「大人しくしていた方が安全だが…お前はそういう女じゃねえか」
「高杉さん、あの」
「悪ィな。今日はの相談に乗ってやってる暇はねーんだ」
「……」
「随分と面倒な客が来てるからな。そっちの相手をしにいかなきゃならねー」
「だったら、私も連れてってくださいっ!」
第4曲 非戦闘員の意地
少しずついつもの空気に戻っていった高杉さんの目を見てそう叫ぶ。
「言ったはずだ。大人しくしていた方が、安全だってな」
「でも、そのお客さんってきっと私の良く知ってる人だと思うんです」
だから連れて行ってください、と言葉を続ける。
「…俺はお前を守ってなんかやれねーぞ」
「自分の身は自分でなんとかします。危なくなったら、即逃げますから」
冗談めかすようにして笑うと、高杉さんは諦めたようにため息をついた。
「、後ろ向け」
「え?」
いいから、と催促してくる高杉さんに背を向ける。
そのすぐ後に、プツッと私の手を縛っていた紐が床に落ちた。
「行くぞ」
刀を仕舞いながら高杉さんはすたすたと歩き出す。
「ま、待ってください!いいんですか、これ解いちゃって」
「別に今更お前を人質にしようなんざ思ってねーよ。それとも、腹いせに俺を殺すか?」
「そんなことしません!絶対!」
力一杯否定すると高杉さんは、ならいいだろ、と言って笑った。
遠慮なく私を置いていく高杉さんの背を追いかけて、私は小さくお礼を言った。
さっきの笑顔が、この場に似合わないようなものだったから。
しばらく歩いていくと外の光が目に入ってきた。
甲板に広がる光景は、何が起こったのかと聞きたくなるほどに無残なものとなっていた。
何事ですかと尋ねようとしたその時。
ドオンッという音と共に船体がぐらりと再び揺れる。
「あわわっ」
ぐらりと傾く体を壁に預ける。
「はそこでじっとしてろ」
ほんの少しだけ振り返った高杉さんは揺れをものともしないで甲板を歩く。
船に慣れてる人って、すごい…。
ってそんなこと言ってる場合じゃない!
「ま、まってくださいっ!」
転びそうになりながら甲板へ出ると、そこには神楽ちゃんと新八くん、そしてエリザベスがいた。
声をかけようとした瞬間、すぱんっとエリザベスの首…だと思われる部分が飛んだ。
「オイオイいつの間に仮装パーティ会場になったんだここは」
ぱさりと落ちるエリザベスの頭部。
「ガキが来ていい所じゃねーよ、ここは」
高杉さんの視線の先には神楽ちゃんと新八くんがいる。
だめだ、とめなきゃ。
そう思って走り出した時、懐かしい声が聞こえた。
「ガキじゃない」
その声はエリザベスの胴体部分から聞こえてくる。
「!!」
ぴくりと高杉さんの体が反応すると同時にビュッと一閃、刀が高杉さんの体に走る。
「たっ、高杉さん!!」
突き飛ばすようにして私は高杉さんに側面からぶつかった。
どさっと二人とも床に倒れこみ、私はばっと顔を上げる。
「高杉さん、大丈夫ですか!?」
「お前…自分が何やってるか、わかってんのか?」
「よく分からないですけど体が勝手に動きました」
ぽかんとした顔で見られ、ふいと視線を逸らす。
「桂さん…それにさんっ…!?」
視線を逸らした先には、新八くんが驚嘆の声を上げる。
しまった、結局最初に何て言おうか考えてないや。
どうしようかと思っている横で高杉さんが立ち上がると、同時にぱさりと何かが床に落ちる音がした。
音の方向に視線を向けると、刀傷のついた一冊の本が落ちていた。
「これって…」
「まだそんなものを持っていたか。お互いバカらしい」
すっと桂さんが懐から取り出した、同じような本にも刀傷がついていた。
「クク、お前もそいつのおかげで紅桜から護られてたわけかい。思い出は大切にするもんだねェ」
「いや貴様の無能な部下のおかげさ。ロクに確認もせずに髪だけ刈り取っていったわ」
桂さんはふんと息を吐く。
そういえば、いつも羨ましいとすら思うきれいな髪がばっさり切り落とされている。
「で、だ。高杉、なぜお前がと一緒にいるんだ。ここのところ姿を見ていなかったが…まさかお前」
「ち、違うんです!」
桂さんの声をさえぎるように叫ぶ。
「あ…えと、その、説明すると非常に長くなる理由がありまして…」
どうやって説明しようか悩んでいると、誰かにとんっと背を押された。
「こいつァ関係ねぇよ。さっさと連れて帰れ」
とんとんと数歩前に出ると、桂さんが私の腕を引いて体を支えてくれた。
「言っただろ。ここはガキの来るところじゃねえんだよ、」
その声を聞いたすぐ後、高杉さんとの間を砲撃が走り抜けた。
「貴様の野望。悪いが海に消えてもらおう」
ドオンッと響く砲撃の音、そして炎上していく船体。
「晋助様!くっ…桂ァァァ!」
飛んでくる射撃と声はまた子ちゃんのものだろう。
桂さんは私の腕を掴んだまま、庇うようにして神楽ちゃんたちの下へ走る。
そして神楽ちゃんの手足についていた枷を刀で切り解いた。
「っ!生きてたアルか!」
「うん、このとおりピンピンしてるから大丈夫!神楽ちゃんこそ怪我してない?」
ぎゅっと私の手を握って心配そうな目で見てくる神楽ちゃん。
「大丈夫ネ、もう全部治ったアル」
「相変わらず夜兎ってすごいね」
あはは、と乾いた笑みを浮かべていられたのもほんのひと時。
「、いろいろ聞きたいことはあるが…今はあいつらの相手をしてやるのが先だ」
「そうですよ、さんがいなくなって僕たち、必死に探し回ってたんですから」
私たちを庇うように前に立つ桂さん。
そして神楽ちゃんと同じく心配そうな、そして少しだけ安堵の篭った目で私を見る新八くん。
「がいなくなって、いろいろあったアル。帰ったら、いっぱい、いっぱい話するアル!」
泣きそうな笑顔でそう言ってくれる神楽ちゃん。
私は、やっぱり戻ってきたことに、後悔しない。
「うん、もう大丈夫。だから…帰ったら私の話も、するね」
こくりと頷いてくれたみんなに、ありがとうと言って笑った。
あとがき
みんなと合流!バタバタしすぎてて感動も何もあったもんじゃない再会です。
ここからちょっとだけ間奏曲ネタを突っ込んでいくつもりですが…うまく書けるかどうか。(ぁ
2011/04/30