「……う…」

「…、?何ぼーっとしてんの」

「…え?」

「そんなんじゃ日が暮れるよ」

「早く終わらせて、ケーキでも食べに行こうよ、ちゃん」

 

 

 

第6曲 暗闇の中の現実世界

 

 

 

 

目の前でほうきを手に微笑む二人は、私の友達。

はらりと舞い落ちた木の葉一枚に、はっとする。

 

「あ、うん。そうだね」

 

ああ、そうだ。私、学校の裏庭の掃除してたんだ。

 

 

「って、あんた昨日ダイエットがどうとか言ってなかったー?」

「えへへー、今日は休憩ー」

ぽわぽわとした声で笑う、友達の春亜を肘でつつく刹那。

ほとんど毎日見てるような光景なのに、なんだか違和感を感じる。

 

 

私、さっきまでここで掃除してたっけ…?

 

 

「ほらー!!また手ェ止まってるぞー!」

「あ、ごめんごめん!」

いつの間にか止まっていた手を動かしながら足元を見つめる。

なん、だろう。この違和感。

 

 

 

―――「!」

 

 

頭の奥で、男の人の声がした。

「…気のせい…かな」

振り返っても見えるのは女友達二人だけ。

 

 

―――「おいっ…!!!」

 

 

それでも聞こえてくる声に、もう一度振り返る。

 

 

「誰…?」

 

 

 

 

 

「誰?じゃねーよ!!むしろどこ!?ついでにお前は何やってんの!?」

振り返った瞬間、がしっと両肩を掴まれてがくがくと揺さぶられる。

 

「あれ?銀さん…?」

「そーです皆の銀さんです!!」

 

瞬きを繰り返し、きょろきょろと辺りを見回すと、さっきまで見えていた景色はただの暗闇に染まっていた。

もちろんさっきまで手にしていたほうきも見当たらない。

 

 

「あ?え?何これどこ!?」

ぐるぐると回りを見回しても何も見えない。

見えるのは目の前の銀さんくらい。

 

「今はえいりあんの中だ。つーか銀さん的にはさっきの」

「ぎょええええ!!!アレの中!?うわあああ鳥肌!鳥肌が戻ってくる!!」

「聞けよ」

 

 

思わず両腕を擦っていると、なんだか銀さんは疲れた顔をしていた。

「っていうかちょっ、銀さん手ェェ!怪我!怪我してる!?」

銀さんの左腕には傷痕があり、そこからぽたりと血が流れていた。

 

「あー…まあ、お前がこいつに取り込まれてから色々あってな。それよりさっきの」

「嘘!?あわわわ…せっかく皆であのまま逃げれば大事にならずに済んだかもしれないのに…!私の馬鹿!」

ていうかもう既に十分大事かもしれないけれど。

 

 

「…ていうか、さっき銀さん何か言いかけた?」

「いや、もういいです…」

そう?と返事をするとため息をつかれた。なんでだ。

 

 

 

 

「…で、これどうやって出るの?」

「あーそうなんだよな。そこんとこあんまり考えてなかったんだよ」

右手で頭をかきながら「まいったまいった」と呟く銀さん。

 

「じゃあ私たちこれ…ずっとこのまま?」

「かもな」

 

じょっ、冗談じゃないわァァァ!!!

ずっとあのえいりあんの中だと!鳥肌どころか鳥になってしまう!

 

 

「な、何で脱出方法考えなかったの!!何か考えがあったんじゃないの!?」

「しょうがねーだろ。お前が叫んだ後、ヤベッて思って勢いで飛び込んできちまったんだからよ」

「勢いでって…」

 

…勢いで、飛び込んでくるような人だっけ。銀さんって。

それも一方的に叫んで万事屋を飛び出した私を。

 

 

「オイ、何だよ、急に黙るんじゃねーよ」

周りには何も無いのにあちこちに視線を飛ばしながら銀さんは言う。

 

 

「…あの、銀さん…色々と、ごめ」

ぽん、と私の口に銀さんの人差し指が当たる。

 

「そいつはここから脱出して…万事屋へ帰ってから、な」

ふわっと笑った銀さんの笑顔と、唇に当たる銀さんの指が優しくて、何だか照れくさかった。

おそらく赤くなっているであろう自分の顔を隠すために私は頷くふりをして下を向いた。

 

 

 

 

 

「さて。本気でどーすっかな、ここから」

銀さんは腰に手を当てて上を見上げる。

 

「…よし、。こんなときこそお前の勘の出番だ!」

「え」

どんな時ですかこれ。

 

 

「いや、これ勘に頼る場面じゃないと思う」

「まあなんとかなるだろ。ほら、頑張れって」

だから、それ無茶にも程がある。

 

だってここから脱出するのって…。

「神楽ちゃんが突き破ったんだよなあ…」

「あ?何?もっとでっかい声で言えって」

「だから神楽ちゃんが…」

そこまで言いかけたところで、ぐらりとその場が揺れた。

 

 

「うおっ!?」

「な、何、地震!?」

倒れないように体勢を立て直していると、丁度私たちの頭あたりの位置に亀裂が入った。

 

 

「ちょっ、こら!待ちなさい!そんな無茶…」

「うおぉぉぉぉーーー!!!」

慌てるような男の人の声と、ものすごい気合の入った女の子の声が聞こえる。

 

私と銀さんはお互いに顔を見合わせ、亀裂の方へ視線を向ける。

は私が助けるアルぅぅぅーーー!!」

「だから!そんな力ずくじゃ…」

 

 

その瞬間、ドォンッと音を立てて壁面が崩れ落ち、外の光が差し込む。

 

、お前まじすげーわ」

「…今回ばかりは私も心底びっくり」

ていうか、神楽ちゃんのファイトにびっくり。

 

 

呆然としている私の目の前に手がすっと伸ばされる。

いつの間にか私の一歩前に出ていた銀さんは、笑って言う。

 

「さっさと行くぞ。

「…うん!」

 

ぎゅっと手を握るとすぐに走り出した銀さんに引っ張られ、私は光の差す方へと走る。

とん、と床板の感触が足に伝わる。

急な光の眩しさに目が眩んだけれど、耳に届くみんなの声はしっかりと聞こえていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

前半部分、こんなに長くなる予定はなかったんですけど書いてたら長くなりました。

この前半部分は連載始めた当初から妄想してたお話でした。そして強引すぎる脱出方法。(ぁ

2010/11/03