「オイ、ホントに大丈夫なのかこんなんで?」
「大丈夫だよ、総悟は人をいじめるのが趣味の超ド級Sだぞ」
「ええ…日ごろからかなりの人が被害にあってますよね。特に土方さんあたり」
「…まあな」
「お疲れさまです」
第10曲 愛情パワーってすごい
ぽん、と土方さんの背をたたいて私たちもジェットコースターに乗り込む。
「つーか別に俺ら乗らなくてもいいんじゃね?」
「ええー!せっかく遊園地来てるんですから、乗らなきゃ損ですよ!」
ガシャンと安全レバーを下げて、発進の合図を待つ。
「、お前しっかり遊園地楽しむために来てねェか?」
「…えっ、そんなことありませんよぅ!」
別にタダで遊園地に来れるから来てる訳じゃないですよ、もちろん栗子ちゃんのためですよ当たり前でしょう。
そう言い切ったあたりで、ジェットコースターの発進ベルが鳴り響いた。
ゴゴゴ、とゆっくりジェットコースターが坂を上り始める。
隣に座る土方さんが、視界の端でぎゅっと安全レバーを握り締めた。
そして坂を上りきったジェットコースターは、勢いよく、坂を下る。
「ひゃーー!!!」
突風で髪がなびく。他のお客さんの叫び声と、松平さんと土方さんの声が聞こえてきた。
「ぬお…思ったよりキツ…!」
「どうだ、様子は!?」
下を向いている土方さんの代わりに、私が前を向く。
「…ひ、土方さん!前っ!!」
「っ、どうした…!?ええええええ!?」
土方さんが叫ぶのも無理はない。
なにせ、前には見覚えのありすぎる人物の後頭部が見えていたのだから。
そしてその人、沖田さんは私たちのほうへと飛んでくる。
「うわっ」
「ぶっ!!」
間一髪頭を下げた私に被害はなかったものの、土方さんの顔面に沖田さんが激突した。
「てめェェェ!!何してんだァァ!」
顔を押さえて土方さんは少し後ろを振り返って叫ぶ。
「ベルト締めんの忘れた!ベルト締めんの忘れた!」
がっと私と土方さんの座席の背もたれに掴まったまま風に煽られている沖田さんは早口に叫ぶ。
「オイッなんだコイツ、さっきと別人じゃねーか!テンパリまくってんぞ!」
「Sだからこそ打たれ弱いの!ガラスの剣なの!た、たたた助けてェェ、、土方コノヤロー!」
沖田さんはガッと土方さんの頭へと手を伸ばし髪の毛を掴む。
もう片方の手は私の肩へと伸ばされる。
「た、助けてと言われても…終わるまで待つしかないですよ!」
「つーかお前っ、何ひとの頭掴んで…っ!」
お互い沖田さんの方、つまり後ろを見ていて気づかなかったが、ふっと急に身体に浮遊感を感じる。
ハッとして前を向くと、そこは直角に近い下り坂だった。
「「「ぎっ、ギャアアアアアア!!!!!」」」
私と土方さん、そして沖田さんの絶叫はひときわ大きく響いた。
「肩が…肩が痛い…」
沖田さんに鷲掴まれていた肩を擦りながらジェットコースターを降りる。
土方さんは目を回している沖田さんに肩を貸して歩いていた。
ふとターゲットの二人がいないことに気がつき、ジェットコースターを振り返る。
「へ…へへ、ヤッベーお前絶対引くだろ…オレちょっともらしちゃった」
「!?」
沖田さんの作戦ってこれかィィィ!と心の中で絶叫しながら、まだジェットコースターの席に座ったままの二人を見る。
「よかったー、実は私もでござりまする。私だけだったらどうしようかと思っていたでございまする」
えええええええ!!!!??
…と心の中で叫んだのは私だけじゃない。
土方さんも、松平さんも眉間にしわが寄っている。というか、もはや顔が引きつっている。
「マジかよスゲー!おそろいじゃん!奇跡じゃん!」
「やっぱり私達何かで結ばれているでございまする」
ワイワイと盛り上がる二人を呆然と見ていると、松平さんが声を上げた。
「オイイイ!どーゆー事だァァますます仲良くなってんじゃねーかァァ!!」
「おめーの娘こそどーなってんだァ!?普通もらすか?一体どーゆー教育してんだ!!」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですよ!二人が移動します!」
私がこっそり指差したほうを二人も見つめる。
お尻を押さえたままで移動しようとしている二人を見て、また土方さんと松平さんの眉間にしわが寄る。
「わ、私先に追跡してきます!」
「あ…ああ、すぐ追いかける。頼んだぞ」
ハッと我に返った土方さんに言われ、私は二人をこっそり追いかけた。
二人とも今度はアトラクションではなく、アイスを食べながら広場で散歩をし始めた。
追いついてきた土方さんはそばにあったベンチに座って、なんだかぐったりとしていた。
「なんてこった、まさかアレで引かねーなんて我が娘ながらなんて恐ろしい」
「とっつあん安心しな。アンタの娘はもらしてなんかいねーよ」
土方さんは煙草に火をつけ、ふーっと息を吐きながら言う。
「それに…あの彼氏さん。栗子ちゃんに対して引いた素振りがなかったんですよね」
ああいう事態に立たされたとき、女の子は基本的にいつでもきれいなままでありたいと思う。
「あんな嘘をつけた栗子ちゃんも、ああやって受け入れられた彼氏さんも、すごいと思いますよ」
「……」
いつの間にか煙草に火をつけていた松平さんは、ふう、と息をはいた。
「待ち合わせで一時間待ちぼうけくらっても笑ってたことといい、こいつァ本気で…」
「とっつァん!アレ見ろィ!」
土方さんの言葉をさえぎって、沖田さんが声を上げる。
「ヤベー観覧車に向かってますぜ、間違いねェ、チューするつもりだ」
「何!?そうなのか!?」
「観覧車つったらチューでしょ、チューするために作られたんですよあらァ」
初耳だ。
っていうか、本当に沖田さん遊園地事情詳しいですね!!
歩き出した栗子ちゃんたちを追って、近藤さんを筆頭に沖田さん、松平さんも駆け出す。
「…土方さん?」
土方さんはその場から動かず、ぼーっと足元を見つめていた。
なんだか声をかけ辛い雰囲気が漂っている。
どうしようかと、視線をあちこちに飛ばしていると、ふいに名前を呼ばれた。
「…」
「は、はい」
土方さんはベンチに座ったまま、立っている私の目をじっと見つめてくる。
「…あ、あんまり見られると恥ずかしいんですけど」
視線に耐え切れずふらふらと目線を動かしていると、フッと笑う声が聞こえた。
そして頭にぽんと温かい手が乗る。
「俺ァあいつら止めに行って来るが…はどうする」
ぐしゃりと灰皿で煙草の火を消し、微笑む土方さんに私も笑顔で返す。
「待ってます。土方さんが戻ってくるの、待ってます」
そう言うと土方さんは「行ってくる」と言って観覧車の方へ歩き出した。
残った私は土方さんの背を見つめながら、少しだけ目を閉じる。
…明日、銀さんたちに私のことを話そう。
まだ、どうやってこの世界に来たか思い出せないけど…分かることだけ、話そう。
それから、私はまだここにいたいって、ちゃんと言おう。
皆とこうやって毎日を過ごしていきたい、って。
そう思いながら私は目を開き、観覧車の近くにあるボート乗り場へ向かった。
私がボート乗り場へ到着すると、丁度観覧車のしたあたりで水柱が上がった。
しばらくそれを眺めていると、顔を引きつらせた土方さんが流れ着いてきた。
「お帰りなさい、土方さん。お疲れ様でした」
「…ああ…」
本当に、お疲れのようだ。
「…ってなんでお前、ここにいるんだよ」
「なんとなく、土方さんが流れてくる気がしたので。私の、勘ですよ」
どんな勘だ、と力ないツッコミを聞いて私は土方さんを引っ張り上げた。
それから大の大人三人を引っ張りあげなくてはならなくなり、私は明日筋肉痛になるんじゃないかと少し不安だった。
でも今日の遊園地は、本当に楽しい思い出になりました。
いつかまた、皆で遊びに来たいなあなんて思いながら、帰り道は沖田さんに手を引かれて帰った。
あとがき
皆でワイワイ遊園地後半!中盤が土方さんとデートみたいになっていたので、
最後は沖田さんと手つないでお帰りです。個人的にとっつァんと帰りたいです。←
2010/12/26