「…悪いな、おめーは本来こんなところにいるべきじゃあねェ。

だが、俺は、どうしても…あの人を奪ったこの世界を許せねェんだ。

この世界をぶっ壊す。そのためなら、何だって利用してやるさ。

 

たとえ、お前であってもだ―――

 

 

 

第16曲 当たりたくない勘ほど当たる

 

 

 

 

日が暮れる前に聴取から解放された銀時、神楽、新八の三人は万事屋に戻っていた。

戻った、というよりは戻らされたといった方が正しいだろう。

 

「銀ちゃん、やっぱり私迎えに行くアル」

「そうですよ。こんな事件に関係ないはずのさんが一番遅いなんて…絶対おかしいです」

銀時もそれは思っていたのか、先ほどから貧乏揺すりが続いている。

 

 

3人は自主的に帰ってきたわけではなく、見廻組隊士に車で万事屋まで送り届けられた。

迷惑をかけたお詫びと言っていたが、どうもそんな気にはなれない。

「…銀さん、あの、被害者さんってお知り合い、ですか?」

静かすぎる万事屋の空気に耐えられなくなったのか、ぽつりぽつりと言葉がこぼれ出す。

 

 

「知ってるっつーか、まあ、ほんとに顔見た事ある程度だ」

どこで、と新八が聞く前に銀時は攘夷志士の奴だと告げた。

 

「くそ、気持ち悪ィ」

「拾い食いしたアルか」

「そうじゃねーよ」

 

この空気で何を言うんだと銀時が呆れた時、夜だと言うのにも関わらず万事屋のチャイムが鳴った。

「あ、はーい」

 

反射的に立ち上がった新八を制して銀時は自分が出ると言って玄関へ向かった。

電気を消したままだった廊下の明かりをつけ、扉を開く。

 

 

 

「…遅くまで配達たァ御苦労なこったな、郵便屋さん」

「いやー私もこんな時間は配達しないんですけどねェ。ウルトラ速達でって頼まれちまいやして」

坂田さん、で合ってますかと問う郵便屋の男から封筒を受け取る。

 

 

「そいじゃ、これで」

「あー、ご苦労さん」

かんかんと万事屋の階段を降りて行く音を聞きながら目は封筒に向けたまま、表と裏を確かめる。

 

「…ん?」

茶封筒の宛先の場所には、万事屋ではない住所が書かれていた。

「あのジジイ配達先間違えて…ねえ、か。坂田さんっつったもんな」

違和感を感じながら、しっかりと糊づけされた口を破り封筒をひっくり返す。

そこから出てきたものはふわりと重力に従い、銀時の手に引っ掛かるように落ちた。

 

 

「なんだこれ、リボン……ッ!?」

ぞわっと身体の奥底から寒気と吐き気がした。

ドッドッと心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が背中を伝って流れて行く。

見覚えのありすぎるそれを握りしめ、はっとしたように封筒の宛先に目をやる。

 

 

「……くそっ」

舌打ちと吐き捨てるようにそう呟き、銀時は居間へと走った。

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったですね、誰でした?」

「新八、神楽!」

二人に目もくれず銀時は叫びながら壁に立てかけておいた木刀を掴む。

その様子から二人もただ事ではないと感じとったらしく、一瞬にしてピリッとした空気に変わった。

 

 

居間から出る直前に振り返り、銀時は二人の目を見据える。

「いいか、今晩、絶対に誰もここに入れるな。何があっても、誰が来てもだ」

「ちょ、ちょっと待ってください銀さんはどこへ」

「わかったネ」

ぴょんとソファから飛び降りるように床に立ち、神楽は定春を呼ぶ。

眠そうにしながらもやってきた定春の頭を撫で、神楽は傘を肩に担いだ。

 

 

「は…随分と今日は物わかりがいいな」

「銀ちゃんがそれだけ余裕ないってことは、大体予想ついてるアル」

呆れたように、ばればれヨと神楽は笑う。

 

「こっちは任せるヨロシ」

ニッと笑った神楽に銀時は小さく頷く。

 

「朝帰りなんて許しませんからね」

ぎしっと床を踏み鳴らして新八も神楽の横に立つ。

 

 

「早く、帰ってきてください」

「…ああ。ガキに徹夜なんてさせるわけにもいかねーしな」

今更でしょ、と新八は小さく笑う。

 

 

そして行ってくる、と銀時は万事屋を飛び出した。

二人のおかげでいくらか落ち着いた心臓を一撫でして息を吸う。

握りしめたままのリボンを木刀にきつく結び、封筒をぐしゃりと握りつぶした。

 

 

「くそ、嫌な予感ってこれかよ…!どうせ当たるなら宝くじ当たれっつの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「晋助様」

窓辺に座る高杉に向かって飛ばされた呼び声に顔を上げる。

そっと部屋の戸を開けて中へ入った来島は高杉に目を向けたまま言葉を続ける。

 

「向こうの準備は完了したっス。あとは晋助様の声と同時に動くだけになってるっス」

「そうか」

短く返事をし、高杉はふうっと煙管から吸った煙を吐く。

来島はふわりと上っていく煙を見て、視線をすっと下げた。

 

 

「…そいつ、どうするつもりっスか」

高杉がいる窓辺から少し離れたところに横たわる女を顎で示す。

「私は、晋助様のこと信じてますから、その…」

「来島」

高杉の声にびくりと肩を揺らし、口を噤む。

 

 

「何も心配あるめぇよ。こいつは俺の弱みにはならねぇさ」

ククッと喉で笑ってはいるが、その眼は妙に鋭い。

 

「使えるもんは使う、それだけだ」

「…はい。武市変態…先輩は、猛反対してましたけど」

小さく笑って、来島は再び部屋の戸を開けた。

 

 

「では、私は手筈通り向こうで指揮をとってくるっス。…晋助様、どうか、ご無事で」

「そりゃ俺の台詞だろうが」

ふっと笑って高杉は目を閉じる。

静かに部屋の戸が閉まった音を確認してから、ゆっくりと目を開き立ち上がった。

 

 

ぎしりと建てつけが悪いのか床が音を立てる。

「…弱み、か」

ぽつりと横たわったままの女を見下ろしながら呟く。

 

「お前の答えなんざ、聞かなくても分かってる。甘ェ奴だからな」

引いてきた汗と規則正しく上下する胸に、安心に似た何かを感じて高杉は嘲笑った。

 

 

 

「さて、どうやって遊んでやろうか。なぁ銀時」

そう呟いて、楽しそうに笑う。

 

 

雲間から顔を出した、笑うような三日月が部屋を照らした。

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

ナレーション不足。

2014/10/19