「じゃあ、よろしくお願いします」
「おー。任せておけ」
「で、どこら辺を掃除すればいいんですか?」
「ここら辺一帯、全部お願いします」
「「「「マジで?」」」」
第13曲 思い出の掃除
神社の巫女さんに言われて、私たちはとりあえず境内の近くを掃除することにした。
皆でざっざっと竹箒で落ち葉を掃く。
幸い今日は風も少なく、落ち葉が飛んでいくという心配はしなくてもよさそうだった。
「だああー…かったりぃ…」
「しょうがないですよ、仕事ですし」
新八くんは苦笑いをしながらもちゃんと手を動かす。
「ー、落ち葉見てたら焼き芋したくなったアル」
「あ、いいね!私もやりたいな」
これだけの葉っぱがあれば、おいしく焼きあがりそうだ。
なんてことを考えながら手を動かす。
「つーか掃いても掃いてもまた落ちてくるんだから意味無くね?」
「銀さん、いい加減文句言わずに掃除してください」
ものすごくスローペースで落ち葉を掃く銀さんの前を、手際よく新八くんが掃除していく。
なんだか手馴れているように見える。
「、いい事思いついたヨ!これ、全部木燃やしちゃえば落ち葉も降ってこないアル!」
「いやいやいやそれ駄目だからね。そんなことしたら怒られるからね!」
ぶっとんだ作戦を考える神楽ちゃんを宥めて、ゴミ袋を広げる。
「あ、じゃあこの袋で集めた方が早そうネ!」
そう言ってゴミ袋の口を開けて、雑巾がけでもするような体勢をとる。
「ちょ、ちょっとまった神楽ちゃん…」
私の声が届く前に、神楽ちゃんは勢いよく雑巾がけをするように落ち葉の山へ突っ込んだ。
ざざざっ、という音と共に、落ち葉の道が出来上がっている。
集めた落ち葉の山は、きれいに絨毯のようになった。
「…なあ、あいつゴミ袋につめて燃えるごみとかで出そうぜ」
「駄目だよ銀さん」
気持ちは分かる、けど、駄目だ。
掃き掃除に飽きてきたのか、銀さんは境内に座って近くの草をむしり始めた。
「ちょっと銀さん!一人だけサボらないでよ!」
「うるせー年配者を気遣え若者ー」
「じゃあ明日からオッサンって呼ぶからね。糖尿寸前のオッサンって呼ぶからね」
「ごめんなさい」
しゅんとした銀さんを見て心の中で勝った、と呟いた。
「ー、お腹減ってきたネ…力が出ないヨ」
「そういえばそろそろお昼ですね」
ぎゅうう、という盛大なお腹の音はきっと神楽ちゃんのだろう。
「じゃあ私コンビニで何か買ってくるよ」
竹箒を新八君に預けて、服に付いた葉っぱを払う。
「あ、それなら俺も行く。気分転換しねーとやってらんねーや」
銀さんはあくびをして、ダルそうに立ち上がった。
コンビニにたどり着くと私はとりあえずお弁当コーナーへ向かった。
銀さんは、お菓子売り場へ直行した。
「どうしようかな…。やっぱりご飯系の方がいいよね」
「そうだな。今ならおにぎり全品5パーセントオフだぞ」
「マジでか。お得じゃん、じゃあおにぎりに…」
あれ、私、誰と喋ってるの。
くるりと声がした方へ顔を向けると、コンビニの店員の格好をした桂さんが立っていた。
「…か、桂さん。気配もなく近づくのはやめてください心臓に悪い…!」
「む、それはすまなかった」
軽く頭を下げて、桂さんは空になった棚にお弁当を並べていく。
最近の桂さんはコンビニとか飲み屋とか蕎麦屋とか…色々な所で会いすぎて何が本業なのか分からない。
「おーい、買うもの決まったか…ってげっ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
面倒くさそうな顔をした銀さんは、本人なりにこっそり私が持ってるカゴにチョコといちご牛乳を入れた。
お前完全にこれのためについてきただろ、とツッコミたくなった。
「ふむふむ、二人で買い物とは…随分と仲が良いことだな」
茶化すようにではなく、優しそうな目で見つめられなんだか照れくさくなる。
「お前はちゃんと仕事しろっつーかもうそっちに就職しろよ」
「何を言うか銀時。これは攘夷活動のための大事な資金調達という任務でな…」
なんだか桂さんの方が銀さんよりもちゃんと仕事している気がする。
銀さんと桂さんが喋っている間に私は皆の分のおにぎりや飲み物を買って、レジへ向かう。
「ちょっ、おい置いていくなよ!」
会計が終わったところで銀さんが駆け寄ってくる。
そして何も言わずに荷物を持ってくれた。
「ありがとう、銀さん」
「まあ、ついてきた理由のひとつはこれだしな」
そっぽを向いて小さな声で言った銀さんに微笑み、扉を開ける。
「!」
後ろから名前を呼ばれ、くるりと振り返る。
それと同時に何かがひゅっと飛んできて、反射的に手で受け止めた。
「わっ…と、これ…うまい棒?」
「俺の今日のおやつだ。にも一本分けてやろう」
そう言って桂さんは笑い、「掃除、頑張ってくるんだぞ」と言った。
おそらく銀さんがさっき喋ったのだろう。
「ありがとう、桂さん!桂さんもお仕事頑張ってくださいねー!」
「つーかにだけかよ!俺にはねーのか、こう、糖分的なもの!」
なんて騒ぎながら、私は銀さんの背中を押してコンビニを出る。
早く行かないと、神楽ちゃんが暴れだしそうな予感がした。
神社に戻ると、境内でぐったりとした神楽ちゃんが目に入った。
その側で休憩している新八くんも結構お疲れのようだ。
「二人ともー、ただいまー!」
「やっと帰ってきたアル、食料たち!!」
「てめー俺らに買出し行かせて食料扱いかこのやろー」
私は買出し行くって自主的に言い出したんだけど。
ぺちぺちと神楽ちゃんの頭を叩いて境内に座った銀さんを追って私もその隣に座った。
「じゃあ皆でお昼ご飯にしよっか!」
コンビニの袋から人数分のお手拭を出して皆に渡す。
「ありがとうございます、さん」
「もうお腹ぺっこぺこアルー!」
「神楽、てめっソレ一人分じゃねーんだよ!袋奪うな!」
ワイワイと騒ぎながら食べるお昼は、なんだか掃除の休憩というよりもピクニックに来たような気分になった。
面倒である掃除も、こうやって皆で喋りながらやれば楽しいものだ。
こんな、どこにでもある日常ですら、楽しいと感じられるくらいに。
あとがき
予想外にヅラが出てきちゃって話が長くなりました。あ、あれ、何で出てきたんだお前!?←
2011/02/05