「きゃあああちゃん可愛い!!」

「や、あの、お妙さん、確かに着物着てみたいとは言ったけど」

「もー!なんでもっと早く言ってくれなかったのよ、あっ次こっちの桃色にしましょうか!」

「お妙さああん!」

 

 

 

第7曲 いつかは来るコト

 

 

 

九兵衛さん…九ちゃんとお友達計画を実行したあの日から数日たった今日。

お妙さんの家でほぼ丸一日、私の着せ替え会が行われた。

正直もうヨレヨレです。

ちなみに昨日は丸一日九ちゃんの着せ替え会。

今日は用事があるとかで九ちゃんは来られなかったのだけど、着せ替え会は実行された。

 

そして結局自分で着られそうにないので、もうしばらく制服生活をすることを決意した。

着物って難しいなあ。

 

 

 

 

 

夕方頃に解放されて万事屋に帰り、ソファに倒れ込もうとしたら先客がいた。

「…何してんの、銀さん」

「もう俺ぜってー忍者なんかはねねーよ。免許とり消しとかもうぜってーしねーよ」

 

ソファにうつぶせになってぐったり倒れ込んでいる銀さんはぼそぼそと忍者がどうとか呟いている。

誰だろうなあ。忍者の知り合いなんて…さっちゃんと服部さんくらいしか思い浮かばない。

あっ服部さんは私が一方的に名前知ってるだけだけど。

 

 

 

……一方的に。

そうだよね、私は元の世界で漫画読んでたから色々と知ってる。

 

 

けど、この先どうなるんだっけ。

 

 

 

「あああああ!!!しまったァァァ!!!」

「!?」

突然声を上げた私にビクッとした銀さんがぱっと顔だけこっちに向けた。

 

「な、なんだよ。急に叫ぶんじゃねーよ」

「あ、ご、ごめん」

訝しげに顔を歪ませる銀さんをスルーして私は銀さんが寝転ぶソファの向かい側に腰を下ろす。

そして机に肘をつき、組み合わせた手におでこを押さえつけるようにして考える体勢を整えた。

 

 

 

やばい。私の中の、原作ストックが尽きた気がする。

今まではそれなりに話を知ってたから勘だよ!とか言って多少の無茶はできた。

けれど今後は完全なる無知状態だ。さっぱりわからん。

 

 

くっ…溜め込んだ漫画を一気読みしたせいかほとんど記憶に残っていない。

銀さんの免許停止…の話はなんかうっすら覚えがあるけど、あれ、この先どうなるんだっけ。

 

 

このままだと確実に私、死ぬ。逃げられる自信も無いし、戦う自信も無い。

今から鍛えると言っても、松陽先生に教えてもらったにも関わらず刀の持ち方しか覚えられなかったくらいだ。

いくらなんでも、無理だろう。

 

 

 

「ちょ、何だよ。急に叫んだり急に黙り込んだり…こえーだろうが、そういうのやめろよな」

「いやちょっと…考え事を…ね」

両手を頬にあて肘をついて小さく息を吐く。

いつの間にか起き上っていた銀さんはちらちらと私の顔を窺うように体を左右に揺らしていた。

 

 

「考え事ねェ。そういう時こそ、万事屋だろ。ほれ、言ってみろよ」

「………」

そうは言われても、どうやって説明したらいいものか。

 

「…えと、ちょっと頭整理してくる!」

「は?」

「夕飯までには帰る…絶対帰るから!」

がたんっと机に手を突いて立ち上がり、ポカンとする銀さんを置いて玄関へ走る。

 

 

「あれ、さん今からおでかけですか?」

「あ、新八くん神楽ちゃん定春、おかえり!ちょっと出かけてくるね!」

定春の散歩から帰ってきた二人と入れ違うようにして玄関から飛び出した私。

いってらっしゃいアル、と反射的に出たのであろう神楽ちゃんの声を背中で聞いて万事屋を後にした。

 

 

 

 

 

いつの間にか暗くなった空の下、人気の少ない橋の上。

橋の欄干に手をかけて、無意識にここへ来ていたことに気付く。

 

「……」

ひゅうと昼間よりも冷たくなった風が頬を撫でていく。

そうだ、いつもこういう時はあの人がいた。

いつも私が悩んでる時に、どうしたらいいのか困ってる時にふらっと現れてくれる人が。

 

 

すっと目を閉じた瞬間、ぽんと左肩に乗せられた温かい手。

まさか、と息が止まりそうな感覚のまま手の方を振り返る。

 

「高杉、さ……」

 

 

「……ざーんねん、銀さんでした」

 

 

 

振り返った先の銀さんは声音は変わらずとも、どこか辛そうな笑顔だった。

同時に離れていく肩の温もり。

 

 

「あ…わ、ごめん、なさい、違うの、今のは、その」

何が違うのだろう、私は何を言えばいいのだろう、待って、待って、待って。

目を見開いても視界が安定しない、がくがくと揺れる世界を見つめて私は一歩後ろへ足を動かす。

 

 

「…ッ、!!」

叫ぶように私の名前を呼んで銀さんは手を伸ばす。

痛いほどに掴まれた右腕を引かれてその胸に顔をぶつけるほどの勢いで抱きしめられた。

 

 

「は、離してっ」

ぐっと顔を反らせて銀さんの腕から抜けようともがく。

「いやだ」

「お願いだから、今は」

心の整理ができてないの、だから離してとぐっと銀さんの身体を押し返す。

 

「いやだ」

「い、いなくなったりしないから、離して」

「嫌だッ!!!」

 

ビクッと肩が震えた。

さっき名前を呼ばれた時の声量とは比べ物にならないくらいの大きな声が頭の奥でまだ響いている。

 

 

ぎゅっと後頭部を押さえられ、銀さんの身体に頬が当たった。

「…違うんだ。お前を信用してないわけじゃない、いなくならないって約束したもんな」

私の視界には橋の欄干と光り出した星、そして遠くで光るかぶき町のネオンしか無い。

「怖がらせようと思ったわけでもねーんだ、だから」

逃げるな、と掠れた声が耳元に響いた。

 

 

 

 

ずるりと重力に従うように添えていた手が落ちる。

「…俺には相談できないことなのか、俺じゃ力になれねーのか」

 

 

 

 

「うん」

 

「ちょ、お、ええええええ!?普通そこはそんなことないよ銀さん…!じゃねえの!?」

私の両肩を掴んで体を離した銀さんの引きつった顔と視線が絡み合う。

あと私の声真似をしないでもらいたい、私そんな風に言わないから。

 

 

「世の中そんなに上手い事いかないんだよ銀さん」

「だって流れ的にそんな感じだったじゃん、ちょっといい雰囲気になりそうだったじゃん、空気読めよ!」

そうは言われても、実際こればかりは相談するにできないことなのだ。

 

 

 

「空気を読むのは貴様だ銀時」

ピシッと一閃のように響いた声の方へ銀さんと同じタイミングで顔を向ける。

 

 

「何やってんだよヅラ。お前こそ空気読めよ」

「ヅラじゃない桂だ。貴様、いくら夜とはいえ野外でに迫るとは…そんなだから天パが治らんのだ」

「病気みたいに言うんじゃねーよ」

確かに時間帯こそ夜だけれど、ここは外。人目にもつくわけで。

他に誰かに見られてはいなかっただろうかと今更羞恥心が湧きあがってくる。

 

 

「いいかエリザベス、侍たるものこんな風になってはいかんぞ」

こくりと頷き、そうですね桂さんというプラカードを出すエリザベス。

「迫ってねーっつの」

「迫っていただろう。じゃあなんだ、痴話喧嘩か」

「違います!!!」

「なんでそこだけ否定早いのちゃん」

なんでと言われても、なんとなくとしか返せない。

 

 

 

桂さんとエリザベスが来たことで吹き飛んだシリアスな空気。

思わずくすりと小さく笑うと銀さんは複雑そうな顔をして頭の後ろで手を組んだ。

 

「ちくしょー、なんかの悩みをかっこよく解決してやろうとしたのにヅラに邪魔された気分だ」

「責任転嫁をするんじゃない。…ん?、何か悩みがあったのか?」

エリザベスのプラカードにも大丈夫?と書かれていて、私は慌てて両手を左右に振る。

 

 

「あ、大丈夫です、その…ちょっと先のことが不安になってしまっただけで」

非戦闘員である私がこの先も生きていけるのかどうかということが、不安になって。

そう小さく呟くと桂さんは一瞬キョトンとしてから不思議そうに私を見た。

 

 

「ふむ、不思議なことを言うのだな。…先の事など誰にもわからんものだろう」

なあエリザベス、と同意を求めるとエリザベスもこくりと頷いた。

「誰にも予想できないことだ、不安なのはだけではないのだから心配することはない」

ふっと自信ありげに笑って桂さんは腕を組む。

 

 

「それに無理に戦うことはない。刀を振るうのは俺達に任せておけ、にはにしかできないことがあろう?」

「私に、しか…?」

「ああ。屈強な情報網があると聞いたぞ。攘夷志士にスカウトしたいくらいだ」

確かに知り合いや友達は多いかもしれない。

真選組の人たち、スナックの皆、桂さんたち攘夷志士、柳生家の人たち…そしてお登勢さんや万事屋の皆。

 

 

「誰がやるかよ。こいつは俺の……ウチのだからな」

「なら銀時も一緒に攘夷志士に入ればいいだろう。歓迎するぞ」

「お前馬鹿だろ、そういう意味じゃねーよ」

銀さんと桂さんの言い合いを聞きながら、ぐるぐると桂さんの言葉を脳内に巡らせる。

 

力になれるだろうか、銀さんたちの役に立てるだろうか。

悩んでいても答えは出ない、やってみなければ…分からない。

 

 

 

「だーっ!もう帰るぞ!こいつ人の話全然聞きやしねえ!」

ぐっと引かれた手で我に返る。

 

「あっ、あの…銀さん」

呼びとめた声に振り返った彼の目をじっと見て、声を絞り出す。

 

 

「…私の、その、勘が働かなくなって戦うこともできない役立たずになっても…万事屋にいて、いいですか?」

 

しばらくの沈黙の後、銀さんはふうと一息吐いてから私の頬を包むように両手を添えて目線を合わせる。

 

「役に立つとか立たないとか関係ねーんだよ。はもう、万事屋にいるのが当たり前の存在なんだよ」

「うむ。がいないと銀時の生活はボロボロに崩れそうだしな」

「お前今いいとこなんだから横からそういうの挟んでくんなっつーの」

桂さんにそうツッコミ返して銀さんは雰囲気がなんとかかんとか言いながら舌打ちをする。

 

 

「とにかく!お前は万事屋に、俺の隣にいりゃいーの!」

わかったか、と強く言われて反射的に大きく頷いてから顔を上げる。

ニッと笑った銀さんに私もふにゃりと笑い返した。

 

 

 

「危ない時は俺が護る。それが無理そうな時は、一緒に逃げる。だから心配するな」

 

小さく耳元で言われた言葉に、私はありがとうと返しながら頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ヒロインの中で好感度メーターが他の人よりちょっと高いのが銀さん。

頼りがいメーターがずば抜けて高いのが高杉さん。たまに良い事言ってくるのが桂さん。

2012/10/13