「じゃ、じゃあ私ってまだスナックすまいるで働けるんですか!?」

「ええ。私が店長に脅し…お願いしていたから」

「………ありがとう、お妙さんっ!もう急にいなくなったりしないから」

「何かあったら私に相談してくれればいいのよ。一人で抱え込まないでね、ちゃん」

「お、お妙さああんっ…!!」

 

「あああああ!!いい!もういいって!早い!お前にはまだ…」

「何勝手に動いとんじゃああああ!!!!!」

 

 

 

 

第9曲 帰る場所を決めました

 

 

 

私とお妙さんの感動のシーンは、銀さんの断末魔というか悲鳴にかき消された。

そりゃあ、目の前に長刀を突き立てられれば悲鳴も出るものだ。

 

 

ただいま私たちは、志村家にお世話になって銀さんの療養をしています。

私の状況についても一応話せる部分は説明したんだけど、まあ、皆ポカンとしてたなあ。

 

 

「もぉー、銀さんったら何度言ったらわかるの。そんな怪我で動いたら今度こそ殺死にますよ」

「え、今何て言ったの、活字の限界を超えてた気がするんだけど。俺の耳がおかしいの?」

にこにこと笑っているお妙さんの手に握られている長刀から視線を逸らさぬまま銀さんは言う。

 

「わ、わかったから。動かないから、ちゃんに会わせてください」

銀さんの声に、私の足は銀さんが寝てる部屋の隣の部屋でぴたりと止まった。

といっても襖は開きっぱなしなのでモロに見えるんだけど。

 

 

「あ、さん。さっきから銀さんが駄々こねてるんで、ビシッと言ってきてやってくださいよ」

「えーと、あー…うん…」

お煎餅を食べつつ雑誌を見てる新八くんの向かい側にとりあえず座る。

 

 

 

私はこことは違う世界から来たということ。

そして掃除用具倉庫の扉から、ここへ来て戻って…またここへ来た、という複雑な話を昨日した。

ポカンとしてたあたりで、信じてもらえないかと思っていた。

けれど、皆、まあそういうこともあるんじゃね?というノリで受け止めてくれた。

そんなもんなのか。そんなもんでいいのか。

 

 

今まで色々勝手に悩み塞ぎ込んできた分、なんかこう…顔を合わせ辛いというか、緊張する。

特に銀さんとは、私が元の世界へ行く寸前まで会っていたせいか、すごく緊張する。

銀さんはそういう緊張とかしてないみたいだけど、とにかく私は緊張するんだから仕方ない。

 

 

 

ッ!ちょ、おま、お前だけがここにいる普通の人間なんだ!た、助け…」

「動くなっつっただろうがァァァ!!」

「ア゛ーーーーッ!!!」

ビュッと長刀が風を切る音がして、銀さんの悲鳴が再び聞こえた。

それと、さっき床下からも音が聞こえた気がするけど…まさか…。

 

 

ー!」

ぽす、と私に抱きついてくる神楽ちゃんの感触も久しぶり。

がいない間、いろんなことがあったネ!いっぱい、いっぱい教えてあげるアル!」

「神楽ちゃん…うん、色々お話聞かせてね」

そう言うと、神楽ちゃんは「お互い様アル、の話も聞きたいネ」と言って膝に頭を下ろした。

 

 

「ああぁあああ!てめっ、神楽!何してん」

「動くな、って言ってるのがわからないんですか…銀さん…?」

お妙さんの背後に、すごいオーラが見える。既に銀さんの顔は真っ青だ。

 

「銀さん、しばらく大人しくしておいた方がいいですって」

はあとため息を吐きながら新八くんは雑誌を閉じる。

 

 

 

さん、僕たちはさんがこの世界の人じゃないとか、そんなこと気にしてませんから」

新八くんがそう言って笑うと、神楽ちゃんも小さくうなづいた。

 

さんにとっては、ええと…向こうが帰る場所なんだから、おかえりなんておかしいのかもしれませんけど…」

「ううん」

新八くんの言葉を遮って、首をふる。

 

 

「新八くんや、神楽ちゃんがいいって言ってくれるなら…私、ただいまって、言いたい」

「「………」」

二人はぱっと顔を見合わせ、そしてにっこり笑う。

 

 

「おかえりなさい、さん」

が帰ってくるのは今もこれからも、万事屋銀ちゃんアル!」

 

心に温かいものが溢れてくる。

私の膝に頭を乗せて寝転ぶ神楽ちゃんの髪をそっと撫でながら、新八くんの目を見て笑う。

 

 

 

「ありがとう、新八くん、神楽ちゃん…っ!、ただいま帰りました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいや。お前ら何してんの、そこだけ何感動のシーンやってんの、何で俺おいてけぼりなの!?」

「何言ってるんですか。本当なら私だってちゃんとお喋りしたいんですよ」

にっこりと笑ったお妙さんに銀さんの顔が引きつる。

 

 

「くっ…かくなる上は…ッ!」

ぼそりと何かを呟いた銀さんの鋭い目がこちらを向く。

そして庭の草むらに向かって指をさし、叫ぶ。

 

「あんなとこに侵入者が!!」

 

銀さんの声に勢いよく庭へと視線を向けたお妙さん。

その隙に布団を跳ね飛ばすようにして走り出す銀さん。

そして何故か掴まれた、腕。

 

…え?

 

 

「行くぞっ、!」

「え!?はぁっ!?えええ!?」

 

意味が分からないまま半分引きずられるようにして部屋から連れ出される。

なんだか引ったくりにあった荷物の気分だ。

 

 

「動くなっつってんだろうがァァ!新ちゃん、要塞モード…ONよ!!」

「ふぁい」

 

 

 

「銀さん、銀さん!待って、なんか今不吉な声がした!要塞モードとか聞こえた!」

「あの女は一体何を作ってんだよ、道場復興すんじゃねーのか!」

次々と封鎖されていく家の門、そしてどこからともなく出てくる竹槍。

お、おかしいなあ…前遊びにきたときはこんなんじゃなかったはずなのになあ…。

 

「遠い目してる場合じゃねーよ、とりあえずこっち逃げるぞ!」

怪我をしている人の動きじゃない素早さで銀さんは倉庫裏へと私を引っ張り込んだ。

 

 

 

遠くで銀さんを殺…いや、探そうとしている声が聞こえる。

「ったく、なんでこんな目に…」

「それ私の台詞なんだけど」

未だ掴まれたままの腕を上げてゆらゆらと振ってみる。

 

 

「…悪ィ」

呟いた後、腕は解放されるものだと思っていたけれど、銀さんの手はするりと下がって私の手をぎゅっと握った。

 

「離したくねえ」

 

え、と声を零して銀さんの顔を見る。

月明かりを背に立つ銀さんが、妙に儚げで綺麗で…声が、出なかった。

 

 

「本当にもう、消えたりしねーんだろうな。お前の帰る場所は、この世界っつーか万事屋でいいんだよな」

こくり、と頷いてから息を吸う。

「うん。私はここにいたい、ただいまって言って万事屋に帰りたい」

「…そうか」

私が笑うと銀さんはほっとしたような、安心したような笑顔を一瞬浮かべた。

 

 

「まあ、がいねーと掃除当番とかもすぐ回ってきちまうしな。しょーがねーから、また住ませてやるよ」

「…ふ、あはは、頑張って働くから…今日からまた、よろしくお願いします」

思わず声を出して笑ってしまうと、銀さんは「何笑ってんだよ」と言って頭を掻いた。

 

 

「っと、そういや一つ聞きたいことがあったんだ」

「何?」

少し躊躇うようにした後、銀さんは小さな声で言う。

 

「お前、いつからあいつと…」

 

 

「見ィーつけたァァ!!」

「観念するアル天パァァァ!!!」

 

どこからともなく四方から現れた、お妙さんと神楽ちゃんと…それから近藤さんとさっちゃん。

 

 

「え、は、ちょっと待てェェェェ!!」

叫ぶと同時に銀さんが踏み出した足元の地面がぼこりと凹む。

引きずられて落ちる、と思った瞬間。

ぐいっと後ろから誰かに腕を掴まれ、私の体はその場から数歩離れた場所へと移動した。

 

 

 

 

「あー…ええと、大丈夫?」

「や、山崎さん…!?」

山崎さんは真選組の隊服じゃない、忍者のような格好で私を横抱きにしたまま落とし穴の方から私に視線を移した。

 

「最近姿が見えなかったから、心配してたんだけど…元気そうでよかった」

「は、はい。おかげさまで。もうちょっとで元気じゃなくなる所でした」

落とし穴から聞こえてくる断末魔は銀さんだけのものじゃない。おそらく、さっきの全員分だ。

 

 

「じゃあ俺はやることも済んだし、屯所に帰るよ。この辺りまだ危ないから気をつけてね」

「山崎さんも気をつけてくださいね。あと、助けてくれてありがとうございました」

お礼を言って、体を下ろしてもらう。

 

 

「あの…何も、聞かないんですか」

「聞いてほしいの?」

その言葉に口を噤むと、山崎さんはにっこり笑った。

 

「いいよ。言わなくて。ただ、副長たちも心配してたから、ちゃん見つけたことだけは報告しておくね」

こくりと頷いて、ありがとうございます、とお礼を言って山崎さんを見送った。

 

 

 

静かな月夜。夢現の世界に、ただいまと呟いて私は新八くんに救援を求めに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

紅桜篇終了!一話にまとめたら長くなってしまいました。

そしてさりげなくいいとこ持っていく山崎さん。

2011/08/26