ぎゅっと閉じた目を、そっと開く。

開いた目に入ってきたのは、太陽ではなく月の光。

真正面に、月が見える。

……真正面?

 

 

 

第2曲 タイミングって重要

 

 

 

ぱちぱちと瞬きをする。

「え、まって、ここって……ッ!?」

突如やってくる浮遊感、というよりも落下感。

 

「ちょっと待ってよなんでこんな高いところに…ぎゃ、ぎゃあああ!!」

顔面に風を受け、ものすごい勢いで落ちていく。

これ、死ぬんじゃないの私。

 

 

ぞわりと背筋に悪寒が走る。

ぎゃあぎゃあと叫びながら落ちていく途中、水面が見えた。

海なら助かるかもしれない…ってこんな勢いで落ちたら死ぬよね!

 

 

でもこうやって考えてる余裕があるくらいの速度だけど、怖いものは怖い。

どうしようと思っていると、海の上にぽつりと光が見えた。

 

目を凝らしてよく見ると、そこには人影がある。

 

「うわあああああ!ちょっ、そこどいて…」

いや、でもどかれたら地面と衝突だよね。

 

 

「やっぱどかないでぇぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

 

 

我ながら無茶なことを言っていると思いながらも、そう叫んで地上に着く前にぎゅっと再び目を閉じた。

 

その直後にやってくるドンッという衝撃。

そして、ふわりと漂う煙草の香り。

 

…煙草?

 

 

 

 

 

 

「…今日は随分とデケー月が出てると思ったら…」

私の頭の上で少し笑うような声がする。

 

「こいつァまた、すげーのが落ちてきたな」

クク、と喉で笑う声。この、声は。

 

 

「た…高杉、さん…!?」

顔を上げたそこには、私を抱きとめるというよりは私と衝突してしまった高杉さんの呆れたような笑顔があった。

 

「よォ。しばらく見なかったが、随分遠いところへでも行ってたのか?」

「た、高杉さん…そうです、そうなんです!でも、よかった、帰ってこれた…!」

ありがとう掃除用具倉庫!と心の中で叫んだときだった。

 

 

 

「…?」

 

 

 

ぽつりと背中から聞こえた女の子の声。

くるりと振り返ると、目を丸くしてじっとこっちを見つめる神楽ちゃんがいた。

 

 

「ずっとずっと、探してたアル…っ!」

「ごめん、ごめんね神楽ちゃん!」

泣きそうな顔になっていく神楽ちゃんに駆け寄ろうとした瞬間、ドォンッと銃声が響き、床に穴が空いた。

次々に打ち込まれる弾丸を避けるように神楽ちゃんは身を翻す。

 

 

「貴様らァァ!何者だァァァ!?晋助様を襲撃するとは絶対許さないっス!」

夜の船上に響いた声。

神楽ちゃんに馬乗りになるように銃を向け、神楽ちゃんも傘の銃口を声の主に向ける。

「銃をおろせ!この来島また子の早撃ちに勝てると思ってんスかァ!?」

 

 

顔が引きつる。

もしかして私、最悪のタイミングで戻ってきてしまったんじゃないだろうか。

 

 

 

「晋助様!その女も侵入者っスよね!?」

「あぁ…いい。こいつァ俺がなんとかする」

背後から聞こえた声に振り返る前に、後ろから口を塞がれる。

 

「ん、ぐっ!?」

「…少し大人しくしてろ。別に殺しゃしねーよ、お前はな」

若干不安の残る台詞を耳元で囁かれ、私の口を押さえている高杉さんの着物の袖に手を添える。

 

 

を離すネ!!」

ドカッと自分に向く銃口を蹴り飛ばし、神楽ちゃんは船上を駆ける。

その瞬間、真っ暗だったそこにスポットライトが当たった。

 

 

 

「みなさん、殺してはいけませんよ。女子供を殺めたとあっては侍の名がすたります」

 

「先輩ィィ!ロリコンも大概にするっス!」

「ロリコンじゃない、フェミニストです」

あれ、なんかそういうやりとりどこかで聞いた気がする。

なんて思う余裕は背後で高杉さんがため息をついた一瞬しかなく、いつの間にか船上には数多の攘夷浪士がいた。

 

 

 

そんな浪士たちをなぎ倒しながら神楽ちゃんは声を張り上げる。

、ヅラが行方不明になったアル!皆で探して…多分ここにいるはずネ!!」

やっぱり、そういうタイミングだったか…。

できることならもうちょっと平和なときに帰ってきたかった。

 

 

「ヅラァァ!いたら返事するアル!!」

ぐるりと船を見渡して叫ぶ神楽ちゃん。そこに向けられる、銃口。

 

神楽ちゃん、と叫びたかったけれど押さえつけられた口から発せられたのは言葉にならないくぐもった声だけだった。

ドオンと響く銃声が神楽ちゃんの肩と足を貫き、その瞬間に浪士が一斉に飛び掛る。

「ふんごおおおお!!」

負けじと浪士をなぎ倒していく神楽ちゃん。

 

 

 

「な…なんてガキだ…」

その意見には同意する。

そう思っていると、今まで無言だった高杉さんの手が少し緩んだ。

 

 

名前を呼ばれ、何かと思って振り返ろうとした瞬間。

首の後ろにドンッと衝撃を感じ、ぐらりと世界が揺れる。

 

「あ…」

目の前に火花が散り、視界がブラックアウトする。

 

 

倒れる寸前に見えたのは、ここに来たときに見えた大きな満月だった。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

戻ってきました、最悪のタイミングで!(ぁ

第6章もどうぞよろしくお願いいたします。

2011/03/23