「そーですか、ついに姉上も結婚…じゃあ今回は嫁入り先に挨拶も兼ねて?」

「ええ、しばらく江戸に逗留するからいつでも会えるわよ」

「本当ですか、僕嬉しいっス!」

「ふふ、ああそうだわそーちゃん。あなたこっちに悩みの相談できる親友はちゃんといるの?」

「………ええ、まあ」

「そう、じゃあ彼女もできたのかしら」

「………」

 

 

 

第10曲 家族に見栄を張りたいお年頃

 

 

 

 

「あー旅行行きたいアル、また宇宙旅行とか行ってみたいアル」

「あほか、うちにそんな金ねーよ」

ソファでごろごろ転がりながら言う神楽ちゃんに銀さんは現実的な理由をつけて却下する。

 

 

「懐かしいねー、前は神楽ちゃんが商店街の福引で当ててくれたんだっけ」

「うおおお!また引き当てろ私の右手ェェェ!」

「うるせーよ!俺の読書タイムを邪魔すんじゃねえ!」

「何が読書アルか!ジャンプ読んでる奴に読書なんて言われたくないネ!」

んだとコラァァと威嚇し合う二人を見ながら、平和だなあと思っていた。

 

 

「あーもう、折角掃除したのに散らかさないでくださいよ」

肩を回しながら洗濯物を干し終えた新八くんが私の向かい側のソファに座る。

その傍でふわあとあくびをする定春。

うーん、平和だ。

 

 

そう思っていると、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

「…新聞の勧誘はお断りだっつの、居留守居留守」

「ですね」

「そうアルな」

ぴたりと動きを止めて小声になる三人。

こういう時だけは妙に団結するんだよね。

 

 

しばらく息をひそめていると、ダンダンッと扉を叩く音が聞こえてきた。

「…新聞の勧誘にしては激しすぎない?」

「そういえばそうですね」

うーん、と新八くんが顎に手を当てて考えた時だった。

 

 

ガラララ、と扉の開く音がした。

「…鍵、かけてなかったんですか」

「やっべ」

「どどど泥棒だったらどうするの!」

「大丈夫ネ、うちに持っていけるほどの金品は無いアル」

「そっか」

そこ納得すんなよ、と小声で銀さんにツッコミを入れられた。

ちなみに新八くんはツッコまなかった。

 

 

「まあ新聞屋さんなら私が断ってくるよ」

ガツンと言ってやれよ、という銀さんの声を背に受けながら玄関へ向かう。

…すごく平凡な想像で来ちゃったけど、まさか、ほんとに泥棒とかじゃないよね。

 

 

 

 

少しの不安を胸に玄関へ行くと、そこには随分と見知った顔があった。

「あれ、沖田さんだったんですか。どうしたんですか?万事屋に来るなんて」

珍しいですね、と言い切る前に思いっきりガシッと掴まれた手。

 

 

「オイオイ、勝手に人様ん家入って更にうちの子に手ェ出してんじゃねーぞサド警察」

 

ひょっこりと私の後ろから顔を出したのは、さっきまで居間にいた銀さんだった。

「…結局来たの?」

「いやほら、よく考えたらマジで泥棒だったらヤベーと思って」

わお、私と同じ思考回路してる。

 

 

なんて思っていると、沖田さんは無言で銀さんの手もガシリと掴んだ。

「え?なに?俺、男と手繋ぐ趣味なんてねーんだけ」

ど、と最後まで言い切らないうちに引っ張られる私と銀さんの手。

 

 

「旦那……ちょっと、ついてきてくだせえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大親友の坂田銀時くんと、彼女のちゃんで…」

「なんでだよ」

ガッシャァァン、と銀さんが沖田さんの後頭部を掴んで机に叩きつけた。

 

あの後、ついて来いと言ったのにどちらかといえば引きずられるようにしてファミレスへ連れ込まれた。

そこには綺麗な女の人がいて、その向かい側に沖田さんを挟むようにして座った私たち。

まって、状況が全然把握できない。

 

 

「えっと、どうしよう、何から説明してもらえばいいのかすらわからない」

「分かるのはひとつだ、こういう時はさっさと帰るぞ

ガタンと銀さんが席を立ったと同時に沖田さんは近くにいた店員さんに向かって手を上げる。

 

「すいませーん、チョコパフェとフルーツパフェ3つずつお願いしまーす」

 

 

 

 

「友達っていうか、俺としてはもう弟みたいな?まァそういうカンジかな。なァ、総一郎君」

「総悟です」

「初めまして、弟さんとお付き合いさせて頂いてますです」

 

買収されました。

だって、ここのパフェ美味しいんだもの。

 

 

「初めまして、そーちゃんの姉のミツバです。そーちゃんにもこんな可愛らしい彼女さんと素敵なお友達がいたのね」

あはは、と若干乾いた笑いを零す私と銀さん。

こっそり沖田さんに説明を求めた私たちに返ってきた答えは、とても簡素な答えととりあえず口裏を合わせろとのこと。

 

「でもお友達って、こんな年上の方と…」

ミツバさんの言うことも尤もだ、お友達と言うには少し歳の差がある。

 

「大丈夫です、頭はずっと中2の夏の人なんで」

「中2?よりによってお前、世界で一番バカな生き物中2?そりゃねーだろ鹿賀丈史君」

「総悟です」

名前の訂正をしながら沖田さんが銀さんの手の甲を抓ったのはしっかり目撃した。

 

 

ちゃんとはどのくらい付き合ってるの?もう長いのかしら?」

「いえ、それほどで」

「もう長い事付き合ってるんですけど、この通り照れ屋で人前じゃベタベタしたがらないタイプなんです」

今日は沖田さんに台詞を遮られてばかりだ。

 

 

「旦那もも、頼みますぜ。姉上は肺を患ってるんでさァ、ストレスに弱いんです」

「あー、だから心配させないために?」

そういうことでさァ、とコソコソ打ち合わせをしている私たちの視界の端でミツバさんが徐にタバスコに手を伸ばした。

見間違いかとも思ったのだが、ミツバさんはタバスコの瓶をひっくり返して、パフェに盛大にふりかけた。

 

パフェに。タバスコを。

 

 

「お姉さんんん!!コレタバスコォォォ!!!」

甘党銀さんにとっては信じがたい光景だったのだろう、全力でミツバさんへ向かって叫ぶ。

しかしミツバさんは半分くらい中身が入っていたタバスコを全てかけ切り、何食わぬ顔でスプーンを手に取った。

 

「そーちゃんがお世話になったお礼に、私が特別おいしい食べ方をお教えしようと思って。辛いものはお好きですか?」

「いや、辛いものも何も…本来辛いものじゃないからね、コレ」

銀さんに同意するようにこくりと小さく頷くと、ミツバさんはケホケホと咳き込んだ。

 

「やっぱり…ケホッ、嫌いなんですね、そーちゃんの友達なのに」

友達関係なくね!?と心の中でしか叫べなかった。

「好きですよね旦那」

そう言って銀さんの首に刀を突きつける沖田さん。

 

 

 

「アハハ…アレかも…好きかも、そういや」

「やっぱりいいですよね、辛いもの。食が進みますよね、私も病気で食欲がない時何度も助けられたんです」

「確かに、夏とか食欲が進まない時って辛いものがいいって言いますしね」

でも、いくらなんでもパフェは甘いままであってほしい。

 

 

「でもパフェ2杯も食べたから、ちょっとおなか一杯になっちゃったかななんて」

「ゲフッ、ゴホッゲホッゲホッ」

どんどん上擦っていく銀さんの声をかき消すように、ミツバさんが突然咳き込み出した。

 

「旦那アァァァ!!!!」

「ぎ、銀さん!!」

「みっ、水を用意しろォォォ!!!」

「ゲッホォォ!!!」

ミツバさんの喉が切れるんじゃないかという恐ろしい咳と共に赤い物が机に飛び散る。

…えっ。

 

「姉上ェェェェ!!!」

「ミツバさァァァん!!」

「んがァァァァァ!!!」

がたがたと席を立ってミツバさんに駆け寄る私と沖田さん。

そして遂にパフェグラスを手に、一気飲みする勢いでパフェを流し込んでいく銀さん。

あああ、辛そう…!

 

 

 

「姉上!姉上、しっかりしてくだせェ!」

「大丈夫ですかミツバさん!」

「あ、大丈夫、さっき食べたタバスコ吹いちゃっただけ」

 

ズシャアアアア、と銀さんが机に倒れ込んでいくのを見ながら、これは大変なことになったと思うのだった。

 

 

 

 

 

 

あとがき

ツッコミがいなくてツッコミが追いつかない。

2013/03/29