「そーかィ。あのチャイナ娘ホントに星に帰っちまったのか」

「…銀さんがやっぱり親の元にいるのが一番いいって」

「そーさな。あんな根無し草の所にいるよりはマシだわな」

「あー、なんでこんな事になっちまったかな」

「あ、銀さん…。ねえ、やっぱり…」

 

「やべーよオイ。やっぱあきらかに腫れてるみたいなんだけど、大事なとこが」

 

 

 

第8曲 居心地のいい場所と人たち

 

 

 

 

厠から戻ってきた銀さんの一言は、今までのシリアスムードを木っ端微塵に粉砕した。

 

「えー。汚い手でさわったんじゃないスか、アンタ」

「お前と一緒にするな年幾つだと思ってんだ」

「病気か?誰かにうつされたか、オイ」

「お前と一緒にするな危ない橋は俺は渡らねー」

スナックお登勢に集まった新八くんと長谷川さんの言葉に一息で返す。

銀さんはよろよろと歩きながら、ガタッといすをひいて私の横に座った。

 

 

「どっかでミミズに小便でもひっかけてきたんじゃないかィ?」

「あー。腫れるって言いますよねー」

お登勢さんが出してくれたお茶を飲みながら相槌を打つ。

 

「何言っちゃってんの、迷信だろそんな……」

銀さんの声が不自然な途切れ方をした。

 

 

「アンタまさか…」

「いやいやミミズじゃねーよ。…ミミズっぽいえいりあんに…」

ひらひらと手を振ってひとつの可能性を消すように言う。

 

「エイリアンニ小便カケタンデスカ?アーアモウダメダソリャ。私ノ友達ソレヤッテ今は星ニナリマシタ」

「え?星になっちゃったの、何それどーなるの俺?俺っていうかもう一人の俺」

あーあ、と言いながら目を逸らすキャサリンの声を背中で聞きながら、ふと思い出す。

 

 

そういえば、あのえいりあんの中で見た景色。そして一緒にいた友達。

何か大切なことを忘れている気がするんだけど…何だっけ。

 

 

うーんと悩みながらコップの中の氷を揺らしていると、お店の戸がガラリと開いた。

「こんばんはー」

お店に入ってきたのはチャイナ服を着たお妙さんだった。

 

 

「姉上、なんですかその格好?」

「今私の店、チャイナ娘強化月間でみんなチャイナ服で仕事してるのよ。ちゃんに聞いてないの?」

ふっと私の方へ視線を向けてお妙さんは笑う。

 

「えっ、さんもやってたんですか!?っていうか何が強化されるんですか!?」

「うん、まあ男の妄想が強化されるらしいけど…どうなんだろうねー」

というか、今月は色々あってあまり顔を出せていないから記憶にも薄い。

 

 

「オイ、お前大丈夫なのか?あいつはともかく、お前は普通の女なんだからよ」

「どういう意味かしら」

急に会話に混ざってきた銀さんに低い声でお妙さんは言い返した。

 

「大丈夫よ。ちゃんに変なことしようものなら…私がボキッとやってあげるから」

「お手柔らかにしてあげてくださいね、お妙さん」

「そうそう。特に股間はデリケートゾーンだから」

どうあってもそっちへ話を引っ張りたいのだろうか、銀さんは。

 

 

「まあ、銀さんたら神楽ちゃんのことでそんなに沈んでいるのね…」

微妙に神楽ちゃんから離れてることで沈んでいる気がするけれど。

 

「そんな時はコレ、飲んで忘れましょ」

お妙さんが手に持っていた包みを開けると、この前までお店にあった高いお酒が姿を現した。

 

「嫌なことはアルコールと一緒に流しましょう。ねっ銀さん」

「いや無理だろコレ。だって常に俺の股にぶらさがてるわけだからね」

「でも、忘れた頃に治ってるかもよ?」

私がそういうと銀さんは、あーとかうーとか唸りながら少しずつお酒を飲んでいった。

 

 

「ほらっ、ちゃんも」

「え?」

にこりと笑うお妙さんにお猪口を差し出される。

 

「い、いやいや。私はお茶でいいんで」

「一杯くらいいいじゃないの。ほら、今日くらい飲んじゃいなさいよ」

私の返答を待たずにお酒が注がれる。

せっかく注いでもらったものを残すのも気がひける。

 

 

「い…いただきますっ!」

ごくり、と喉を通るお酒は思っていたよりも温かく感じ、だんだんと顔が火照っていく。

あ、でも美味しい。さすがはお店のお酒。

 

 

「どうかしら?」

「美味しいです、けど、ちょっとずつしか飲めないかも…」

じわりと喉に残る感覚を冷ましながら、二口目を飲み込む。

「最初はゆっくり飲みなよ、あんた酒弱そうだからねぇ」

「ふあーい…」

 

 

お登勢さんの声に返事をして、注がれたお酒を飲んで。

 

皆の声を聞きながらゆっくりとお猪口の中のお酒を飲み干していく。

それを繰り返しているうちに、いつの間にか私はカウンターに突っ伏していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んー…ふあ、あれ?皆は…?」

目を開けると店の中は随分と静かになっていた。

隣に座っていた銀さんはどこへいったのだろう、と振り返る。

 

 

「あいつらなら、外でぶっ倒れてるヨ」

 

瞬きを繰り返し、目の前でがつがつとご飯を食べている女の子を見つめる。

 

 

「…神楽、ちゃん」

「ただいまヨ、

にこっと笑った笑顔はいつもと同じ神楽ちゃんで、私は思わず神楽ちゃんに抱きついた。

 

 

「おかえりっ、おかえり、神楽ちゃんっ!」

「よーしよーし。も私がいなきゃ駄目アルな!」

えへへと笑う神楽ちゃんをぎゅっと抱きしめていると、店の入り口の方から銀さんの声が聞こえてきた。

 

「お前っ…」

「あーもう言うな何も言うな」

言葉を遮るように言って神楽ちゃんはもう一度私をぎゅっと抱きしめて、銀さんと新八くんに向かってにやっと笑った。

 

 

「お前らみたいなムサい男共の住処に一人住ませるなんて、私が許さないアル」

「どういう意味だオイ」

 

ここのところ神楽ちゃんは随分と男前だなあなんて思いながら、私は笑った。

つられたように神楽ちゃんも笑い、銀さんたちはカウンターの席に座り直した。

 

 

 

 

私と新八くんはお登勢さんが出してくれた水を飲みながら、銀さんはお酒を飲み直しながら。

神楽ちゃんはご飯のおかわりを要求する。

 

そんな今の時間が懐かしくて、温かくて。

明日からまた、いつもの万事屋の日常が始まることに喜びを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

神楽編終了!お付き合いありがとうございましたー!

どんどん神楽ちゃんが男前になっていく連載ですねコレ。(ぁ

2010/11/28