「護るための…剣か…。お前…らしいな、鉄子」

「…っ…」

「……どうやら私は…まだ打ち方が足りなかった…らしい」

「…」

「鉄子、いい鍛冶屋に…な……」

 

「…きこえないよ…兄者…いつもみたいに大きな声で言ってくれないと…きこえないよ」

 

 

 

 

第8曲 今度は待ってるよ

 

 

 

未だ激しい戦いが繰り広げられている船上を、私と鉄子ちゃんで銀さんを支えながら歩く。

戦闘をきるのは、神楽ちゃんと新八くんだ。

 

「おーう!邪魔だ邪魔だァァ!!」

「万事屋銀ちゃんがお通りでェェェェ!!!」

 

ドカバキと目の前に現れる天人をなぎ倒していく神楽ちゃんと新八くん。

君たち、ここにきて急にパワーアップしてない?なんてツッコミは心の中だけにとどめておいた。

 

 

「いててて…」

「銀さん…もう、無茶ばっかりするからこういう目に遭うんだよ!」

「なんでいきなり説教されてんの俺」

私だって何でいきなりこんなこと言ってるのか分からない。

そもそも、あまりにも急展開すぎて何を喋ったらいいのか分からないんだよね。

 

 

 

神楽ちゃんがどかっと蹴り倒した天人を避けて歩いていると、突然横道から何人かの天人が傾れ込んできた。

ただ、その天人は全員気を失っている。

どうしたんだと思って横道に視線を向ける。

 

そして立ちこめる砂埃の中、見えたのは。

 

 

「どけ、俺は今虫の居所が悪いんだ」

 

 

「桂さん!!」

ギッと鋭い眼光で迫る天人を射抜く。

ふとこちらに視線を移した桂さんは周りの天人を一掃して駆け寄ってきた。

 

 

、大丈夫だったか」

「私は全然なんともないですっ…それより、桂さんが戻ってきてくれてよかったです!」

「ふ、あれしきの敵でくたばるわけがなかろう」

少しだけ笑って桂さんは血の付いていない手の甲で私の頬を撫でる。

 

 

「はーはいはい、そこ感動の再会シーンしない。そういうのは俺があとでやるから」

私と桂さんの間に割り込んできた銀さん。

 

「銀ちゃんそういうとこ空気読めないからに嫌われるネ」

ぺっと倒した天人を放り投げて神楽ちゃんが冷めた目を向ける。

 

「うるせーな!嫌われてねーよ!…アレッ、そうだよね?ねっ?」

「あー、まあ、うん」

「歯切れ悪ィィィ!」

「あんたら今の状況をもう少し理解しろォォオ!」

 

新八くんのツッコミでハッと我にかえる。

危ない危ない、そういうノリは戻ってからにしなきゃ。

 

 

「つーかヅラ、どーしたその頭。失恋でもしたか?」

すっかり短くなってしまった桂さんの髪を顎で指しながら言う。

 

「だまれイメチェンだ。貴様こそどうしたそのナリは。爆撃でもされたか?」

ぼろぼろになってる銀さんと背中合わせになり、敵との間合いを取りながら桂さんは刀を構える。

 

「だまっとけやイメチェンだ」

「どんなイメチェンだ」

確かに。どっちかといえばイメチェンに失敗した人だ。

 

 

ざっ、と攘夷派の人たちが桂さんを守るように立つ。

「桂さん、ご指示を!」

「退くぞ」

「えっ?」

間髪入れずに言った桂さんに、攘夷志士の人たちのざわめきが聞こえた。

 

 

「紅桜は殲滅した。もうこの船に用はない。うしろに船が来ている、急げ」

 

「させるかァァ!」

「全員残らず狩りとれ!!」

桂さんの声に反応するように、天人たちが襲いかかってくる。

しかしその手は私たちに届くよりも遥か前で、止められる。

 

 

「退路は俺たちが守る」

 

「いけ」

 

 

銀さんと桂さんの低い声が戦場に響く。

押し寄せてくる天人を次々に斬り倒していく二人。

 

「しかし…」

「銀さん!!」

二人だけ残していくわけにはいかない、そう言いたげな攘夷志士の人たちと新八くんの声がこぼれる。

するとエリザベスがたじろぐ新八くんと神楽ちゃんを小脇に抱えて船の方へ走りだした。

 

 

「わっ、離すネエリー!!」

じたばた暴れる神楽ちゃんをしっかり抱えてエリザベスは船へ戻る。

それを見た攘夷志士の人たちも後ろ髪を引かれながら船へと走り出した。

 

 

!」

「!」

どしゃりと倒れた天人の向こう側にいる銀さんから名前を呼ばれ、顔を向ける。

 

「今度はちゃんと話聞く!つーかむしろ俺が聞きたいことだらけだ!」

落ちていた刀を拾い上げて迫りくる天人に向かって斬りつける。

 

 

「だから、あいつらと待ってろ」

余裕なんてないはずなのに、にやりと懐かしい笑顔で言う。

 

 

「…うん、待ってる。私も話したいことがいっぱいあるの、だから、ちゃんと待ってるよ!」

「んじゃ、さっさと片づけて行くから大人しくしてろよ!」

キィンッと刀が当たる音にかき消されず届いた言葉に大きくうなづく。

 

「うんっ…早く戻ってきてよ!銀さんっ!」

 

 

おう、という返事と共に銀さんはまた真剣な顔で退路を守る。

背後からぺたぺたと足音が聞こえ、急いでください、という板を持ったエリザベスに手を引かれて走り出す。

 

 

 

走りながら後ろを少しだけ振り返る。

「高杉さん…。また一緒に笑えますよね…?」

 

呟いた言葉がエリザベスに聞こえていたかは分からない。

 

私はぎゅっとエリザベスの手を握り直して春雨の戦艦を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

紅桜篇が終了直前です。

短めですがキリがいいのでここまでで一区切り。

2011/08/04