「おいこのクソ天パァァァ!!!」
「ぐげぶっ!げっほげほ、え、なに、なにこの凶暴な目覚まし」
「昨日銀ちゃんたちが帰ってきてから、がおかしいネ!なんか元気ないネ!」
「何やらかしたんですか、正直に言ってちゃんと謝ってきてください」
「なんでお前ら俺が悪いって決めつけてんの」
「「日ごろの行いのせいだろ」」
第14曲 平凡な日常の落とし穴
目が覚めた時、一番最初に目に入ってきたのは万事屋のソファだった。
いつの間に帰ってきたのだろう。
ソファで寝ていたせいか、少しだけ痛い体をゆっくり起こして洗面台へ向かう。
「…思ったよりは、普通の顔だなあ」
目が真っ赤になっていたらどうしようかと思ったけれど、どうやら杞憂で終わったみたいだ。
ほんの数日だったけれど、昨日まで一緒に笑っていた人にもう会えない。
死は、どの世界にいても変わらない。
当然のように、不意に、何の前触れもなくやってくる。
心のどこかで安心していた。
みんなは大丈夫、いなくなったりしないと安心していた。
「…いやいや、大丈夫、大丈夫。そんな急にいなくなったりしないよね」
寧ろいなくなってしまったのは私の方だ。
もう向こうに行くつもりはないけれど、こっち側の人がいなくなってしまうことは無いとは言い切れない。
生と死のルールは、どこにいても変わらない。
上げた頭が少し下がりかけた時、ばたばたと足音が聞こえるのに続いて洗面所に人が飛び込んできた。
「!今日、暇アルか!?」
「え、え?」
「たまには皆で散歩でも行きませんか、定春も連れて!」
神楽ちゃんと新八くんが詰め寄るように洗面所に入ってくる。
「よ、用事はない、けど…」
「じゃあ行こうヨ!銀ちゃんばっかりと一緒にいるのずるいアル!」
ぎゅっと私の手を握る神楽ちゃんは、なんだかいつもと少し雰囲気が違ってみえた。
「遊びたい盛りなんだよ、このお子様たちは」
ふあ、とあくびなのかため息なのか分からない声と同時に銀さんも洗面所の入り口に姿を現した。
「銀ちゃんに言われたくないネ」
「そうだよね」
「酷ェなオイ」
二人からの言葉の攻撃を受ける銀さんと、ふと目が合う。
「…ま、たまにはいいんじゃねーの。今日は仕事もねーし」
「それはそれで問題ですけどね」
新八くんのツッコミに頷きながら、私は今日やっと笑えた。
それから身支度を整え、ギリギリまでごろごろしていた銀さんを引きずるようにして万事屋を出た。
万事屋の中にいるときはよく分からなかったけど、外はとても良い天気だ。
定春に引っ張られながら、かぶき町をぐるりと歩いて回った。
途中で甘味屋や駄菓子屋に寄り道したり、公園で長谷川さんに会ってお話したり。
落ちていた空き缶で缶ケリもした。
神楽ちゃん発案の「蹴るときに日頃の鬱憤も叫んで一緒に飛ばすアル」というルールの元、二人は
「給料出せヨくそ天パァァァアアアアア!!!」とか「万事屋にいるなら家事やれ甲斐性無しィィィィ!!!」とか叫んだ。
私も、と二人に声を掛けられ「えっと、よ、夜中のいびきがうるさいよ銀さーん!!」と叫んだら銀さんが膝から崩れ落ちた。
ごめん、でもうるさいんだもん。
そして銀さんを除く3人と1匹がすっきりした所で、空は夕暮れの色に近づいていた。
「はー、遊んだ遊んだ」
「こんなに動き回ったの、久しぶりな気がします」
「楽しかったアル!私はまだまだいけるネ!」
私を真ん中にして夕暮れの道を歩きながら、後ろを振り返る。
定春を引っ張っていたはずの銀さんは、いつの間にか定春にくわえられてぐったりしていた。
「神楽ちゃん、あれほんとに大丈夫なの?」
こっそり耳打ちすると、神楽ちゃんは大丈夫と言って笑った。
「定春には、銀ちゃん食べたらお腹壊すって言ってあるから大丈夫アル」
「……うん」
大丈夫、なんだろうか。それ。
そんな話をしながら歩いていると、路地の近くに人だかりができていた。
何かあったのかと思いながら目を向けると同時に何台かパトカーがやってきた。
「空き巣とかですかね」
「昼間っから物騒アルな」
そうだね、と相槌を返しながらその場を通り過ぎようとした所でパトカーから人が姿を現す。
ただ、その人は私の予想とは違って、黒ではなく白い隊服をまとった人だった。
「はいはい、一般市民は下がってください。ここからは我々の仕事なので」
ざわついていた人たちが一瞬静まり、再び先ほどとは違ったざわつきをみせる。
「ああでも、そちらの方々」
ふとその人の目が私たちに移った。
神楽ちゃん、新八くん、そして銀さんから私へと視線が動き、無表情のまま言葉を続ける。
「少し、お話を聞きたいので我々と一緒に来てくださいますか」
「断る」
躊躇いなく返したのは、定春から解放された銀さんだった。
「俺らは何も見てねーし、今偶然通りかかっただけだ。なーんも情報もってねーよ」
ずいっと私たちの前に出た銀さんの口調は、いつもと同じめんどくさそうな感じだった。
ただ、なぜか、少しだけ心臓がざわついて右手につないだ神楽ちゃんの手をそっと握り直した。
「…あちらも、知り合いではないと?」
「あ?」
くいっと顎で示した方向に銀さんの顔が向く。
そして、小さな舌打ちをした後、くるりと振り返る。
「…まぁ、ちっとばかり話しゃ終わるだろうからよ、お前らは先に」
「いえ、そちらの方々も」
銀さんの言葉を遮るように口を挟んだ男の人に、銀さんは奥歯をぐっと噛みしめた。
「いいですよ、何も話せる事ないかと思いますが」
「さん…」
不安そうに名前を呼んだ新八くんに笑って返し、大丈夫と言う。
「…誤解しているようなので言っておきますが、犯人だと思っているわけではありませんよ」
言いながら片手を上げてパトカーを数台呼ぶ。
「もちろん貴方方以外の方にも話は聞きます。情報は大きさに関係なく、多い方がいい」
どうぞとパトカーへと誘導され、私と神楽ちゃん、銀さんと新八くんに分かれて車へと乗り込んだ。
あとがき
しばらく、オリジナル展開へと向かいます。
2014/06/07