「で、桂さん行方不明だったんですって?どこにいたんですか」
「そうネ。なんでお前エリザベスの中から出てきたアル」
「いつから僕たちだましてたんですか」
「二人とも顔が怖いぞ。何も知らせなかったのは謝るが、今回は俺自身の問題だ。他人を巻き込むわけには…」
「「だからなんでエリザベスだァァァァァ!!!」」
「うおおおおおお!!!」
第5曲 陽はまた昇る
ブゥンと桂さんが回転している。
というか、両足を神楽ちゃんと新八くんに掴まれてジャイアントスイングされている。
しかもその勢いで敵の隊士さんが次々となぎ倒されていく。
…なんて光景。
「あー…帰ってきたんだなあ、ここに」
「、見てないで、た、助けろ!」
ぐるんぐるんと回転している桂さんからそんな声が聞こえたけど、私に止められるわけがない。
「くそ、近寄れねェ!まるでスキがねェ!」
敵方のみなさんも怯んでることだし、まあ桂さんにはもう少し回っててもらおう。
「何やってんスかァ!!」
「!ん…アレは」
また子ちゃんが怒りの声を上げたと同時に聞こえてきた重低音。
音のする方へ目を向けると、一隻の船がこちらへ向かって飛んできていた。
その船は勢いを緩めることなく、遠慮もなく私たちのいる船に突っ込んだ。
「うわァァァ!!」
「船がつっこんできやがった!」
「なんてマネを!!」
口々に叫びながら激しく揺れる船体を転がる。
「高杉ィィィ!貴様らの思い通りにはさせん!!」
キインッと刀同士がぶつかる音、そして爆発音。
「チッ!全員叩き斬るっス!!」
また子ちゃんの声で動く鬼兵隊隊士と、桂さんの率いる攘夷志士。
ばっと私たちの前に飛び出したのは、その筆頭。エリザベスだった。
「すみません桂さん。いかなる事があろうと、勝手に兵を動かすなと言われておきながらいてもたってもいられず」
「かような事で死ぬ訳がないと信じておりましたが、最後の最後でわれらは…ッ」
「やめてくれ。そんな顔で謝る奴らを叱れるわけもない」
ずび、と鼻をすすりながら鼻声で刀を構える攘夷志士の人たちに桂さんはそう声を掛ける。
「それに謝らなければならぬのは俺の方だ。何の連絡もせずに」
「桂さん、あなたかつての仲間である高杉を救おうと、騒ぎを広めずに一人説得にいくつもりだったんでしょう」
「それを我らはこのように騒ぎたて、高杉一派との亀裂を完全なものにしてしまった。これでは、もう…」
「言うな」
ぴしゃりと桂さんは攘夷志士さんの言葉を止める。
「…奴とはいずれ、こうなっていたさ」
桂さんの刀を持つ手が、ぐっと握り締められた。
「くっ、次から次へと…晋助様!……晋助様?」
「……」
高杉はぼうっと空を見つめたままその場に立ち止まっていた。
「どうしたんスか?」
「いや、なんだか…」
前にも似たようなことがあったような気がする。
高杉はそう思いながら、ちらりとに目を向ける。
「…いや、気のせいだろうな」
ぽつりと呟き、高杉はすっと踵を返して船体に戻っていった。
「私は、高杉さんに話をしに行きます」
ぎゅっと手を握り締めてそう言うと、その場の全員が驚いたように私を見た。
「高杉さんがやりたいこと…それ自体が間違ってるとは思ってないけれど、やり方は他にもあるはずだから」
説得なんて大層なものができるとは思えないけれど、少しでも心に響かせてあげられたらいい。
きっとあの人だって、こんなやり方望んでいないはずだから。
「だが…」
桂さんが私の名前を呼ぶと、それを遮るように新八くんが私の前に立った。
「さん、これちょっと借りてました」
「これって木刀?…もしかして」
この世界に、万事屋の押入れに置いていった木刀を差し出される。
「持っていってください。今こそ、使い時ですよね」
にこりと笑って新八君は「もう一本持ってますから、僕は大丈夫です」と言った。
「絶対戻ってくるアルよ、。帰ったらヅラのおごりで何か食べに行くアル」
「ええ、ここまで来たら最後までつき合いますからね!」
二人がそう言ってくれた瞬間、私たちの足元に銃弾が打ち込まれた。
「晋助様のところへはいかせないっス」
「悪いがフェミニストといえど、鬼になることもあります」
くるくると銃を回すまた子ちゃんと、刀に手を添える武市さん。
チッと舌打ちをした桂さんの横を通り、新八くんと神楽ちゃんが躊躇いなく前へ出る。
「ヅラぁ、私酢昆布一年分と『渡る世間は鬼しかいねェチクショー』DVD全巻ネ。あっ、あと定春のエサ」
「僕お通ちゃんのニューアルバムと写真集とハーゲンダッツ百個お願いします」
バキボキと手を鳴らし、刀を構える新八くん。
「待て!お前たちに何かあったら俺は…銀時に合わす顔がない!」
「何言ってるアルか!!」
「そのヘンテコな髪型見せて笑ってもらえ!!」
叫ぶと同時に二人はまた子ちゃんと武市さんへと襲い掛かる。
ガキィィンと刀の触れ合う音が響く。
「さんっ!」
「ヅラのこと、頼んだアル!」
視線だけこちらへ飛ばした神楽ちゃんがニッと笑った。
「…うん、なるべく早く戻るから!」
なんとか持ちこたえてね、と叫んで私は桂さんの腕を掴んで走り出す。
そこら中から聞こえてくる爆発音や刀の音の中を前を見据えて走る。
「、お前には尚更…怪我させるわけにはいかない…!」
「桂さん」
人気が無くなった船内の廊下で足を止める。
「私は今も非戦闘員です。危なくなったら即逃げますから。だから、心配しないでください」
安心させようと、笑って言ったが桂さんの表情は硬いまま。
どうしようかと思っていると、不意に腕をぐいと引かれて桂さんにぎゅっと抱きしめられた。
って、え!?
頭がついて行かない中、桂さんは少しだけさっきよりも優しい声音で呟く。
「分かった、俺も腹をくくろう。一緒に高杉を止めにいくぞ」
「…はい」
小さく頷いて返事をする。
桂さんの腕から離れると、また遠くから爆発音が聞こえ始めた。
「って急がないと本気で危ないですね。行きましょう、桂さん!」
「ああ」
高杉さんがいるであろう場所へ向かって、再び走り始める。
「お前は昔から、怖いくせにそうやって誰かの為に動くんだな」
ぽつりと桂はの背を見ながらそう呟いた。
「…ん?むかし…って、俺は一体何を…」
自分が呟いた言葉に対して疑問を持つ。
なぜ、昔なんて言ったのか。自分がと出会ったのはまだ最近のことのはず。
「桂さーん!早くしないと、手遅れになっちゃいますよ!」
「あ、ああ。そうだな」
曲がり角で叫ぶを追うように走り、桂は浮かんだ疑問を打ち消した。
きっと何か思い違いをしているだけだと自分に言い聞かせて。
あとがき
桂さんがかっこいい貴重なターンです。いえ、普段からかっこいい、ですよ、ね!
しかしなんだかみんな男前になってきました。戦う人たちはかっこいいですね。
2011/05/14