「ちょっ…ダメですってば!お客様、こっから先はチケットがないと通れないの!」

「話をきいてください!僕の恋人がバーコードのオッさんにとられて二人でハネムーンきめこもうとしてるんです」

「ウソをつけぇぇ!君は彼女いなさそーだぞ!彼女いない暦16年そうだぞォ!!」

「どーいう意味だそれェ!なんで歳までわれてんだァ!!!」

「そのバーコード私の父なんです!その、彼の妹と援交にハマって二人で心中しようとしてるんです!」

「ウソつけェェ!そっちの男に妹はいなさそうだぞォォ!それに君の父はもっと遠いところに住んでいそうだぞォ!」

「「だからなんでわれてんだァァ!!!」」

 

 

 

第4曲 強行突破は勢いで

 

 

 

 

妙に勘が良いゲート守衛の人たちと揉め合っていた私と新八くん。

最終的には新八くんが鼻に指をかけて…ってちょっと前に銀さんをノックアウトさせたアレでゲートを突破した。

 

「…新八くん、必殺技習得おめでとう」

「うれしくないですよ、この状況じゃ」

「ですよね」

 

 

倒れた守衛の人を乗り越えて、宇宙船の方へ走る。

走ってる最中にもまた警備員みたいな人に呼び止められたりしたけれど、今は構っていられない。

ひたすら宇宙船の方へと走る。

 

 

「ってアレ出航してない!?ど、どうしましょうさん!」

妙に頭上が暗いと思ったら、少しずつ宇宙船が浮きつつあった。

 

「…新八くん、私がここであの警備員の人止めるから、新八くんはあそこ走って!」

そう言って壁に埋め込まれている梯子階段を指差す。

 

 

「で、でも…」

「私は大丈夫だから。その代わり、ちゃんと神楽ちゃん呼び止めてきてよ!」

びしっと宇宙船を指差すと、新八くんはぎゅっと手を握り締めて頭を下げ、叫びながら階段へと走っていった。

 

 

 

私はくるりと今走ってきた方を振り返り、走ってくる警備員の人に向かって、叫ぶ。

 

「止まれェェェェ!!そして私の話を聞きなさい!!!」

急に叫びだした私に驚いたのか、警備員はギギッとブレーキをかけるかのように止まる。

 

 

「な、何だ急に!ってそれよりここは立ち入り禁止…」

「そんなことより、もっと重大なことがあるんです。ここにいる人たちの命に関わる…かもしれないお話が」

ハァ?という顔をする警備員の目を見据える。

 

 

「今すぐ、宇宙船内の荷物を調べてください。多分、ものすごく厄介なものが紛れ込んでるはずです」

「…お嬢ちゃん、君はテロリストか何かかい?ちゃんとさっき荷物のチェックはしたよ」

テロリストが仕込んだ爆弾の方がまだマシかもしれない。…いやどっちもどっちか。

 

「いいから!早く調べてきてください、そうすれば…」

 

 

何事もなく、神楽ちゃんが怪我することもなく、終わるはずなんだ。

けれどそうしたら、神楽ちゃんはどうなるんだろう。故郷に、帰ってしまうんだろうか。

 

銀さんと、仲直りはできるのだろうか。

 

 

 

少しの不安を抱いてぎゅっと手を握り締めた時、ターミナル内に警告音が響いた。

 

 

『緊急警報!緊急警報!七番門で異常発生!七番門で異常発生!係の者は速やかに…』

 

「…え。マジ?」

そう警備員の人が呟いた瞬間、私はばっと新八くんの方を振り返った。

 

既に宇宙船の半分はえいりあんに侵食されて、操縦もきかなくなっているらしい。

ぐらりと揺れる船体は、新八くんの上る階段の方へと傾きかけている。

 

 

「新八くんっ!!!」

ばっと警備員を置いて階段の方へと走る。

って走ったはいいけど、いくらなんでも船まではどうしようもないよ私!

 

 

そして私が階段まで辿り着く前に、船体は階段に激突し、轟音と共に壁に突き刺さった。

 

 

衝撃でぱらりと降ってくる船体の部品や壁の一部から身を守るように腕で体を庇う。

上を見上げて私はもう一度新八くんの名前を叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、しっかりしろ坊主」

「新八くんっ…!」

横たわる新八くんの肩を揺すっていると、新八くんは小さく呻いてゆっくりと目を開けた。

 

「あ…さん…アレ、ここは冥土ですか?花畑じゃなくて焼け野原が見える」

「誰の頭が焼け野原?花畑行くか?花畑で永遠に楽しく暮らすか?」

 

新八くんは私の横にいる星海坊主さんの頭に視線を送りながら言ったせいで、助けてくれた人に殺されかかってる。

 

 

あれから、宇宙船から飛び降りてきた星海坊主さんが新八くんを助けてくれたこと。

そして神楽ちゃんが中で戦っているかもしれない、ということを説明する。

 

 

「お前らはさっさと逃げろ。死ぬぞ」

星海坊主さんは立ち上がって宇宙船に絡まっているえいりあんを睨む。

 

「僕もいきます、神楽ちゃんは…ほっとけない」

「私もここまできて引き返すなんて、嫌です」

立ち上がって星海坊主さんの目をじっと見て言う。

 

 

「邪魔だ。帰れ」

 

あっさりだった。

一寸の迷いも無く、星海坊主さんは私たちに背を向ける。

 

 

「こっからは戦場だ。てめーらみてーなひ弱な生き物にいられたら迷惑なんだよ」

そして少しだけ、視線を向ける。

 

 

「ここは、俺達の居場所だ」

 

 

それはぞくりと背筋が冷えるほどの目だった。

夜兎の闘争本能が映っているような、恐怖を感じるほどの目。

 

「…でも、僕は」

 

小さな声だったが新八くんがそう言った瞬間、新八くんのすぐ横を星海坊主さんは傘で突く。

風圧で髪が揺れるほどの勢いでその傘をスライドさせ、私たちの後ろにいたえいりあんを薙ぎ倒した。

それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 

 

「俺達の生きる場所は違うと言ってんだ。これ以上神楽に関わるな。人が簡単に変われると思っているのか?」

 

 

ぎゅっと手を握り締めて黙ってしまった新八くんの前に一歩出て、私は口を開く。

 

「それでも、何もしないのは嫌なんです。何か変えられるのかもしれない可能性がゼロじゃないなら、動きたい」

怖いけれど、動かなかったらきっと後悔する。

 

 

 

「…私、神楽ちゃんがいる場所、大体なら分かります」

言うと同時に星海坊主さんはぐるりと振り返り、私の目を疑うような、しかし鋭い目で見る。

 

 

正直ハッタリだ。自信なんて限りなくゼロに近い。

「か、勘…ですけど、私の勘、割と当たるんです」

 

私がこの世界に来たせいで、物語が変わっていないなら。

大筋は変えられなくても小さなことなら変えられるかもしれない。

神楽ちゃんが大怪我しないように、防ぐことができるかもしれない。

 

 

 

…って信じられるわけないよねー!!

ポッと出てきた小娘の言葉なんか信じられないよね!そういう感じの視線が痛い!

 

顔が引きつってきたあたりで、ぎゅっと私の手が握られた。

 

「案内、してくれますか」

聞こえた声は隣から。

 

 

「僕は、さんの勘…信じてますから」

 

にっこりと笑って新八くんは宇宙船へと歩き出す。

「僕がさんを守るから、案内お願いします」

「…うん、ありがとう新八くん」

 

 

後ろでため息が聞こえたけど、それは怒りや嫌気ではなく、諦めに近い感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

大分度胸が据わってきましたヒロイン。しかし内心ドッキドッキです。一般ピーポーなんで。

右手と右足一緒に出るくらいの緊張具合。隣に立つ新八も同じくらいドッキドキ。それを見てため息をつくパピー。(ぁ

2010/10/03