「おおお、久々の地上!」
「さんっ!無事でしたかっ!?」
「うん、ごめんね心配かけて…」
「うがああああ!!」
「オイィィっ、こいつなんとかしろォォォ!」
第7曲 家族の優しさは分かり難いもの
なんとかえいりあんの中から脱出したものの、神楽ちゃんはまだ暴走していた。
「ちょっ、神楽ちゃああん!私こっちィィ!」
「そうだ、落ち着け、かぐふっ!」
どごんっと銀さんに神楽ちゃんのグーパンチが飛んだ。
「銀さんも大変ですが、さん!あっちも大変なんです!」
「あっち?」
暴れる神楽ちゃんを星海坊主さんが抑えに走っている間、新八くんから現状を聞いた。
うちのスナックのお得意様の松平のとっつあんがここへ向かって砲撃を発射しようとしているらしい。
ていうか、もう発射スイッチ押しちゃったらしい。
「ってそれどうするの!?」
「さんの勘パワーでなんとかなりませんか」
「なるかァァァ!頼るな!こんなところで私の勘に頼るなァァ!」
ていうかそれ勘じゃ頼りにならないからね!
とりあえずできる限り遠くへ走るしかないか、と思い神楽ちゃんの方ほ振り返る。
丁度そばで倒れていた銀さんが呻いた瞬間。
「あー、酢昆布だ」
ブチンという衝撃的な音が響いた。
「ぎゃああああ何すんのォォォ!!お父さんの大事な昆布がァァ!!」
目の前にいた星海坊主さんの髪をむしりとった挙句、もっさもっさとそれを咀嚼する。
「おいィィ何食ってんだ!出せェェハゲるぞ!そんなもん食ったらハゲるぞ!」
「ハゲるかァァ!お前ホント後で殺すからな!」
ぎゃんぎゃんと言い合う銀さんと星海坊主さんをよけて神楽ちゃんに近寄る。
「んー…あ、、も食べるアルか?」
「神楽ちゃん!それ、食べ物違う!!」
私のそんなツッコミは、どこからか聞こえてくる機会音にかき消される。
「アレ?なんだこの音」
銀さんの呟きと同時に、皆が首をかしげた瞬間。
目の前は真っ白に染まった。
ドオンッ…という耳が痛くなるほどの轟音。
ぎゅっと閉じた目を、ゆっくりと開ける。
振り返ると、私と神楽ちゃんを庇う様に覆いかぶさる銀さんがいた。
そしてその後ろに、私たち全員を守るように、傘一本で砲撃を受け止めた星海坊主さんが立っていた。
「ぼっ…坊主さん」
「クク…俺も焼きがまわったようだ」
「いや髪の毛も焼きがまわってるけど」
「銀さん、そこつっこんじゃだめ」
いつの間にか気を失っていた神楽ちゃんの体を起こしながら、銀さんの着物の袖を引っ張った。
「他人を護ってくたばるなんざ…」
ぐらりと星海坊主さんの体が揺れ、その場にドサリと倒れこんだ。
「星海坊主さんっ!」
「ハゲェェ!!右側だけハゲェェェ!!!」
だから、そこつっこんじゃだめだってば。
それから、真選組の人たちが砲撃で死んだえいりあんの片付け作業が始まった。
私たちはターミナルの端で救護班の人に手当てを受けていた。
重症のはずの銀さんと星海坊主さんは、違う場所へ行っていたけど。
「……新八…?」
「あ、神楽ちゃん。目が覚めた?」
手当ての後、ぱちぱちと目を開けた神楽ちゃんはがばっと体を起こした。
「っ、大丈夫アルか!?」
「うん。私は神楽ちゃんのおかげで無事だったよ。ありがとうね」
そっと頭を撫でてあげると、神楽ちゃんは「よかったアル」と言って笑った。
その後神楽ちゃんに星海坊主さんの居場所を教えてあげると、神楽ちゃんはその方向へ駆けていった。
私と新八くんも、その後を歩いてついていった。
ターミナルの上を歩いていると、遠くに二人分の人影が見えた。
「俺ァ欲しかったよ、アンタみてーな家族が」
ぽつりと聞こえた銀さんの声に、私も新八くんも足を止める。
「お前…」
「皮肉なもんだな。ホントに大事なモンってのは、もってる奴よりもってねー奴の方がしってるもんさ」
そう言って銀さんは私たちに気づかないまま歩き出す。
「だからよォ。神楽のこと、大事にしてやってくれよな」
ゆっくりとその場を離れる銀さんの背を、私も星海坊主さんも呆然と見つめていた。
私の隣に立っていた新八くんは、ぎゅっと手を握り直して銀さんの方へと歩き出す。
「言っとくけどねェ、僕はずっと万事屋にいますからね。家族と思ってくれていいですからね」
歩く早さを変えることなく、そう言って新八くんは銀さんを通り越して歩いていった。
「…やめるとか言ってなかったっけ…」
「やめないよ」
呟いた声に返事をすると、銀さんはくるりと私の方を振り返った。
「銀さん、ごめんなさい。あの、色々と…酷いこと言ったし、ひっぱたいちゃったし…」
銀さんの顔を見ていられなくて、視線を足元へ落とす。
「お前は、謝らねーと気がすまねーんだな」
「…ごめん」
真下へ落とした視線の先に、黒いブーツが映る。
「お前のビンタくらいどーってことねぇんだよ。それより、新八の攻撃の方が痛かった」
「ああ、確かにあれは痛そう…」
こくこくと頷いていると、頭の上から噴出すような笑い声が聞こえた。
ゆっくり顔を上げていつもと同じ笑顔の銀さんと目が合う。
一度小さく深呼吸して、私も笑った。
「…来てくれてありがとう、銀さん」
「おう」
私の一歩前を歩く銀さんの背を追いかけるように、私たちは万事屋へと向かって歩き出した。
あとがき
若干最後辺りがぐだぐだですが、とりあえず銀さんと仲直り。
ちなみに今回のお話、背景は夕焼けのイメージで書いてました。
2010/11/20