「いいからこいってんだよ。アレだ、マロンパフェ食わしてやっから。なっ?」
「ちょ、離してヨ。離れて歩いてヨ」
「なんだお父さんと歩くのが恥ずかしいのか!?どこだ!!どの辺が恥ずかしい?お父さん直すから!」
「もうとり返しのつかないところだヨ」
「すいません僕もマロンパフェいいっすかねー。いやちょっと待てやっぱフルーツパフェにしようかな?」
第2曲 親の心子知らず子の心親知らず
「星海坊主ぅぅぅ!?星海坊主って…あの…えっ!?神楽ちゃんのお父さんが!?」
銀行を後にして、私たちはファミレスへ来ていた。
内臓的なものから私たちを救ってくれたマントの人は神楽ちゃんのお父さんだった。
…ゴーグルとか外してるおかげで、さっきまでの面影が薄い。なんかそこらへんのお父さんっぽい。
「星海坊主?なにそれ?妖怪?坊主じゃねーぞ、うすらってるぞ頭」
「オイうすらってるってなんだ。人の頭をさすらってるみたいな言い方するな」
新八くんの絶叫にこそこそと話す銀さんの声を聞き取った星海坊主さんはイライラした口調で言う。
「星海坊主といえば銀河に名を轟かす最強のえいりあんばすたーっスよ」
「宇宙の掃除屋、みたいな感じ?」
だった気がする、と思いながら尋ねると新八くんはこくりと頷いた。
「あーハイハイきいたことあるわ、うすらいの掃除屋」
「オイうすらいの掃除屋ってなんだ。ただのダメなオっさんじゃねーか」
目の前に出された、というか勝手に注文したパフェを食べながら言う銀さんに星海坊主さんはついに席を立った。
「カチンときたお父さんカチンときたよガチンとやっちゃっていい?」
「おちつくネウスラー」
立ち上がった星海坊主さんを宥めるように神楽ちゃんが口を挟む。
「ウスラー紹介するネ。こっちのダメなめがねが新八アル」
「ダメって何?」
新八くんの呟きをさらりと無視して神楽ちゃんの紹介は続く。
「こっちのダメなモジャモジャが銀ちゃんアル」
「いやだからダメって何?」
…銀さんの方はフォローしてあげない。さっき私の手を離さなかった罰だコラ。
「それでこっちの私と同じくらい可愛い子がアル」
「か、神楽ちゃん…!」
ダメという称号がつかなかったことに感動しつつ、神楽ちゃんの方が可愛いよ!!と叫びそうになった。
普段ならそう叫んでいるところだけど、まあ親御さんがいるわけだから叫ぶのは自重しておいた。
「私が地球で面倒見てやってる連中ネ。挨拶するヨロシ」
面倒見てやってる、のあたりで若干唸り声みたいなのが隣に座る銀さんから聞こえた。
「フン、なんかよからぬことでも考えてたんじゃねーの。夜兎の力を悪用しようって輩も溢れてるからな」
「なんだァ?悪用ってどういうことだコラ。てめーの頭で大根でもすりおろすことを指すのか?」
ガタガタと銀さんと星海坊主さんは席を立って言い合いをはじめる。
それにしても、その髪の毛への執着は何なの銀さん。
「ちょ、ちょっと銀さんっ」
落ち着いてと言わんばかりに新八くんが身を乗り出す。
向かい側に座る神楽ちゃんは何食わぬ顔でお茶を啜っている。
「とにかく、てめーのような奴にウチの娘は任せてられねェ!神楽ちゃんは俺がつれて帰るからな!!」
「なーに勝手に決めてんだァァァ!!!」
星海坊主さんが銀さんを指差して言い切った瞬間、神楽ちゃんの飛び蹴りがその後頭部に直撃した。
「ぐはっ!!か、神楽ちゃん何すんの!!ドメスティックバイオレンス!?」
とんっ、と床に手をついて踏ん張った星海坊主さん。
しかし向かい側にいた銀さんは連鎖反応的な衝撃で隣のテーブルに激突した。
「銀さん大丈夫?すっごい痛そうな音したけど」
「すっげぇ痛い。後頭部すっげぇ痛い」
頭を抑えてうずくまる銀さんに駆け寄った私と新八くんは、ちらりと神楽ちゃんたちを見る。
「神楽ちゃん、家族ってのは鳥の巣のようなもんだ。帰る巣がなくなればいずれ地に落っちまうもんさ」
ぱっと手をはらって立ち上がる。
飛び蹴りの直撃を受けたとは思えないほど、あっさりと。
「パピーは渡り鳥、巣なんて必要ないアル。私もそう、巣なんて止まり木があれば十分ネ」
「それじゃなんでこの止まり木にこだわる?ここでしか得られねーモンでもあるってのか」
ざわざわと、店内が少し騒がしくなってくる。
銀さんも頭を上げ、私たちはじっと神楽ちゃんたちの様子を見ていた。
「またあそこに帰ったところで何が得られるネ。私は好きな木に止まって、好きに飛ぶネ」
そう言い切った神楽ちゃんの目には、迷いがなかった。
「……ガキが。ナマ言ってんじゃねーぞ」
星海坊主さんの声のトーンが下がる。
「ハゲが。いつまでもガキだと思ってんじゃないネ」
神楽ちゃんの声のトーンも下がり、この場に似合わない空気が漂う。
「…ってあのさ、これ、このまま放っておいたら危ない気がするんだけど」
「ですよね。何このカンジ…」
ぼそりと呟いた声に新八くんも同意してくれる。
「オイ、ちょっ…」
銀さんがそう口を挟んだ瞬間。
「「ほぁちゃああああ!!!!!」」
ガッシャァァーーン!!というガラスの割れる音が聞こえたときには、もう二人の姿は見えなかった。
慌てて割れたガラス窓の方へ走っていくと、屋根の上で対峙する二人が見えた。
「ちょ、親子喧嘩ってやつじゃないのこれ!」
「そうかもしれませんけど、規模が!規模が違いすぎます!」
ドオオンッという破壊音が響き渡り、屋根瓦は見るも無残にボロボロになっていく。
このファミレスの屋根どころか、二人とも民家の屋根の上までもを走っていってしまった。
「どうしよう新八くん、銀さん」
「僕らじゃ止めようとした瞬間に死にますね」
遠くに立ち上る煙を見ていると、すっと銀さんが後ろを向いた。
「銀さん?」
「、お前新八と一緒に先に帰ってろ。そんで今日は新八んとこ泊まれ」
ばりばりと頭をかきながら、何でもないように言って銀さんは歩き出す。
「ま、待って!」
ぎゅっと銀さんの着物を掴む。
振り返った銀さんはきょとんとしていて、私も何て言ったらいいのか分からなくなってしまった。
「えと…あの…ちゃんと、連れて帰って来てね。…お父さんと一緒にいた方がいいかもしれないけど、まだ、今は…」
さよならなんて、したくないから。
銀さんはポンと私の頭を撫でてから何も言わずにファミレスを出て行った。
…どうか、明日も神楽ちゃんにおはようが言えますように。
あとがき
私は星海坊主さん好きですよ。なんやかんやでいいお父さんです。
またちょっとシリアスなお話になりそうです。
2010/09/06