「アンタぁぁぁ!いつまで寝てんのォ!ホントもォォ!!」
「何、ちゃん今日朝からどうしたのマジ勘弁して俺二日酔いなんだってば…」
「いや、銀さん、私こっち」
「ほらそっちの女の子は布団畳んで!テキパキ動く!」
「え、あ、はいっ!」
第12曲 人探しは案外大変
朝起きたら、見知らぬ女の人がいた。見た感じ、誰かのお母さんみたいな風貌の人だった。
その人に促され目をこすりながら起きてきた神楽ちゃんと、ぐったりしている銀さんを前にソファに座る。
おはようございます、と言って万事屋へ来た新八くんは私の隣に座って皆で朝ごはんを食べ始めた。
「…あの、銀さん。誰ですか、アレ」
「アレだろ。母ちゃんだろ」
当然のように言いながら銀さんは焼き鮭に箸を伸ばす。
「え?僕の母さんは物心つく前に死にましたから、銀さんのお母さんですか?」
「いやいや俺家族いねーから。のだろ、スイマセンね、なんか」
「違うよー。私の家族だってここにはいないし。神楽ちゃんのお母さんじゃないの?」
「私のマミーもっとべっぴんアル。それに今は星になったヨ」
もぐもぐとご飯を食べながら朝特有の低いテンションで話す。
なんだかすごいぶっちゃけた話をしているけど、朝ゆえに頭がまだうまく動かない。
ずず、と味噌汁を啜っていると居間の戸がガラッと勢いよく開いた。
「もの食べながらしゃべるんじゃないの!ちゃんとかむんだよ!二十回かんでから飲み込みな!」
ピシャン、と勢いよく閉まった戸。
「……」
いち、に、さん、と数えながら朝ごはんを食べる。
…あれ、おかしくね?この状況。
みんなの頭がやっと働きだした頃。
パーマのかかった髪に眼鏡をかけて、万事屋でお母さんをしていた人は八郎の母ちゃんだと名乗った。
いや八郎って誰だよ、という銀さんのツッコミへの返答はここ数日きていなかった依頼だった。
五年前に江戸に上京してから音信不通になっている、八郎という息子さんを探してほしいとの依頼。
お母さんの持ってた写真を頼りに私たちは町で聞き込みを始めることにした。
とりあえず一番身近な情報通、お登勢さんに話を聞くことになった。
「名前なんざこのかぶき町じゃあってなきようなもの。名前も過去も捨てて生きてる連中も多いからねェ」
残念ながら収穫は無し。
お母さん曰く、トレジャーハンターになると言って家を出た八郎さんを探すため私たちはかぶき町へ向かった。
「つーか見つかるわけねーっつの。かぶき町どんだけ広いと思ってんだ」
銀さんと一緒に聞き込みをしていたが、やっぱり収穫はゼロ。名前もお登勢さんの言うとおり変わっているのだろう。
「…あー。あのさ、銀さん。ふと思ったんだけど…顔変えてるってことはないかな」
「顔?」
顔、か…。と呟いて少し歩調を遅くし、考えるように口元に手を当てた銀さん。
しばらくすると銀さんは、可能性はあるな、と言って落ちていた歩調を戻して歩き始めた。
向かった先は町医者、ホワイトジャック。
外で待っているように言われたので壁に凭れて行きかう人を見ていたけど、息子さんらしき人は見当たらなかった。
階段を下りる音が聞こえてくるのと同時に神楽ちゃんと定春、そして新八くんとお母さんが集まってきた。
「こっちはダメでした」
「私もダメネ。これ、オバちゃんの匂いが染み付きすぎて定春鼻おかしくなってしまったアル」
くしゃみをする定春を撫でて神楽ちゃんはひらひらとお母さんが持ってきたハンカチを揺らす。
「俺も情報屋あたってたんだがな。が顔変えてんじゃねーかっつーから聞いてみりゃビンゴだよ」
銀さんの話によると、どうやらここだけじゃなく色々なところで整形しているらしい。
これじゃ貰った写真はもうアテにはならない。
「どうする?もう探す手がかりが無くなっちゃったようなものだし…」
「の勘でなんとかならねーの?」
「無理」
いや、正確には無理じゃないけど…うん、さすがに、駄目だろう。
銀さんたちには私が違う世界の人だと伝えたけど、漫画の存在は伝えていない。
そんなややこしいことを説明する自信はサッパリ無かった。
「ま、顔変えてるっつっても骨格までは変わらねーだろ。大体こんな感じじゃねえの?」
そう言って懐から取り出した黒マジックでキュキュッと写真に髪を書き加えていく。
「え、それ整形っていうより育毛じゃないの?」
「じゃあ私がやるアル!」
キュキュッと神楽ちゃんの手によって書き加えられていく、眉毛やら鼻毛やら。
「いやそれもう教科書の落書きじゃないですか。どうやって修復するんですか」
「こっからこうカバーすればいいネ」
「そんでここをこう…アレッ、これちょっといくね?オイ」
銀さんと神楽ちゃんによってどんどん写真に追加がされていく。
モッサリアフロヘアーに繋がった眉毛、何か真拳極めてそうな鼻毛に濃い目元。
「ああ、そうですね。お台場あたりに結構…いねェェェェェよ!!!どこにもいねェよ!いても外出てこれねェよ!」
新八くんの全力のツッコミだった。
「それにこれ、整形っていうよりも増毛って感じだよね」
「そうですよ!さんの言うとおりですよ!こんな人絶対いませ…」
新八くんのツッコミの途中で、携帯電話であろうものの着信音が聞こえた。
みんなでふとその音の方向に目を向ける。
「オス、オラ八郎。あ、ハイ、今からお迎えに参りますんで」
モッサリアフロヘアーに繋がった眉毛、何か真拳極めてそうな鼻毛に濃い目元…。
あれ、なんかついさっきそんなような人の話をしてたよね。
皆で顔を見合わせ、銀さんの手にある写真と電話をしている人を見比べる。
どうみても、同一人物。
「い、いたァァァァァ!!!」
「マッ…マジでかァァ!?いっ、いたぞオイぃぃ!!」
「えーと、ぎ、銀さん!とりあえずお母さんに連絡連絡!」
キョロキョロと辺りを見回してみたが、さっきまでいたお母さんが見当たらなかった。
「、あっちあっち。ギャルとメンチ切り合ってるアル」
「うっわあああ」
松尾と清の店の前でギャルにガンを飛ばしているお母さん。
「チッ、あのババアは俺がなんとかする!お前らは八郎を追え!」
「「「ラジャー!」」」
私と新八くん、そして神楽ちゃんの三人はダッと走り出し、八郎さんの後を追った。
どこに行ったのかと周りを見渡すと、やけにきらきらした着物とオーラを纏った人が目に入った。
「…ね、ねえ新八くん、神楽ちゃん。あれ見て」
キラキラのお兄さんのいる方向を指差す。
「八郎さんいましたか…ってうわ、なんですかねあれ」
「キラッキラアル」
ぽかんとしていると、町の女の子の黄色い声が響いてきた。
「ねえ、あの人って狂死郎様よね!なんでこんなところにいるのかしら!」
「キャー!八郎様もいるわよ!」
「まさかこんなところでかぶき町NO1ホストが見られるなんて…!」
あのキラッキラのお兄さんはともかく。そっか…ホスト、かあ。
私たちはじっと顔を見合わせて、その単語を頭の中で反芻させる。
「「「ホ…ホストォォォォ!?!?」」」
あとがき
どこで切ろうか悩んだ挙句、中途半端なところでぶち切りました。
2011/11/06