「読めませんね…この船にあって、あなた達だけが異質」
「なんなんスかお前ら!一体何者なんスか!!何が目的スか!一体誰の回し者スか!?」
「私らが何者か…そんなもん、決まってるネ」
「そうだよね。僕らは…」
「「宇宙一バカな侍だコノヤロー!!!」」
第6曲 宇宙一の優しいバカたち
ガキィィィンと激しい刀の衝撃音と、鬼兵隊隊士がどしゃりと倒れる音。
刀を鞘に戻した桂さんは、すっと前へ視線を移す。
「まだ帰ってなかったのか、。それにヅラ」
「帰れませんよ。やらなきゃいけないことが、残ってますから」
ふっと笑いながら私たちを見る高杉さん。
そして庇うように桂さんが私の前に立った。
「貴様は知っていたはずだ、紅桜を使えばどのような事になるか。…死ぬぞ、あの男」
「ありゃアイツが自ら望んでやったことだ。あれで死んだとしても本望だろう」
視線の先、船体の屋根の上では紅桜と戦う、ずっと会いたかった人の姿があった。
「銀、さん…」
ほとんど無意識でこぼれた声に高杉さんは笑みを深くする。
「ククッ、行かなくていいのか」
「えっ?」
「折角戻ってきたのに、このままじゃアイツも死ぬぞ」
くいっと顎で屋根の上を指す。
未だ激しい戦いを繰り広げている、銀さんのことを言っているのであろう。
「銀さんなら、きっと大丈夫……でも、なさそう、ですね」
さすがに音は聞こえてこないが、見た感じ若干銀さんが押され気味である。
「…このままだと、伝えたいことも伝えられないまま、会えなくなる」
高杉さんはすっと私たちの方へ一歩前に出る。
「そうしたら、お前だってこの世界を憎み、壊してやろうと思うはずだ」
「高杉さん…」
その言葉は私に向けて、そして自分に向けて発せられたものなんだろう。
「そう、ですね。きっと私も許せないと思います」
ぎゅっと手を握り締めて、私は高杉さんの前に立つ。
「でも、私が大切に思ってるのは一人だけじゃない。桂さんのことも、高杉さんのことも、大切なんです」
この世界を壊してしまったら、その大切な人が全員いなくなってしまう。
その方が、辛い。
「それにこんなやり方、望んでませんよ。…その人は、きっと望んでませんよ」
松陽先生は、とても優しいひとだったから。
「だから、ええと、もうちょっと平和的な解決方法を考えませんか?」
「…お前はいつも、最後の押しが弱いな」
ふっと少しだけ馬鹿にするような笑い方をした高杉さんは、そっと私の頬に手を添える。
「俺には、目の前の一本の道しか見えちゃいねェ。あぜ道に仲間が転がろうがかまやしねェ」
「そんな風じゃ、最後はひとりぼっちになっちゃいますよ…」
たとえ目的を果たしたとして、その時に笑いあうことのできる仲間がいなかったら。
苛立ちのループからは抜け出せない。
「なんだ。その時ァが傍にいてくれるんじゃねーのか?」
「……え?」
一瞬何を言われたのか分からず、ぽかんとする。
私の後ろで桂さんもぽかんとしていたのだろう、かすかに「…は?」という声が聞こえた。
「え、でも、今の流れ的に私も世界と一緒に殺されてますよね」
「直接お前に手をかけようとは思わねーよ」
フッと笑った高杉さんにほんの一瞬見惚れていると、ふわりと額に温もりを感じた。
「…ッ、高杉!!」
私が反応するよりも早く叫んだ桂さん。
その声に振り返った瞬間、背中をどんと押されて桂さんに向かって倒れ込む。
「もう、決めたんだろ」
ぎゅっと桂さんに抱きとめられたまま、背にかかる声を聞く。
「俺も同じだ。…この世界をブッ潰す、そう決めた」
その声に揺るぎは無い。
「迷うことも、もうねぇだろ。なあ、」
その言葉の意味すること。
「た、高杉さんっ、私は!」
叫ぶと同時に高杉さん側の船体から飛び出してくる数人の天人。
そいつらから庇うように私を背に回し、桂さんが刀を構える。
「逃げろ、」
「ッ…」
そう言われるであろうことは分かっていた。
そして、嫌と言いそうになる自分を抑えようと、手に持つ木刀に力を入れる。
ここで私が残ったとしても、結局は足手まといになるだけ。
何も、変えられない。
ギリッと歯をかみしめる。
「…っ」
振り払うように顔を上げて、すっと息を吸い込む。
「高杉さんっ!私は…私は、これでお別れなんて嫌です!」
声が震えてしまわないように再度手に力を入れる。
「でも、桂さんや銀さんや…皆がいない世界での再会なんて、望まない!」
薄い笑みを浮かべる高杉さんの目を見て、叫ぶ。
「この世界で、皆がいる世界で、また悩むことがあったら、その時は相談に乗ってください」
上手く笑えていたかどうかは分からないけれど、今の私にできる精一杯の笑顔で告げた。
握りしめた手の力を少し抜いて、くいっと桂さんの着物の袖を引っ張る。
「桂さん…神楽ちゃんや新八くん、銀さんたちと一緒に待ってますから!な、なるべく早く来てくださいね!!」
「…ああ、すぐに追いかける。お前も無茶をするんじゃないぞ、」
「はいっ」
頭を下げて私はその場を後にする。
そして心の中で桂さんに謝る。
ごめんなさい、きっと、無茶します。
振り返った先に見えたのは、天人相手に刀を振るう桂さん。
二人から桂さんを頼まれたのに結局私はこれくらいしか、できない。
高杉さんを止めることも、桂さんを助けることも中途半端にしかできない。
ぎゅっと木刀を握りしめて歯を噛みしめる。
悔しさを抱きながら、私はあの人たちの元へ走る。
あとがき
ヒロインがあちこちフラフラ走り回ってるのは、私の計画ミスです。(ぁ
高杉さんのターンはここまで。非戦闘員っていうのは結構辛い立場でもあるものです。
2011/06/04