゃうんだ。

そう思ったのが顔に出たのか、新八くんは少し焦ったようにして口を開いた。

 

「あ、いや、言いたくなければいいですよ!」

「そうじゃないんだけどね。ちょっと説明しづらいというか…」

 

 

何せ、松陽先生から餞別代りに貰ったものだし。

ちょっと過去まで行ってきましたーなんて、言えるわけが無い。

…トリップしてきたことすら、言えていないのに。

 

 

「大切な人からね、貰ったの。魂を守るために使いなさい、って言われて」

ぎゅっと木刀を抱きしめるようにして握る。

「そっか。じゃあ大切にしてあげないとですね、その木刀」

優しく笑った新八くんに、大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

木刀を押入れに再び戻して、しばらくすると神楽ちゃんが定春と一緒に帰ってきた。

「ただいまアルー」

「おかえり、もうすぐお昼だよー」

今日のお昼は新八くんの当番。

台所から漂う美味しそうな香りにお腹も鳴りそうだ。

 

 

「できましたよーっと、あ、おかえり神楽ちゃん。ちょうどお昼が出来たとこだよ」

「ふおー!眼鏡にしてはナイスタイミングアル!」

「それどういう意味」

 

新八くんは両手にオムライスを持って顔を引きつらせる。

まあまあ、と宥めてから三人でいただきます、と言ってからお昼を食べ始めた。

 

 

 

思えばこうやって万事屋に3人でいることは久しぶりかもしれない。

いつもは、4人だったから。

もしくは私か新八くんがいない3人。

 

なんか、仕事行ってる父親待ってる子供みたいだ私たち。

 

 

 

「新八ィ、おかわり!」

「無いよ!金ピンチだって言ったでしょ!給料以前に食料もピンチなんだよ!」

「チッ、使えねーアルな」

「何でだよ!」

 

僕別に悪くないんですけど、と呟く新八くんとソファにふんぞり返る神楽ちゃん。

しっかり稼いできてくれないと困るよ、銀さん。なんて思いながら私もオムライスを完食した。

 

 

 

…私の家族は、元気にやっているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

銀さんのいない万事屋話。日常会話です。

あと木刀の存在を忘れないように。

2010/07/31