「…、さーん」

「んー……?」

「もう夕方ですよ」

「え。あれ、うっわぁぁ!ひ、昼寝のつもりがァァァ!!」

 

 

 

第15曲 知らないことはまだまだ一杯

 

 

 

 

お昼を食べたら眠くなってきて、そのまま神楽ちゃんとソファに寝転がって喋っていたら

知らぬ間に寝ちゃってた上に夕方になっていた。

 

「呼んでも返事しないからどうしたのかと思いましたよ」

「ご、ごめん…」

布団と洗濯物は取り込んでおきましたよ、と言った新八くんには本当に頭が上がらない。

君はいい主婦…いや、主夫になるよ。

 

 

 

まだぐうぐうと眠っている神楽ちゃんの頭をそっと撫でてから、ふと気づく。

「銀さん、まだ帰ってないの?」

「そうなんですよ。昼ごろには帰るって言ってたんですけどね」

まあ銀さんのことだから、どこかで喋ってたり甘味屋の前に張り付いてたりとかそんなんだろうけど。

 

「…私、ちょっと迎えに行ってくるね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も傾いて夕暮れ時、かぶき町も少しずつネオンが点き始めている。

今日の仕事の依頼があった場所へ行ったら、ちょっと前に銀さんはそこを去ってしまっていた。

行き違いかよちくしょー、と思いながらかぶき町の町並みを歩いていく。

 

 

最初ここに来たときは、嬉しさもあるもののやっていけるか不安も多かった。

けど、随分と馴染んだなあ、なんて思い出に浸っていると、急に横道からパトカーが突っ込んできた。

 

 

ってパトカーが突っ込んでくるっておかしくね!?

そんなことが頭をよぎり、悲鳴も出ないまま目を瞑る。

 

直後、浮遊感に襲われて、轢かれたのかな、と思ったが…どこも痛くない。

 

 

「え、あれ?」

ぱちっと目を開けると、視界に広がるかぶき町の建物の屋根。

…あれ、私、何で屋根の上にいるんだっけ。

 

 

「…なーんか、すごい放心してるみたいだけど大丈夫か嬢ちゃん」

「へ…?」

声が聞こえたのは私のすぐ横で、気づけばお腹にその人の腕が回っている。

もしかして、助けてくれた?

 

 

「あんなとこでぼーっとしてたら、轢いてくれっつってるようなもんだぜ」

「ご、ごめんなさい。あと、助けてくれてありがとうございました」

長い前髪で顔があんまり見えないけど…一瞬で屋根まで上ったのか、この人。

 

「あーあー、お礼とかいらねーから。なんか今日は気が向いただけだから」

じゃ、と言って去っていこうとするその人の首に巻かれたマフラーみたいなものを思わず引っ張る。

 

 

「あのっ……こ、ここから降ろしてください。一人じゃ降りられません」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋根から降りて「そんじゃ。気をつけてな」と言って去っていったその人の背に手を振っていると、

後ろからダルそうな声が聞こえた。

 

 

「何やってんの、

「銀さん…私、生で忍者見ちゃった」

「は?」

 

 

ぽかんとする銀さんの手を引いて、貴重な体験しちゃった!と笑いながら万事屋へ向かって歩き出す。

銀さんは状況が飲み込めず、わけわからん、といったような表情を浮かべながらも一緒に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、かぶき町にも馴染んできたと思ったけど、まだまだ知らないこと多いなぁ」

「そりゃこの町は広いし、変な奴らばっかりいるからな」

銀さんも例外じゃないよね、と思ったけど口には出さないでおいた。

 

 

「…いつまで、いられるのかな」

ぽつりと視線を反らして小さく呟く。

私はこの町の、いや、この世界の住人じゃない。

きっといつか帰る日が来るのだろう。…その時、私はどうするんだろう。

 

 

「何だ、実家から帰還命令でも出てんのか?」

すごく小さな声で呟いたはずなのに、銀さんには聞こえていたらしい。

 

「…そういうわけじゃ、ないんだけどね。でも、いつかは帰らなきゃなのかなーって」

「ま、の好きにすりゃいいんじゃねーの?でもお前親父が体調悪いんじゃなかったか?」

「は?」

 

思わず、疑問の声が出た。

え、私のお父さん体調悪かったっけ?

 

 

 

……あ、そっか。設定か。最初ここに来たときに作った私の家族設定の話か。

 

 

「あ、あーそうそう体調ね!最近はちょっと良くなってるらしいよ!」

あはは、と笑ってみたものの銀さんの目は完全に疑いの目だ。

 

 

「そ、それにしてもお腹減ったね!早く帰ろうよ、銀さん!」

離していた手を再び掴んで走り出す。

銀さんは何か言いたそうだったけど、「走るなよ、だりィじゃん」と言いながら後をついてきてくれた。

 

 

 

 

今、私が帰る場所は万事屋なんだ。

あそこに、ただいま、って言うのが今の私の生活なんだ。

 

 

もう少し、みんなと一緒にこのままでいたいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

万事屋へ向かってまっすぐに進んでいる私はそんなことばかり考えていた。

だから、後ろで銀さんがぽつりと呟いた言葉は、私には届かなかった。

 

「…別に、が帰りたくないって思うんなら、ずっといりゃいいだろ」

 

 

そう言ったとき、銀さんがどんな顔をしていたのかも、私は知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ある意味忍者の彼を出したいがために書いたお話。(ぁ

第四章はこれにて終了!お付き合い、ありがとうございました!!

2010/08/17