「腹 立つんですけどォ!すかしやがってホントムカつく奴らだよ!あんな奴に絶対お妙さんはやれん!」
「いや、アンタのものでもないですけど」
「ヒートアップしてるとこ 申し訳ないけど、こっちの大将決めましょうよ。私的には新八くんがいいかと思うんですが」
「そうですよさんの言うとおり早く大将…って僕ぅぅぅ!?」
第3曲 大将は君
柳生家の人たちから受けた 挑戦の内容は、柳生屋敷全体を使うサバイバル戦。
小皿を自分の身体のどこかに身につけ、それがいわゆる戦の首と なる。
大将の首、つまり皿を先に割られた方が負け、というルールらしい。
ち なみに私は皆のサポート役ということで参加することになった。
正直なところ、この戦いに参加はしたくなかった。だって怖いよ 向こうの人たち!
そんなことを言ってこの空 気に水を差すわけにはいかず、大人しく参加するしか道は無かった。
とりあえず大将は新八くんということに決まり、今は首の代わり となる皿をどこにつけるか相談中である。
「はどうしやすかい。土方さんは負けるつもり一切ないんで眼球につけるらしいでさァ」
「オイ眼球えぐり出され てーのかてめーは」
土方さんの顔っていうか目に皿を括りつけた布を縛りながら沖田さんはこちらに目を向ける。
そういえばそうだよね。 皿…うわ、どこにつけても怖いなあ…。
「!私スゴイ事考えたアル!足の裏!コレ歩いてたら見えなくね?これなら絶対気付かれないアル!」
そう言って神楽ちゃんが振 り上げた足を地面に下ろすと同時に、パリンと切ない音が鳴った。
「お 前何してんだァァァ!!勝負始まる前に皿粉砕って!」
ぺしんと神楽ちゃんの頭を叩いて、予備の皿貰ってきなさいと銀 ちゃんが叫ぶ。
「待て、こんな敵地で単独行動は危険だ。近藤さんは大将の守備、こっちは二手に分かれて相手を狙うぞ」
土方さんの言うとおり一人 で行動するのは危ないのでその意見に賛成した。
「で、は皿どうしたんだ?」
インナーの胸元あたりにお皿を縛り付けた銀さんにそう問われ、 私はスカートの上から太腿をなぞる。
「銀さんたちみたいに着物じゃないから…とりあえず見えないと こにしようと思って、ここに」
生憎着物ではなく学校の制 服を着ているので懐とかに入れるわけにはいかない。
なので太腿あたりに縛っておくことにした。これなら上からス カート被って見えないし、大丈夫だよね。
「は!?太腿かよ!ちょ、え、いつの間に?ちゃんと縛れてるか 俺が確認してやっからちょっと…」
「勝負前にさんにセクハラしてんじゃねええええ!!」
銀さんが私のスカートに手を伸ばした瞬間、新八くんの飛び蹴りと 言う名の制裁をくらって銀さんはその場に倒れた。
「… 何かあったら…いや、何かある前に警察に相談しろよ」
「はい」
土方さんにそう言われて私はこくりと頷いた。
結局新八くんは近藤さんと、銀さんは沖田さんと一緒に柳生家の 屋敷に散って行った。
方や私と土方さんと神楽ちゃんはというと。
「す いませーん、ちょっとお皿貸してもらえますか?」
割れてしまった神楽ちゃんのお皿を貰う為、柳生家の女中さんに 声をかけていた。
「あら、ウチの門弟さん?こんないい男とカワイイ子いたかしら?何、宴会でもやるのかい?」
「そんなとこです」
ちょっ と待ってね、と言ってお皿を取りに行ってくれた女中さん。
そっか。こんなサバイバル戦やってるの…私たちくらいしか知ら ないのか。
しばらく待つと先ほどと同 じくらいの小皿を持って女中さんが戻ってきた。
「ほら、これ使え」
お皿を受け取った土方さん は神楽ちゃんにそれを差し出す。
「いやアル。しょう油ついてるネ。もっとキレイなのもってきて ヨ」
「じゃあ俺がしょう油皿使うからお前は俺の皿使え」
そう言って自分に縛っていた皿を解いて神楽ちゃんに差し出す。
「なんか…土方さんの対応が大人すぎてなんか泣きそうになって きた…」
思わず土方さんの着物の袖をぎゅっと握る。
「…なあ、お前すごい苦労してんじゃねえのか?大丈夫なのか?」
「大丈夫です、大丈夫ですけどなんかすごく今は土方さんの優し さがしみわたるというか…」
頼りになる人ってこういう人のことなんだろうな、っていうのをひしひしと感じる。
いや銀さんも頼りになるん だけどね、なんかこう…何か違うんだ…土方さんの包容力オーラとは何かが違うんだよ!
「わ、 私だって大人アル!大人だからしょう油皿でも我慢してやるネ」
ぎゅっとお皿二枚を胸元に括りつけて神楽ちゃんは庭の方へ歩き 出す。
あれ?二枚?
ふとお皿の数を疑問に思う と同時に屋敷の中央あたりから開戦の狼煙が上がった。
「ちょ、お前それ俺の 皿…ッ」
土方さんが伸ばした手と神楽ちゃんの間に、ドンッと柳生家の人の背中が見えた。
屋根の上にでもいたのだろ うか、上から降ってきたその人は先ほど屋敷で見た四天王の一人。
反射的に土方さんが私を庇うように体を押さえこむ。
「ハイ、まず一人目」
ゴッと木刀から物凄い音が鳴り、顔面を殴られた神楽ちゃんの体 は庭の池の方へと吹き飛ぶ。
「チッ、皿はし損じたか、だが」
ざばっと池の中から現れた人影が木刀を振り上げ、神楽ちゃんの 背中を殴り上げる。
「我等の連続技からは逃れられぬぞ」
ひゅっ と屋根の上に見えた人影が神楽ちゃんに向かって木刀を振り上げた。
しかし、その上に更に人影が見えた。
「オ イ。その娘やんなァ俺でィ」
ドガッと容赦なく柳生四天 王のひとりの後頭部に木刀を振りおろしたのは、沖田さんだった。
落ちるようにして地面に転がる神楽ちゃんと柳生家の人。
そっちに気を取られていた 私たちの前に立つ、最初に神楽ちゃんを殴り飛ばした人を土方さんが襖ごと蹴り倒す。
ばきばきと崩れる屋敷の襖 や壁の音と砂ぼこりにまぎれ、土方さんはそっと耳打ちするように顔を寄せた。
「いいか。ここは俺らでなんとかする、お前は…とにかくここから離れろ」
「土方さん…」
確かに私がここにいても足 手まといになるだろう。だったら。
「わかり、ました。私ちょっと情報収集に行ってきます。…気を つけて、くださいね」
「ああ。お前もな」
にっと笑って土方さんは木刀を一振りして握り直す。
この先の展開を知っていても、それを回避する方法が思いつかな い自分にもどかしさを感じながら
私は柳生家の屋敷内を駆け抜けて、お妙さんを探すことにした。
ど うか、皆が無事でいますように。
あとがき
お話書いてて、やばい土方さん超大人だ…って思いました。
小説書いてると普通に単行 本読んでた時よりガッツリ読むので感じ方も変わってくるのだと知りました。
2012/05/04