「あの子にあれだけ言われて、まだ止めようとは思わんのか」

「言っただろう。もう決めたことだ、俺ァこの世界を壊す」

「この世界を壊せば、全て消える。…あの子も、例外では」

「ヅラ、言っておくがな」

「…?」

「俺はそんな甘っちょろい考えじゃねえ。この世界が俺達から先生を奪ったあの時から、揺るいじゃいねーんだよ」

 

 

 

 

第7曲 見た目よりも魂

 

 

 

そこら中から聞こえる爆音に耳を痛めながら、落ちている瓦礫や木片を避けて走る。

まっすぐ走っていたつもりが、登っているのやら降りているのやらよく分からない。

 

 

「あーもう、船のくせになんでこんなに広いの…!?」

天人たちは甲板や表に集まっているのか、船体には姿が見えない。

 

 

いい加減誰かと合流しなければ。

そう思った瞬間、ずぼっと足元に穴が空いた。

 

 

「えっ…うわっ、ぎゃああああ!!!」

メキメキッと周りの床やコードを巻き込んで下へ落ちる。

ぶつけた足や腕に痛みを感じつつも、木刀を杖代わりに立ち上がる。

 

 

外の光が入ってきていないということは、ここは船の中なんだろうか。

それにしても足場が悪い。床というよりは天井裏といった方が正しいような場所。

 

 

 

「……、…!」

遠くから声が聞こえる。

体を起して声のする方へと踏み出す。

 

 

「最早白夜叉といえど、アレは止められまい!アレこそ紅桜の完全なる姿、アレこそ究極の剣!!」

叫ぶように話す声は遠くに見える床に開いた穴の方から聞こえてくる。

 

 

「一つの理念の元、余分なものを捨て去った者だけが手にできる力!」

穴が近づくにつれて聞こえてくる機械のような音と、大声。

 

「つまらぬ事にとらわれるお前達に止められるわけがない!」

「銀さァん!!」

 

「!」

今の声は新八くんだろう。

ということは、あの穴の下に銀さんたちがいる。しかもこれまた、厄介な状態で。

 

 

 

「死なせない!コイツは死なせない!」

新八くんの声と同じ方向から女の子の叫び声が響く。

 

「これ以上その剣で人は死なせない!!」

痛みを振り切るように、開いた穴へと走る。

だんだんと鮮明になっていく音の中、神楽ちゃんの声も耳に届く。

 

 

「でーかーぶーつー!そのモジャモジャを」

「離せェェェエェェェ!!!!!」

 

ドゴオッと物凄い音が響く。

辿りついた先に見えた光景に、頭が考えるよりも先に体が動く。

 

 

「てりゃあああああ!!!!」

穴から落下する勢いと共に、木刀を紅桜に向かって突き立てる。

ビリビリと手が痺れるほどの反動に負けないようにぐっと木刀を押し込む。

 

 

ッ!」

さん…!」

神楽ちゃんと新八くん、そしてさっきの声の主であろう女の子の驚きの視線を浴びつつ手に込めた力は緩めない。

 

「ごめん、足手まといになりそうだったから戻ってきちゃった」

「大丈夫ネ、今はこっちの方が…人手不足、アル!」

ドゴオッと神楽ちゃんの蹴りが紅桜に浸食されたのであろう、人の腕だった部分にめり込む。

 

 

私が突き立てた木刀の近くには、幾つものコードのようなものに飲み込まれかけている銀さんがいた。

「銀さんっ…まだ、ただいまもごめんなさいも言えてないんだから、こんなとこで負けないでェェ!」

 

メキッと木刀が軋む。

 

 

「…松陽、先生っ…!」

声に出たのかどうかも分からないくらいの音がこぼれる。

皆の役に立ちたいんです、皆の力になりたいんです、大切な友人を…護りたいんです!

 

 

 

グッと木刀を紅桜に突き立てた瞬間、私たちを振り払うように紅桜本体…似蔵は腕を振り回す。

壁や床に転がる私たち、そして青い髪の女の子に向けて刀が振り下ろされる。

 

ドンッと床が揺れるほどの衝撃の後、舞い上がる砂ぼこりの中からひとが一人床に倒れているのが見えた。

 

 

「あっ…兄者ァァァ!」

目を見開いて倒れた男の人に駆け寄る女の子。

悲痛に叫ぶ声が響く中、紅桜のコードに絡まった木刀を引き抜いた銀さんが似蔵の顔面を切りつける。

バキィィッという衝撃音と共に木刀は根元から折れた。

 

しかし、木刀から発せられたと思えぬほどの衝撃が似蔵を襲う。

その瞬間にできた隙に銀さんは突き立った刀を手に紅桜から脱出する。

 

 

「銀ちゃん!」

私たちは一斉に銀さんに駆け寄る。

 

 

「…は、なんか、随分懐かしい声がすんだけど」

肩で息をしながら銀さんは視線を紅桜から逸らさず言う。

「ごめんっ、ごめんなさい!!後で、ちゃんと話すから…全部話すからっ」

「わーってる。…今度は、ちゃんと聞くからそこで待ってろ」

そう言って銀さんは私を自分の背に回し、紅桜から遠ざける。

 

 

 

「兄者!」

「…クク、そういうことか…」

さっきまで大声で話していた男の人は、どこか悟ったような声で言葉を紡ぐ。

 

「剣以外の余計なものは捨ててきたつまりだった…だが、最後の最後で」

すっと自分を抱き寄せる女の子の頬に手を伸ばす。

 

「お前だけは…捨てられなんだか」

 

 

 

「余計なモンなんかじゃねーよ」

 

 

ぐっと膝に手を当てて銀さんは体勢を整える。

「全てをささげて剣をつくるためだけに生きる?それが職人だァ?」

ふう、と大きく息を吐いて刀を持ち上げる。

「いろんなモン背負って頭かかえて生きる度胸もねー奴が職人なんだカッコつけんじゃねェ」

 

 

銀さんの邪魔にならないように後ずさると、カツンと折れた木刀の先端が足に当たった。

「見とけ。てめーのいう余計なモンがどれだけの力を持ってるか」

そっとその木刀を拾い上げ、ずっと昔についた傷を撫でる。

 

 

 

「てめーの妹が魂込めて打ち込んだ刀の斬れ味、しかとその面たまに焼き付けな」

 

 

ビュッと空を切る音が耳に届く。

まっすぐに紅桜へと向けられた、あの女の子が打ったのであろう刀が鈍く光を反射する。

 

 

そして、紅桜と銀さんの刀が激突する。

世界の音が全て止まったかのような、静寂の後。

 

 

 

バキィィィッという耳を劈くような刀の音、そして紅桜が崩壊する音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

やっと銀さんの見せ場が戻ってきました。お久しぶりです。

ここの描写は削りたくない上に、かっこよく書きたかったので思いっきり真面目な話になっていればいいなと思います。

2011/07/03