「よーっし、俺ら頑張ったー!」

「きれいになりましたね」

「もう疲れたネ。一年分の掃除した気分アル」

「じゃあ片付けして帰ろうか」

 

 

 

第14曲 掃除の終わり

 

 

 

きれいになった神社を見回し、私は皆の竹箒を受け取る。

「じゃあ僕らはこの落ち葉ゴミ捨て場まで持って行きますね」

「うん。私も箒片付けてから追いかけるよ」

 

ひょいひょいと落ち葉がつまったゴミ袋を担ぐ神楽ちゃん。

の分も私が運んでおいてあげるヨ」

「えっ、いいの?」

任せるヨロシ、といって笑ってくれた神楽ちゃんにお礼を言って私は一人で掃除用具倉庫へ向かった。

 

 

 

 

 

 

4人分の竹箒とちりとりを持って運ぶのは思っていたよりも大変だった。

もう少し、というところで足先に竹箒が当たり、手から竹箒が零れ落ちそうになった瞬間。

 

 

「おっ…と。危なっかしいなお前は」

ぱし、といい音を立てて落ちかけた竹箒は銀さんの手に収まった。

 

「あ、ありがとう銀さん。ってごみ捨ては?」

「怪力娘に任せてきた」

なんてこった。私の分も持ってくれてるのに、銀さんの分まで持たされているのか。

 

 

「別にこっちは私一人で大丈夫だったのに」

「箒落としそうになってた奴が言う台詞じゃねーだろ」

「うあー…」

そう言われてしまうと、言い返しづらい。

 

 

まあいいか、と思ってちりとりを片手に私は倉庫の扉に手をかける。

その時、私の後ろに立っていた銀さんがふと思いついたように声を上げた。

 

 

「そういえば、お前この前何か言いかけてなかったか?」

「え?いつ?何の話?」

くるりと顔だけ銀さんの方へ向ける。

 

 

「えーと…いつだっけ。なんか最近、話があるとか何とか言ってなかったか?」

最近、銀さんに…ああ、そっか。私の事情についての話をしようと思ってたんだっけ。

「ああ、そう!話したいことがあったんだけど、ちょっと長くなるから帰ってからするよ」

「ん。分かった」

 

 

こくりと頷いた銀さんによろしく、と言って私は片手に持っていたちりとりを地面に置く。

「つーかさ、。お前さっきから何やってんの?」

「いやそれがね、開かないんだよこの扉…!鍵とかかけてないよね…!?」

ぐぐ、と両手で扉をスライドさせようとしてみるも、扉は動いてくれない。

 

 

「はぁ?しょうがねーな。ちょっとどいてみろ」

竹箒を2本ずつ両腕に抱えたまま銀さんが近づく足音を背に、私はもう一度扉にかける手に力を入れる。

「だ、いじょうぶ!銀さんは箒持って……」

 

 

 

 

あれ、なんだろう。

この感じ。

 

 

 

どこかで、同じことをしたような気がする。

 

 

 

 

 

「……!」

ぞくっと背筋が冷えるような感覚に襲われる。

ぐらりと目の前の景色が揺らぐ。

 

 

「おい、?なんだよ急に黙って」

「ぎ、銀さんっ!私っ」

 

銀さんの声をかき消すような声量で叫び振り返ると同時に、がらりと掃除用具倉庫の扉が、開いた。

さっきまでびくともしなかった扉が嘘のように軽く。

 

 

同時に急に足元から力が抜け、かくんと膝が曲がった。

そして何かに引っ張られるように、私の体は倉庫の中へと傾く。

 

 

っ!!」

 

ガララッと銀さんの手から箒が落ちる音が聞こえた。

そして私に向かって伸ばされた手を掴む前に、私の目の前は真っ暗になっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふわりと冷たい風が頬を撫でる。

背中に地面の感覚があるということは、今私は外で寝転がっている…というか倒れてるんだろうか。

目を閉じたまま寝転がっていると、誰かにがくがくと肩を揺さぶられた。

 

 

 

「…、ちょっと!!何やってんの!」

ちゃんっ、大丈夫!?」

女の子らしい高い声を聞いて、私はゆっくりと目を開ける。

 

 

「う…あれ…?」

目を開けると心配そうな顔をした二人の女友達が顔を覗き込んでいた。

 

 

「…っはー、あ、あせった…!あんた何回呼んでも起きないから、どうしたのかと思ったじゃない」

「心配したんだからねーっ!!」

安心したようにため息をつく刹那と、泣きそうな顔で私の手を握っている春亜。

二人とも私の友達だ。

そう、二人とも、私の元の世界の…。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!?何で二人がいるの!?ていうか銀さんは!?」

「…は?」

がばっと体を起こして辺りを見渡す。

目の前に建つのは、少し灰色がかった年期の入った校舎。

そして周りに散らばる箒とちりとり。

 

 

「も…戻って、きちゃった…?」

神社の裏と学校の裏庭は似たような景色だけど、確実に違う。

その近くに建つ建物も、人も、何もかも。

 

 

「あんた…頭ぶつけた?ていうか何、夢でも見てたわけ?」

「銀さんって銀魂の?今日新刊発売日とかだっけー?」

顎に手を当てて考えながら言われた台詞で、急激に実感がわいてくる。

 

さっきまでいたはずの人は、もう、ここにはいないということ。

 

 

 

 

「…ご、ごめん、なんか倒れた衝撃でそのまま寝ちゃってたみたい!」

あはは、と作り笑いを浮かべて二人を見る。

少し訝しそうにしながらも、二人も笑って私に手を差し出した。

 

 

「まったく、あんたは…。天然は春亜だけで十分だっての」

「え?私天然なの?」

「うっわ、無自覚天然か」

ぽわぽわとした会話を聞きながら、そっと後ろを振り返る。

 

 

そこにある倉庫の扉は開いたまま、向こう側の壁が見えるだけだった。

私は伸ばされた手を取って立ち上がり、三人で散らばった箒を片付けてその場を去った。

 

 

 

何度も、その倉庫を振り返りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

刹那と春亜はオリジナルキャラです。ちょっと姉御肌の刹那と天然の春亜はヒロインのお友達です。

2011/02/20