「お、おはよう銀さん!」

「あ?あー、はよ。

「あのさ、銀さん…ちょっと話したいことがあるんだけど…」

「悪ィ、今から仕事行ってくるから、帰ったら聞くわ。んじゃ」

「え、あ、いってらっしゃい」

 

 

 

 

第11曲 いつも背中を押してくれるのは

 

 

 

「ってえええええ仕事ォォォォ!?」

ピシャンと玄関が閉まる音と共に叫ぶ。

なぜ、このタイミングで、仕事!?

いつもはあれほど家でぐーたらしてるのに!やっと私の事情について話す決心をつけたのに!

 

 

「…私も仕事行こ」

叫んでも誰からも返事がなかったということは、今は神楽ちゃんも新八くんも万事屋にいないのだろう。

仕方なく私は万事屋を出て、スナックすまいるへと向かった。

 

 

 

仕事が終わる頃にはもう空は暗くなっていた。

お疲れ様でした、と皆に挨拶をしてスナックを出る。

早いとこ帰らなきゃと万事屋へ向かって歩いていると、突然路地から腕が伸びてきて、口を塞がれた。

 

「んぐっ!?」

あまりの突然のできごとに、暴れることも叫ぶこともできず、目を見開く。

息もつかせぬ速さで腕を掴まれ、一番近くの空き家の戸を突き破って押し倒された。

 

 

「よォ。元気そうじゃねーか、

「た…たか、すぎさん…!?」

さっきまでの恐怖感と驚きで、どくんどくんと心臓がうるさく鳴り響く。

 

「ちょ、び、びっくりしたじゃないですか…!」

はああ、と大きく息を吐く。心臓が止まるかと思った。

「夜の街を歩くんなら、もう少し警戒しとけよ」

高杉さんは、仰向けに寝転がったままの私の隣に胡坐をかいて座った。

 

 

落ち着いてきた心臓を撫で下ろしながらゆっくりと起き上がる。

「なんだか久しぶりですね。あっ、そうだ!高杉さんちょっと聞いてくださいよ!」

「お前は会うたびに何かしら俺に話があるんだな」

そう言って小さく笑った高杉さん。

思い返せば、私はいつも高杉さんに相談に乗ってもらっている気がする。

 

 

「あ…えと、時間があれば、ですけど」

「時間がなけりゃこんなとこへ連れ込んだりしねーよ」

ああ、そっか。と納得していると「で、話は?」と先を促された。

 

 

私はひとまず、元の世界のことを思い出したこと、そして今は銀さんと一緒に生活していること。

それから…私についての話を、銀さんにしようと思うことを話した。

 

「今までずっと、怖かったのかもしれません。高杉さんは受け止めてくれましたけど…」

「普通の奴からすりゃ、お前の言うことはサッパリ分からないだろうからな」

「ですよね」

異世界からトリップしてきましたなんて言ったら、きっと三人ともポカンとするだろう。

頭の弱い子だと思われることも否定できない。

 

 

「でも、今はもう大丈夫だと思うんです。それに、私のことをちゃんと知っておいてもらいたくて」

もう内容は忘れちゃったけど、今まで嘘ついててごめんなさいということ。

それから、一人で突っ走っちゃったりしてごめんなさいということ。

そしてこれからも、一緒にいてくれますかということ。

 

 

「それを話す決心をやっとしたのに…今日に限って仕事ですよ!普段はプー太郎みたいなものなのに!」

このタイミングの悪さ!せっかくの決心が緩むじゃない!

なんて愚痴を高杉さんにぽんぽんとぶつけていき、はっと我に返る。

 

 

「あ…ご、ごめんなさい。つい…」

「ククッ、随分とストレスが溜まってんなァ」

くつくつと笑う高杉さんから目線を外し、手元を見つめる。

 

「ま、お前が決めたことだ。しっかり話をつけてこい」

「はいっ!」

ぎゅっと両手を合わせて手を握る。

なんだか高杉さんにはいつも背中を押してもらったり、支えてもらったりしている気がするなあ。

 

 

そんなことを考えていると、ふいに目の前が暗くなった。

顔を上げると、隣にいたはずの高杉さんが私のまえにしゃがみ込んでいた。

そのまま私の頬に手を伸ばし、そっと撫でる。

 

「もし、奴に捨てられたら今度は俺が拾ってやるよ」

高杉さんはニッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そんな捨て猫みたいな言い方しないでくださいよー。それに、きっと大丈夫です。捨てられませんよ」

 

これは本当に、私の勘。

だから私も少し悪戯な笑みを浮かべて、高杉さんの目を見つめ返す。

 

 

「でも、もし万が一捨てられちゃったら、その時は拾ってくださいね」

「ああ。拾ってこき使ってやる」

「すいません前言撤回でお願いします」

高杉さんの言うことだもの、本当に容赦なさそうだ。

 

 

そろそろ帰ろうかと思って立ち上がる。

高杉さんに小さく頭を下げて空き家の戸に手をかけた時、不意に名前を呼ばれた。

 

「なんですか?」

 

「お前、どうやってこの世界に来たかは分かってんのか?」

 

あ、と擦れた声が出た。

「…それだけが、思い出せません。まあでも、別にいいかなーって思ってたりするんですけど」

駄目でしょうか、と尋ねると高杉さんは無表情のまましばらく私を見て、ふっと笑う。

 

 

「お前がそれでいいなら、いいんじゃねぇか」

じゃあいいや!と言って笑い、今度こそ私は空き家の戸を開ける。

 

 

「それじゃあ高杉さん、また!」

「…ああ、またな。

 

高杉さんに手を振って外へ出る。

オレンジ色だった空はいつの間にか濃い青色に変わっていた。

 

 

なんだか、高杉さんに話したらスッキリしちゃったなあ。

…うーん…もう一回この話するのも面倒だけど、決めたことだし。

明日、銀さんたちに話そうかな。

ぎゅっと手を握り締めて、私は万事屋へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

私がいなくなった後の空き家。

ふわりと香る煙草と紫煙の中で、高杉さんはぼーっと窓から見える月を見上げていた。

 

「…まあ、来た方法と戻る方法が同じたァ限らねーか」

 

誰もいない空き家で呟いたその言葉は、誰にも届かないまま夜の闇に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

うちの高杉さんはどのシリーズでもいいとこを持っていく気がします。

私がそういう関係やシチュエーションが好きなだけっていうのもありますけどね!←

2010/12/30